翌日からの実習は松ぼっくりを拾い、なめし液を作ることに集中していた。
おかげでかなりの量のなめし液ができたし、失敗しなければ10枚の毛皮を作るだけの量は確保できたと思う。
そして、金曜日になり、午前中の授業を終えると、ランディと昼食を食べ、そのまま一緒に特別訓練施設に向かう。
すると、マリーとアメリアがすでに来ており、イーロイの木を眺めながら何かを話していた。
「お待たせ。何を話しているの?」
2人のもとに行くと、声をかける。
「なめし液の話。なんであんな木から毛皮をなめせる液体ができるのかなーって」
マリーが首を傾げながら答えた。
「タンニンっていう成分がね……あ、いや」
待てよ。
ここは確か……
「一緒に作る?」
「作んない。リンゴを一緒に買いに行かなくてもいいわよ」
ダメか。
所詮、僕のコミュ力はこの程度だよ。
「何の話ですの?」
「さあ?」
アメリアとランディが僕とマリーのやり取りを見て、首を傾げる。
「気にしないで。それで今日はスライムとウルフ狩りだけど、目途はついてるの?」
前世のことは説明できないのでスルーさせてもらい、早速、本題に入る。
「実習に戻っている奴らも多いし、今日は大丈夫だと思うからあっちの方に行こうと思っている」
「そうね。いいと思う」
ランディが左の方を指差すと、マリーも頷いた。
「僕らはここのことをよくわからないから2人に任せるよ」
「わたくし達はこの辺にしかいませんしね」
僕達はランディ、マリーを先頭にし、特別訓練施設の奥に歩いていく。
「今日は錬金術科の人達がいなかったわね?」
マリーが聞いてくる。
いつも入口付近にいたクラスメイト達が今日はいなかったのだ。
「ウチも今日は皆、実習室だと思う。触媒を確保できたのか昨日、一昨日くらいから少しずつ戻ってきて、通常の実習をしてたからね」
ダニエル先生も戻ったし、魔力コントロールをしたり、ポーションを作ったりしていた。
「ウチと一緒か。そっちは揉めてない?」
ん?
「揉めるって?」
「いや、ウチのクラスね……午前中にチーム内で言い争いみたいなことをしてたから」
「してたな……」
まあ、そういうこともあるか。
「ウチはないかな?」
「仲良くやっているんじゃないですかね?」
アメリアと顔を見合わせた。
「いや、そうでもないわよ。昨日、今日と微妙にクラスの人の座る位置が変わっていた」
エリーゼが教えてくれる。
「そうなの? よく見てるね」
「あんたらと違って、私は暇だもん」
それもそうか。
僕やアメリアは授業を聞いているが、エリーゼには関係ない。
「やっぱり特別実習かな?」
「絶対にそうでしょ。魔法科は知らないけど、錬金術科は1人1人の技術に差が出ているわ。もっと言うと魔力ね。魔力が小さい者はポーションを作れる量が少ないからその辺りで揉めるんでしょう」
そっかー……
「科が分かれると案外、揉め事が少ないかもな。俺、錬金術のことなんか全然わからんし」
「私もわからない」
それはこの2人の人間性が良いからだ。
この2人じゃなかったら間違いなく揉めていると思う。
「揉めない組織というのはありませんわ。揉めた後にどう解決するかが大事になるのです」
アメリアが自信満々に正論を言う。
「そうだね。アメリアは良いことを言うなー」
揉め事を解決できなかったのが僕の前世だから余計にそう思う。
「ウィル、落ち込まない。スライムがいるわよ」
「え?」
エリーゼの言葉に足が止まり、周りを見渡す。
他の3人も同様に足を止めた。
「どこ?」
「そこの草むら」
エリーゼが前足で前方の草むらを差す。
すると、草むらがガサガサと動き、中からポヨンという擬音が聞こえてきそうな丸いゼリーみたいな魔物が飛び出てきた。
「スライムだ……」
ゲームでも登場する最弱の魔物である。
「エリーゼさん、よくわかりますね。わたくしもまったくわかりませんでした」
「私も……」
「俺もだ。スライムは魔力が低いからわかりにくいんだよな」
良かった。
僕だけじゃなく、皆わからなかったようだ。
いや、良くはないけど。
「私はあんたらと違うの」
「さすがは使い魔ですわね。魔力探知が優れているんですね」
僕の使い魔!
「いや、嗅覚。人間と猫は違うのよ」
あ、そっちか。
「それでどうするんだ? 倒すのは子供できる相手だが、採取があるだろ」
「討伐証明の核の回収もね」
ただ倒すだけなら僕の物理性能でも倒せる相手だ。
「討伐証明の核って割れててもいいんだよね?」
「ああ。スライムを倒す一番簡単な方法は中に核を壊すことだからな」
なお、スライムの魔石はその核の中にあると言われている。
ただ、核自体が小指サイズだし、魔石はさらに小さいので取り出すことが難しいし、取り出せても売れないので無視でいい。
「じゃあ、普通に倒していいよ。スライム液の回収はこっちでやるから」
「わかった……アイスランス!」
ランディが手を掲げると、氷の槍が飛び出し、スライムに刺さった。
すると、丸かったスライムはべたーっと潰れていく。
「採取しますか」
「そうだね」
僕とアメリアはスライムが死んだので手袋をし、フラスコを取り出した。
そして、フラスコを使ってスライムのゼリー状の身体を回収していく。
「ちょっと美味しそうだね」
ゼリーみたい。
「そうですか? わたくしはごめんですわね」
そっかー。
「マリーは美味しそうって思うよね?」
スライム液の回収を眺めているマリーに聞く。
「まあ、ちょっとわからないでもないわね。でも、さっきまで動いていたそれを見て、その感想は抱きにくいわ」
それもそうか。
「でも、それを触媒にして、回復ポーションを作るんだろ? 飲むのか、それ……」
ランディがちょっと嫌そうな顔をする。
「そこを気にしたら何も飲めないよ。魔力回復ポーションなんて魔物の体内にある魔石を使うんだよ?」
魔物の血液を使う時もある。
「そうなのか……あまり錬金術のレシピを調べないようにしたいな」
「確かにそうね。錬金術の内容をウィルとアメリアに聞かないようにするわ」
魔法科の生徒はデリケートだな。
