僕達は事務室を出ると、錬金術科の教室に向かう。
 幸い、他の生徒もいなかったのでこの前と同じように窓際の席に4人でついた。

「この課題、どう思う?」

 マリーが課題が書いてある紙を見ながら聞いてくる。

「錬金術科であるわたくしとウィルが納品課題をやり、マリーさんとランディさんが討伐課題をするって感じですかね?」

 アメリアが首を傾げながら答えた。

「まあ、そうなるんじゃないか? ただ、わざわざチームでの課題ってことなんだから4人で協力しろっていうことだろ」

 ランディも自分の意見を言う。

「ウィルはどう思う?」

 マリーが僕の方を見て、聞いてくる。

「えーっとね、色々あるんだけど、基本的にはアメリアとランディの意見に賛成。納品課題は僕とアメリアが中心になってやるし、討伐課題はマリーとランディが中心になってやるべきだと思う」

 この課題の分けはそういうことだろうし。

「基本的にはっていうのは? 別の意見もあるってことでしょ?」
「そうだね……この課題さ、不正できるよね?」
「そうね……」

 マリーも同じことを考えていたらしい。

「どういうことですの?」

 アメリアが聞いてくる。

「この課題には一言も錬金術で作って納品しろって書いてないんだよ」
「ええ。しかも、さっき学園長は作って納品しろとは言わずに集めろって言った」

 言ったね。

「買えばいいってことですの?」
「それもできるってこと。討伐の方もそう。討伐証明が何かわからないけど、それも買えばよくない?」
「そうね。スライムの討伐証明はスライムの核、ウルフは牙になる。どちらも素材屋で売ってる」

 誰が買うんだって話だが、買うのは僕ら錬金術師だったりする。
 素材や触媒になるのだ。

「しかし、買うって言ってもお金がかかりますわね。お金で推薦を買うのはどうなんでしょう?」
「だと思う」
「貴族なんかの実家が太いお金持ちにしかできないわよね」

 だよね。
 僕は無理だ。

「ウィル、マリー、アメリア。その案はやめた方が良い」

 ランディが止めてきた。

「なんで?」

 僕もやめた方が良いと思うけど。

「罠だろ」

 うん、そう思う。

「陛下が実践的な実習って言ってるもんね」
「ああ。どこの世界に依頼を受けた薬品を別で買って納品する錬金術師がいるんだ? それに上司からウルフを倒してこいって言われて討伐証明の牙を買うって一発でクビになると思うぞ」

 なるね。

「御三方の言いたいことはわかりました。しかし、その不正を先生方はどうやって把握するんでしょうか?」
「多分だけど、町の店に学校から通達が行ってるんだと思うよ」

 買ったら通報される。
 しかも、内緒で……

「怖いですわね……私はその不正にすら気付きませんでした」
「気付いてもアメリアはしないでしょ?」
「しませんね。それでは成長に繋がりません。わたくしはまだ未熟なのですからとにかく、何でもやらないといけませんから」

 やっぱりダニエル先生も絶賛の真面目な良い子だよ。

「じゃあ、普通にやるってことでいいかしら?」

 マリーがそう聞くと、皆が頷いた。

「では、そうしましょう。しかし、チームというのも怖いわ。ここでいきなり揉めるチームも出そうよ」

 出そうだね……
 真面目な人達ばかりで良かったよ。

「それでどうする? この課題を魔法科の俺とマリー、錬金術科のウィルとアメリアで分けるか?」

 ランディが聞いてくる。

「それなんだけどね。先生達がちゃんと考えたって言ってた通り、考えられているんだよ。この納品課題と討伐課題は連動しているんだ」

 そう言って、課題が書いてある紙を指差すと、3人が見る。

「んー? どこですの?」
「ほら、ポーションが50個でスライムが50匹でしょ? 同じように毛皮が10枚でウルフが10匹」
「ふむふむ。確かにそうですわね。えーっと、触媒にスライム液がありましたね……」

 アメリアが触媒の本を取り出し、確認する。

「うん。毛皮はまあ、ウルフから取れってことだろうしね」

 なめさないといけないけど。

「つまり学園長が言っていたチームでの成績になるっていうのはそういうことですわね。4人で協力しろとおっしゃっているんですわ」

 だねー。
 マリーが学園長に聞きたかったのもそれ。

「実践的というのはそういうことでしょう。仲間と協力できないとどんな仕事に就いても難しいわ」
「そうだな」

 マリーとランディが頷き合う。
 ちなみに、僕はそういうのがダメだったから1人でやろうと思い、アトリエを開くつもりだったりする。
 そう思うと、ダメかなーと思えてきたのでエリーゼを撫でる。

