午前中の授業を終えると、教室を出て、寮の食堂に向かった。
 そして、途中で一緒になったランディと一緒に昼食を食べる。

「なんか人が少なくない?」

 ほとんどの生徒が集まる昼食なのだが、いつもより人が少ないように思える。

「いないのは1年だな。多分、事務室で課題を受け取ったんだろう。先生から推薦の話は聞いたか?」

 どうやら魔法科でも同じ話がされていたようだ。

「うん、聞いた。すごいよね」
「正直、破格だと思う。就職する際に学校の態度や成績が良ければ先生が推薦状を書いてくれることもあるというのは聞いたことがあるが、そこに陛下のサインっていうのはすごい」
「皆、狙うよね」
「ああ。だからこそ、午前中の授業が終わったと同時に事務室だろ」

 混むなー……
 昼御飯を食べられるのかね?

「僕らは放課後ね。クラスも寮も違うから足並みが揃えにくいし」
「昼休みも放課後も変わんねーよ。どうせ午後からも実習があるんだから」

 気にならないかと言われれば嘘になるが、僕もそう思う。

「じゃあ、放課後に寮の前ね」
「わかった」

 僕達は昼食を終えると、事務室から戻ってきたであろう1年と入れ替わりで実習棟に向かう。
 そして、午後からはアメリアと一緒にダニエル先生にもらった触媒の本を眺めながらポーションを作っていった。

「やはり触媒というのは大事のようですね。わたくし、土日も練習してましたが、どんなに良い品質のギザギザ草を使ってもEランク以上を作れません」

 それは僕もだ。
 品質が多少悪くても安定してEランクを作れるようになってきたが、それ以上がどうしても無理なのだ。

「僕らの腕も関係するんだろうけど、1回触媒を使ってみたいね」
「採りに行きますか?」

 そう言われて時計を見ると、すでに15時を回っていた。

「明日にしようよ。ギザギザ草の補充を兼ねて、ちょっと触媒になりそうなものを探してみよう」
「わかりました。そうしましょう。しかし、今日は皆、ちょっと様子が変ですね」

 今日はいつもより、クラスメイトの私語が多いのだ。

「特別実習だろうね。男子寮の食堂に男子がほとんどいなかったよ」
「女子寮もですね。マリーさんと2人でした。ウィル、知ってます? 魔法科と錬金術科の混成はウチだけらしいですよ」

 え? そうなの?

「錬金術科は錬金術科だけで組んだのか……」

 まあ、ちょっと空気が違うからね。
 僕もマリーやランディがいなかったら錬金術科のクラスメイトと組みたい。
 組めれば……ね。

「そうなると、課題というのが気になりますよね」

 確かにね……

「授業が終わったらすぐに事務室に行こう」
「そうですわね」

 僕達はその後もポーションを作っていった。
 そして、16時を過ぎ、午後の授業を終えると、寮に戻る。
 すると、今日もマリーとランディが先に寮の前で待っていた。

「あ、遅れてごめん」
「申し訳ございませんわ。御二人は早いですわね」

 僕とアメリアは2人のもとに行き、謝る。

「全然、待ってないわよ」
「魔法科はどうしても魔力が尽きたら終了だから早く終わるんだよ」

 錬金術も魔力を使うが、ポーションはそこまで魔力を使わないし、時間内に尽きることはないからね。
 MPが無限の僕はそれ以前だけど。

「今日も揉めた?」
「うんにゃ。組んだチームでひそひそと話をしていたな」

 ウチと一緒か。

「私達も早く課題を受け取りに行きましょうよ。気になってしょうがないわ」

 マリーはよほど気になるらしく、急かしてきた。
 この学校を卒業し、家を出たいマリーは是が非でも推薦状が欲しいのだろう。

「行こうか」

 僕達は来た道を引き返し、事務室に向かう。
 そして、中に入ると、正面に学園長がおり、こちらを手招きしていた。

「こんにちは」

 入学の時に処理してくれたおばちゃんだけど、学園長なんだよな……

「はい、こんにちは。皆、昼休みに来たのにあなた達だけが放課後に来たわ。大物ね」

 大物ではなく、小物の中ボスです……

「科が違うので……それに昼休みは混んでそうでした」
「まあ、そうね。とにかく、課題を渡すわ。でも、その前にちょっと注意点を説明する」

 注意点?

「何でしょう?」
「やっぱり実際にやってみると、想定外なことが起こるってこと。私達はこの特別実習の課題を考えていたのだけど、まさかいきなり魔法科の生徒と錬金術科の生徒が組むとは思ってなかった」

 え?

「なんでですか? 別にいいじゃないですか」
「そうね。全然問題ないわ。ただ、ちょっとね……よろしくないし、非常に言いにくいんだけど、昔から魔法科の生徒は錬金術科の生徒を見下す傾向にあるのよ」

 あ、それはちょっと感じる。

「私はそんなことしません」
「俺もしない」

 さすがはマリーとランディだ。

「ええ、それが普通なの。2年、3年になればそういう考えも改められるんだけど、どうしても入学してすぐにはね……だから組むとは思っていなかった」

 ふむふむ。

「想定してなかったから課題が困るってことですか?」
「そうなるわね。とはいえ、先生達もちゃんと考えたわ。はい、課題」

 学園長が1枚の紙を渡してくれたので4人で見てみる。

【納品:Dランク以上の回復ポーション50個、Fランク以上の毛皮10枚納品】
【討伐:スライム50匹、ウルフを10匹討伐】

 あー、なるほど。

「うーん、2種類ありますわね」
「錬金術科と魔法科だな」
「こういう感じですか」

 3人も納得している。

「学園長、期限はいつまででしょう?」
「3週間よ。この特別実習は1年で数回行う予定だけど、先生方が説明したように本来の授業の妨げになってはいけない。なので、来月の中間試験の2週間前までを期限としているのよ」

 この学校は来月の中旬に試験があるのだ。

「あのー、それとこれってここに納品すればいいですか?」
「納品課題はそうなるわね。討伐課題は討伐証明を提出してちょうだい。魔法科の2名はわかるわね?」

 学園長がマリーとランディを見ると、2人が頷いた。

「それと質問がもう1つあるんですけど、課題はこれだけですか? 方法が書いてないんですけど?」
「その辺も含めて、課題よ。自分達でよく考え、相談して決めてちょうだい。あ、それと例えば、ポーションが30個しか用意できなくても納品したらそれが評価点になるから既定の数を集められなかったとしても納品した方がいいわよ」

 集められなかったとしても、ね……

「わかりました。皆、何かある?」

 3人に確認する。

「わたくしはありませんわ」
「俺も」
「えっと……」

 マリーが何か言いたそうだ。

「マリー、言っていいよ」
「ごめんね。他意はない質問だけど……学園長、討伐課題ができずに納品課題だけができた場合なんですが、錬金術科の2人の評価だけが満点で私やランディの評価がゼロってことになるんでしょうか?」

 そういうことね。

「いいえ。4人共、50点よ。いや、別に点数が50点ではないけど、これはチームの課題なのでチームの成績ということになるわ」
「わかりました」

 マリーが頷く。

「他にないわね? まあ、他に気になることがあれば事務でもいいし、先生達に聞けばいいわ。じゃあ、頑張ってね」

 僕達は課題を受け取ると、事務室をあとにした。