「どう?」
エリーゼが聞いてくる。
「ドラグニアファンタジーは最大レベルが99でステータスのマックスが999なんだよ」
「へー……」
「僕、レベルが何故か45もある……でも、物理攻撃力が3で物理防御力は15、さらにすばやさが22だね」
よっわ……
「ゲームのことはよくわかんないけど、弱そうね」
いや、雑魚過ぎ。
「めっちゃ弱いよ。さすがは雑魚」
「ま、まあ、あんたはお店を開いて、職人さんになるんでしょ。戦わないんだからいいじゃない」
慰めてくれるエリーゼが可愛いよ。
「まあね。でも、それ以上に気になることがある。まず魔法攻撃力と魔法防御力が300ある」
「おー! すごそうじゃないの!」
うん、これはすごいんじゃないかな?
「でもって、HPが1000ある。999がマックスなはずなのに」
「どういうこと?」
「もっと言うと、MPがヤバい。無限になってるね……」
何これ?
「無限? どういうこと?」
「いくら魔法を使ってもMPが尽きないってことだと思う。要は魔法を使い放題」
「は? 何それ? MPが何なのかはわからないけど、私だって魔法は使える。大きな猫に変身するのも空を飛ぶのも魔法。でも、使っていればそのうち使えなくなるものよ?」
もちろん、それはそうだ。
当たり前だが、人にはMPの限度がある。
でも、僕にはそれがない。
「理由はだいたい予想がつくよ。HPがマックスを超えているのも、MPが無限なことも」
そして、レベルが45もあることも。
「何?」
「僕が仲間キャラじゃなくて、ボスキャラだからだよ。ゲーム的には成長要素がないからステータスが固定なんだ。そんでもってゲームにもよるけど、ボスってMPが無限なんだよ」
MPが設定されているのは味方キャラに制限を設けるためだ。
ゲームは制限されたMPの中で魔法をやりくりしてダンジョンを進み、ボスを倒す。
でも、そんなものはボスキャラにはいらない。
「それであんたのMPとやらが無限なわけね。まあ、朗報じゃない? 魔法に困ることはなさそうじゃないの」
「それもそうだね。錬金術にしても魔法だし、必ず、役に立つ」
錬金術も素材に魔力を込め、別のものを作る技術だ。
多分、MPを消費するんだと思うが、僕はその制限がない。
RPGの世界なのに戦いの道に進む気がない僕でもこれは大きなアドバンテージなような気がする。
「ちょっと光が見えてきたじゃないの」
「そうだね」
僕達はちょっと安心したのでこの日は休むことにした。
布団を持ってきているものの、地面に置くのは気が引けたのでそのまま寝ようかと思ったのだが、大きくなったエリーゼが包み込んでくれたのでふわふわで暖かいままで寝られた。
翌日もエリーゼに跨り、空からの景色を楽しみながら進んでいく。
しかし、徐々に日が落ち始めたのだが、この日もウェイブの町は見えてこなかった。
「2、3日で着くって言ってたよね? 明日に着きそう?」
今日は諦めて野宿かな。
「そう、ね……多分?」
え?
「エリーゼ、ここどこ?」
「……ごめん。わかんない」
えー……
「迷子なわけ?」
「南に進んでいるのは確かなんだけど、実は今朝から自信がない……」
あんなに自信満々に連れていってあげるって言ってたから言い出せなかったんだな……
「ちょっと待ってね」
部屋から持ってきた地図を取り出し、確認してみる。
「わかる?」
うーん……
「国境を越えて、リットに来てないんだろうなってのはわかる。多分、まだ国内……」
でも、それ以外がわからない。
街道を進んでいるわけでもないし、周りに目印になりそうなものがない。
「ごめん……」
エリーゼのテンションがあからさまに下がった。
「仕方がないよ。僕も全部エリーゼに任せずに地図を確認すればよかったんだよ。とにかく、適当に飛んで、村かなんかを探そう。そうすれば場所がわかると思う」
「わかったわ」
僕達は上空から目印になりそうなものや村を探していく。
しかし、すぐに日が暮れてしまい、辺りが真っ暗になってしまった。
「エリーゼ、もう見えないし、野宿にしよう。明日でも大丈夫だよ」
こう暗いと捜索は無理だ。
「そうね……ん?」
「どうしたの?」
エリーゼが何かに気付いたようだ。
「灯りが見えるわね」
「見えないけど?」
真っ暗だ。
「わずかな光だから人間には見えないと思うわ。ちょっと行ってみる」
エリーゼがそのまままっすぐ進んでいくと、僕の目にも遠くに灯りが見えた。
「確かに灯りが見えるね。焚火?」
「ええ。多分、野営中でしょう」
野宿か……
ホテルなんてないしね。
「そこにいる人に聞いてみる? 盗賊とかじゃないよね?」
「うーん……そこは大丈夫だと思う。絶対に盗賊ではないと言い切れる」
ん?
「なんで?」
「野営しているのは2人なんだけど、女性よ。1人はメイド服を着ている妙齢の女性、もう1人はドレスを着ているあんたと同じくらいの歳の少女ね。もっと言うと、近くに豪華な馬車がある」
メイド……ドレス……豪華な馬車……
「貴族だね」
「でしょうね。少なくとも、盗賊ではない。でも、逆に言うと……」
そんな人達に近づいたら僕がそっち側の人間に見られるか。
「どうしよ?」
「でも、せっかくの手がかりだしね。幸い、あんたも高そうな服を着ているし、どう見ても弱そうな人畜無害な貧弱ボーイじゃない? 正直に理由を話して、すぐにそばを離れれば大丈夫じゃないかしら?」
確かに僕も盗賊には見えないか……
「やってみる。いざって時は逃げるから頼むよ」
この世界は魔法があるから戦闘力が見た目ではわからないことが多い。
実際、ゲームでは弱そうな少女や老人でもステータスが高いことはあるのだ。
「わかったわ。上空から近づくのは相手を警戒させるから降りるわね」
「お願い」
エリーゼは下降していき、地面に降り立ったのでエリーゼが降りる。
真っ暗でよくわからないが、地面を見ると、石材で舗装がされており、街道なのがわかった。
「道か」
「ちょうどいいじゃないの。灯りの魔法は使える?」
「うん、大丈夫。エリーゼ、小さくなって」
このままだと魔物と間違われる可能性が高い。
「わかったわ」
エリーゼが頷くと、いつもの可愛い白猫に変わったので抱きかかえる。
そして、ライトの魔法を使い、周囲を明るくすると、前方に見える焚火に向かって歩いていった。