「ウィル……お客さんはもちろんのこと、依頼を出すこともあるし、素材屋さんなんかとの付き合いもあるわよ。最低限の付き合いというのはそういうこと」

 エリーゼがこちらの意図を汲んで教えてくれる。

「わかったよ……」

 僕だって一人で生きていけるとは思ってない。

「ウィルはどうしたんですの?」
「そっとしてあげて」

 アメリアが首を傾げると、マリーが温かい目になった。
 マリーはたまにお姉さんぶる時があるのだ。

「ごめん。僕のことはいいよ。それで課題だけど、ポーションと毛皮は僕とアメリアが作るよ」

 当然だが、マリーとランディには作れない。

「スライムとウルフの討伐は私とランディね。でも、一つ確認したい。スライム液と毛皮を取るんだっけ? どうやるの? 討伐証明は別に傷があろうが何でも良いけど、錬金術で使う素材って採取の仕方があるでしょ?」
「そういやそうだな。しかも、すげーめんどくさいイメージがある。それもあったから魔法科の方が楽そうって思ったんだよな」

 それがあったか。

「えーっとね……毛皮は……」
「スライム液、スライム液……」

 僕とアメリアは本を取り出すと、開いて探していく。

「あ、あった、あった」
「スライム液もありましたわ」

 アメリアも見つけたようだ。

「どうやんだ?」
「毛皮は動物でも魔物でいいんだけど、とにかく、お腹を捌いて手足を落とし、そこから剥いでいくんだって。ランディ、お願いね」
「さすがはランディさんですわ」
「男らしいわねー」

 僕達はランディを見る。

「俺かい……これだから女子3人は……」

 あれ? 僕、女子だっけ?

「スライム液はどう?」

 マリーがアメリアに聞く。

「スライム液は倒したスライムからフラスコで採取するようですね。これはわたくしとウィルでやりましょう。これも実習ですので」

 やっぱり討伐も一緒に行った方が良いだろうな。
 これも経験だ。

「皮を剥ぐのは?」

 ランディが聞いてくる。

「わたくしには無理ですわ」
「猫を飼っている僕もちょっと……」

 嫌だよ。

「なるほど。これがチームか……別にやる分には気にしないし、問題ないが、お前らみたいなのが固まったチームは大変そうだな」

 絶対に買うだろうね。

「ランディにEランクの回復ポーションをあげる」
「わたくしも差し上げますわ」

 2人で回復ポーションを取り出し、ランディの前に置いた。

「どうも。じゃあ、とりあえず、4人で行くとして、スライムはともかく、ウルフとなると、結構奥だな……マリーはともかく、お前らは大丈夫か?」
「ふっ、誰にものを言っているのかしら? わたくしは魔法使いの名門ル・メールですわよ」

 アメリアが髪を払った。

「あー、アメリアはすごかったもんな。ウィルは?」

 僕?

「僕も名門アシュクロフトだね」
「ウィル、私のそばにいるのよ?」
「ウィルには私がいるわよ。ドラゴンでもぶっ飛ばしてやるわ」

 マリーとエリーゼが心強いことを言ってくれる。
 でも、僕、魔法は得意なんだけどな……
 まあ、2人がこう言うのは物理性能がひどいからだと思うけど。

「大丈夫そうか……いつ行く? 一応、実習時間を使ってもいいって言われてるよな?」
「そうね。でも、週末にしない? 明日明後日は絶対に多いわよ。他のチームの課題がわからないけど、同じような課題だったらかち合って魔物が見つからないわ」
「確かにそうだな……ウィルとアメリアはどうだ?」

 ランディが聞いてくる。

「いいよね?」
「ええ。明日は触媒探しと採取の予定ですが、それ以降はポーション作りでしょうしね。それでDランクが作れれば万々歳といったところです」

 ホントにね。

「じゃあ、週末な。一応、他のチームの動向も探ってみる」
「あ、私も」
「では、わたくしもそうしましょう」

 …………僕はなめし液でも作ろうかな!