翌日、午前中はいつもの座学を受け、昼になったのでランディと食堂で昼食を食べる。

「ウィル、マリーが言ってたように午後からは特別実習をする生徒が多いそうだぞ」

 探ってみると言っていたが、もう動いたようだ。
 こういうところは本当に助かる。

「そうなの? やっぱりあの推薦状?」
「ああ。皆、魔法系の良いところに就職したくてこの学校に来ているからな。それは錬金術科も同じっぽいぞ」

 錬金術科の生徒も探ってくれたようだ。
 ランディは本当に友達が多いな。

「じゃあ、やっぱり週末で良さそうだね」
「だな。それと課題についてもそんなに差はないみたいだ」
「まあ、そこはそうだろうなと思っていたよ。僕ら、ポーション作りしか実習で教わってないもん」

 納品課題の難易度自体はそこまで高くない。
 回復ポーションも毛皮も材料さえあれば錬成できる。

「毛皮は?」
「あれはなめし液さえあれば余裕。教科書の最初の方に書いてあるしね」
「そうか……となると、材料集めが大事になるわけだな」
「だね。頑張って」

 僕達は昼食を食べ終えると、実習棟に向かう。
 そして、ランディと別れると、3階に昇り、錬金術科の実習室に入った。

「あれ?」

 いつもは僕よりも早くいるクラスメイト諸君がいない。
 いるのはアメリアだけだ。

「アメリア、他の人達は?」

 アメリアに近づき、聞いてみる。

「特別実習のために触媒を探しに行ったそうです。先程、先生が来て、そう告げてきました。前に先生はここにいると言いましたが、全員が特別訓練施設に向かったので自分もそこにいると……」

 まさかの全員か……

「魔力コントロールの実習は?」

 まだそこが完璧ではない生徒もいたはずだ。

「昨日の夜に寮で色々と聞いてみたんですが、錬金術科の特別実習は皆、共通してDランク以上の回復ポーションというのがあるそうです。要は触媒の確保を優先したわけですね」

 そういうことか……
 僕達以外は戦闘を得意としていない錬金術科の生徒でチームを組んでいる。
 だから魔物を倒さないといけないスライムの核より魔物が出ない浅いところにある触媒を確保しに行ったんだ。

「なるほどね……」
「それと昨日、雑貨屋にエリーゼさんのぬいぐるみを卸しに行きましたね?」

 ん?

「マリーと行ったよ」

 そう言って別れたじゃん。

「実はそのぬいぐるみを買った先輩に聞いたんですけど、その雑貨屋でポーションを買った1年の生徒を見たそうですよ」

 あちゃー。

「念のための確保かな?」
「だと思います。皆様、色々と考えておられるのでしょう」

 エサが大きすぎたな。
 気持ちはわからないもないが。

「何とも言えないね」
「わたくしもこればかりは何も言えません。それでどうします? わたくし達も触媒を探しに行きますか?」

 うーん……その予定ではあったが……

「ウィル、やめておきなさい。いらぬ軋轢を生むわよ」

 エリーゼがアドバイスをしてくる。

「そう思う?」
「錬金術科では魔法使いでもあるあんたとアメリアが一歩前に出ている。クラスメイト達はあんたらに負けないために動いているのよ。恨まれるわよ?」

 味方を作るつもりはないが、敵を作る気もない。
 そうするべきか。

「アメリア、予定を変更して木材を採取しようか」
「なめし液を作るわけですね?」

 おや?

「わかる?」
「わたくしも頭が悪いなりに考えましたので。自分達が何をすべきか、チームで最高の成果を出すにはどうすれば良いかを考え、昨日、教科書を読んで予習しておりますわ」

 すごいな、この子……

「じゃあ、そうしよっか。木材の採取なら邪魔にならないし、先生に聞けばいい」
「はい。では、特別訓練施設に向かいましょう」

 アメリアがそう言って、立ち上がったので実習室を出て、特別訓練施設に向かう。
 すると、クラスメイト諸君が腰を落として何かを探しており、それをダニエル先生が眺めていた。

「ん? ウィリアムとアメリアか。お前らも触媒の採取だったな」

 ダニエル先生が僕達に気付き、頷いた。

「いえ、先生、わたくし達は予定を変更して木材を集めることにしましたわ」
「木材……なめし液か?」
「はい。なめし液に向いている木は……えっと……イーロイの木と書いてありますね。どれですか?」

 アメリアが本を開きながらダニエル先生に聞く。

「イーロイはあの針葉樹だ。だが、なめし液を作るなら樹脂より落ちている種子の方が良いぞ」

 そうなの?

「そんなこと書いてあったっけ?」

 アメリアに聞く。

「いえ、書いてないようですが……」

 だよね?

「本には書いてない。これは先生の経験だ」

 へー……やっぱりすごいんだな。

「あのー、そういうことを教えてもいいものなんです?」
「当たり前だ。俺が何のためにここにいると思っている? お前達に教えるためだ。聞かれたら答えるし、悩んでいる生徒がいればアドバイスもする」

 それが教師か……

「わかりました。何かあればお願いします。えーっと、種子ってどれかな?」
「これじゃないですかね?」

 アメリアが松ぼっくりみたいなものを拾う。

「それだ。頑張って拾え。今日は先生が見張っておくから存分に拾うといい」

 言われて気付いたが、触媒を探している生徒諸君は誰も見張りをしていない。

「ありがとうございます」
「ウィル、手分けして探しましょう」
「そうだね」

 僕とアメリアはそれぞれイーロイの木の近くに行き、松ぼっくりを拾っていった。