松ぼっくりをある程度拾い終えると、実習室に戻る。
 その際に何人かの生徒も戻り、ポーションを作り始めていた。

「なめし液はこれですわね」

 アメリアは教科書を開き、指を差す。
 そこにはなめし液の作り方が書いてあった。

「うん。今回の課題はFランク以上の毛皮だからランク外の超粗悪品でなければ大丈夫だと思う」
「じゃあ、やってみますか」
「そうだね」

 僕とアメリアは松ぼっくりをビーカーに入れ、錬成する。
 すると、濃いめの茶色の液体に変化した。

「これでいいんですかね?」
「多分? エリーゼ、どう?」

 鑑定ができるエリーゼに確認する。

「2つ共、Eランクのなめし液ね。この調子で量を作りなさい」

 Eランクか。
 ダニエル先生のアドバイスのおかげかね?

「やりますか」
「そうだね」

 僕とアメリアは引き続き、なめし液を作っていったが、すぐに時間となったのでこの日の授業を終え、寮に戻った。
 そして、ランディと共に食堂に行き、夕食を食べる。

「ウィル、なめし液の方はどうだ?」
「今日、アメリアと作ってみたけど、大丈夫そう」
「そうか……今日の実習なんだが、ウチはほとんどの生徒が特別実習の方に回っていた」

 魔法科もか。

「それはウチもだね。触媒の確保らしい」
「奪い合いになっているんだよな……俺やマリーなんかは普通の実習を受けていたんだが、帰りにウルフを持って帰っていた生徒を何人か見た」

 ウルフ……

「課題かな?」
「多分な。ウルフは金になるし、倒したから解体屋に持っていくんだろう」

 ウルフは牙も毛皮もお金になる。
 何よりも魔物のため、体内に魔石があるのだ。
 魔石は色々なところに使われているのでお金になる。
 もちろん、錬金術の素材としてもポピュラーなものだ。

「解体してくれるところがあるの?」
「あるぞ。金はかかるが、そういうのを利用する冒険者も多い」

 へー……

「しかし、ウルフってなると、週末までに数がいるかな?」
「そこは大丈夫だと思うが、週末とはいえ、かち合いそうだからちょっと奥に行かないといけないかもな」

 奥か。
 まあ、エリーゼがいるから大丈夫かな。

「わかった。奥ね」
「ああ……んー?」

 ランディが横を見る。
 すると、知っている男子と知らない男子が2人おり、こちらにやってきていた。

「ジスラン?」

 明らかにこっちに来ているけど、どうしたんだろう?

「よう、ランディ。今日もアシュクロフトのガキと一緒か?」

 ジスランが僕を一瞥した後にランディに聞く。
 なお、その際にジスランの後ろにいる2人の男子が侮蔑したように笑った。
 なんか小物の取り巻きって言葉がしっくりくる。

「ジスラン、何か用か?」
「特別実習の方はどうかと思ってな。聞いて回っているんだよ」

 こんな堂々と探るとは……
 さすがは貴族だ。

「まだ始まってもねーよ」
「お荷物の錬金術科をチームに入れるからだ」

 僕とアメリアはお荷物らしい。
 学園長が言っていた通り、やはり錬金術科は下に見られているんだ。

「お荷物って……お前の家と同格のアシュクロフトとル・メールだろ」
「魔法科に落ちる程度の落ちこぼれだ。同格と思われるのが恥ずかしいわ」

 僕、魔法科を受けてないんだけど……

「はいはい。ウチはまだ動いてないから何とも言えん。そもそも混成だからお前達とは微妙に課題が違うと思う。錬金術の課題もあるからな」
「ほう……混成だとそんな面倒なことになるわけか」
「そっちはどうだ? 特別実習の方をやってたんだろ?」
「たいした課題ではないが、人が多すぎて効率よくいかない。教師連中も考えてほしいものだ」

 それが実践的なんだと思うよ。
 社会に出たら競争は熾烈になるもん。

「そうかい。俺らの分も残してくれよ」
「ふっ、残してもお前らは苦労しそうだがな。お前もマリーもまあまあな魔法使いだと思うが、足を引っ張る奴がいるだろう」

 僕とアメリアね。

「ウルフなんかにそんなことを考えないな」
「まだ最初の課題だ。後で苦労するぞ」
「忠告どうも」
「ふっ、次の課題でチームの解散も出てくるだろう。お前も考えておけ。じゃあな」

 ジスランはそう言うと、子分を引きつれて、食堂を出ていった。

「あいつ、ウィルとアメリア以下の魔力なのによくあそこまで言えるわね……」

 エリーゼが呆れたようにつぶやく。

「ライバル視してるんだろ。なんだかんだ言ってアシュクロフトとル・メールを同格と認めているんだ」

 そうなのかねー?

「ジスランの後ろにいた2人は誰?」

 笑っているだけで一言もしゃべっていなかった。

「魔法科の生徒でジスランのチームだな。アリスターとバーニーだ」

 知らない……

「貴族?」
「ああ。ラバール家とマクロン家だな」

 あー、ジスランのグランジュ家に近い家だ。

「なるほどね。近いところでチームを組んだんだ」
「お前らが特殊なだけで貴族はそうするんじゃないか? 他もそうっぽいし」
「貴族は派閥があるからね」

 魔法科はその辺が大変そうだな。
 錬金術科は僕とアメリアだけ。
 まあ、僕はもう貴族じゃないんだけど。

「派閥ねー……」
「ランディ、あまり人がいないところに行こう。絡まれたら面倒。アメリアはケンカを買うよ?」
「そんなに気が強いのか?」
「それもあるけど、それ以上に家の名前を出してきたら引けないんだ。それが貴族」

 家の名前に傷を付けるわけにはいかないのだ。

「お前もか?」
「僕は家を出てるし、関係ないね。何よりもどんなに蔑まれようとアシュクロフトはそれ以上の悪評があるから誰も気にしない」

 僕がやらなければならないのは家でなく、個人を見てもらえるように頑張ることだ。
 問題はそれだけのコミュ力が僕にはないことだけどね。
 いまだにアメリア以外のクラスメイトと話したことがなかったりする……