チームとしての話し合いが終わったので教室を出て、校舎を出る。
「あ、皆は先に帰っててよ。僕、ちょっと雑貨屋に行かないといけないからさ」
エリーゼのぬいぐるみを卸しにいかないといけない。
「あ、私も行く」
マリーも一緒に行きたいらしい。
多分、話があるんだろうな。
「いってらっしゃい。マリーさん、帰ったら声をかけてください。夕食をご一緒しましょう」
「ウィルもなー」
僕達はアメリアとランディと別れると、学校の敷地を出て、雑貨屋に向かう。
「ウィル、この特別実習をどう思う?」
歩いていると、マリーが聞いてくる。
「どうとは?」
「私は推薦がどうしても欲しい」
でしょうね。
「良いと思うよ。僕も欲しいし」
「あなたも欲しいの? アトリエを開くんじゃないの?」
「アトリエを開くにしても推薦は欲しいよ。マリーだって陛下が認めたお店とそうじゃないお店なら前者に行くでしょ」
「確かにそうね……」
誰だってそうだ。
「それと僕にはちょっとした問題がある。それがアシュクロフトの評判」
「なるほどね……」
こんなに簡単に納得される僕の(元)家。
「だから頑張るよ」
「うん……ウィルは戦いが嫌いそうだったから付き合わせて悪いなって思ってね」
「誘ったのは僕じゃん。それに僕も魔法は得意だよ」
「ちょっと心配でね……ステータスのこともあるけど、ウィルって守ってあげなきゃ感が強い」
守ってあげなきゃ感って何?
「それ、マリーじゃないの?」
貴族令嬢じゃん。
しかも、15歳。
「あなた、子供じゃない」
「マリーもでしょ」
「まあ、そうだけど……」
この感情はお互い、転生者だからだろうな。
「2人共、はい、自分の名前を言って」
何かを察したエリーゼが促してきた。
「僕はウィル。15歳」
「私はマリー。15歳」
うんうん。
「はい、オッケー。行きましょう」
僕達はエリーゼに正されると、そのまま歩いていき、雑貨屋にやってきた。
雑貨屋はやはりそこそこ賑わっており、ウチの学校の生徒が多くいる。
「ここって人気なのかな?」
「えーっとね、昼休みにアメリアがエリーゼ達を並べてここで買えるって宣伝してた。先輩達がそれに食い付いていたわね」
早速やってくれたのか。
「マリーもいる?」
「私は1匹でいいわ。それに本物の方が可愛い」
マリーが僕の腕の中にいるエリーゼを取り、抱える。
「あんたはわかってるわね。絶対に私の方が美人よ」
まだ言ってる……
「わかったから……エステルさんのところに行くよ」
そう言って受付に向かう。
「こんにちは」
「いらっしゃい、ウィル君。いやー、すごい好評だよ。あっという間に売り切れちゃった」
エステルさんはホクホクの笑顔だ。
「ありがたい限りです。それでアメリアから聞きまして、エリーゼのぬいぐるみを納品しにきましたよ」
「もうできたの?」
「そこまで手間がかかるものじゃないですから」
ただのぬいぐるみだもん。
多分、そのうち、他のところに真似されるんじゃないかな?
「そっかー。じゃあ、お願い」
「えーっと……とりあえず10セットありますね」
空間魔法から取り出し、エリーゼ達を並べていく。
「助かるわー」
「いえいえ。やっぱり女性のお客さんが買われていかれますかね?」
「そうね。あとは子連れかな? 多分、これは学生さんが買われるんだろうけど」
そんな気はする。
なんか後ろから視線を感じるのだ。
「じゃあ、これで10セットです」
「ありがと。これが料金ね」
エステルさんから金貨10枚を受け取る。
数日でこれだけ儲かるのはすごいと思う。
これを繰り返していけばアトリエを開くための予算になるかもしれないが、そんなに上手くはいかないだろう。
消耗品じゃないし、やはり他の錬金術師が似たようなものを作ると思う。
「ありがとうございます。では、これで。また作ったら持ってきます」
「お願いねー」
カウンターから離れると、入れ替わるように先輩方がカウンターに向かったので店を出た。
「次のことを考えないとね……」
学校に戻る道中でふと独り言が漏れる。
「ん? どうしたの?」
マリーが首を傾げた。
「ぬいぐるみは真似されやすいからすぐに売れなくなるかなって」
「まあね。ガチャでも作ったら?」
「ガチャ?」
「そう。かつての私のお小遣いをすべて奪っていった悪しき文明」
ソシャゲかな?
「どうやるの?」
「10種作ってたでしょ。中身を見えなくしてシークレットでもSSRでも作ればいいんじゃない?」
なるほど。
「良い案だね。ちょっと考えてみるよ」
これは自分がやることではなく、エステルさんに提案する形になるだろうな。
僕達はそのまま歩いていき、学校に戻ると、寮の前で立ち止まった。
「じゃあ、明日からも頑張りましょう」
「そうだね、錬成の準備はしておく」
「お願いね。そっち方面では役に立てないから」
「他のことで助けてもらってるから大丈夫」
特別実習とは関係ないが、さっきも良いことを教えてもらった。
「じゃあ、また明日」
「うん…………エリーゼは返してよ」
いつまで抱えているんだ?
その子は僕のだぞ。
「はいはい」
マリーがエリーゼを返してくれる。
「じゃあ」
「ええ」
マリーは頷くと、女子寮に入っていった。
「特別実習、頑張ろうか」
女子寮を見ながらエリーゼを撫でる。
「それは自分のため? マリーのため?」
「自分のためであり、マリーのためかな」
「そう。それは良いことね。お腹が空いたわ。ご飯にしましょう」
「うん」
頷くと、男子寮に戻り、ランディと共に夕食を食べる。
そして、夕食後は部屋で特別実習に向けた予習をすることにした。
