「マリー、ちょっとステータスって言ってみてくれない?」
そう言うと、僕の目の前に透明な板が現れた。
いちいち言葉に反応しないでほしい。
「ステータス? なんで?」
マリーは本当にわかっていないようで首を傾げる。
ステータスと言ったのにも関わらずだ。
さらにはマリーの目の前に透明な板はないし、僕の目の前にあるステータスに反応している素振りも見えない。
「転生者だから……ということではないのかな?」
「マリーはゲーム版ではなく、小説版の登場人物だからじゃないかしら?」
それかもしれないな。
マリーが戦うのかはわからないが、小説にステータスの設定がないんだろう。
「ねえ、何言ってんの? 全然、ついていけてないんだけど」
置いていかれているマリーが眉をひそめる。
「ごめん。僕はゲームの登場人物だからステータスがあるんだよ。ステータスってわかる?」
「さすがにわかるわよ。HPとかMPでしょ?」
ゲーム機は持ってないけど、友達がやっているところを見てたって言ってたし、ステータスくらいはわかるか。
「それそれ。僕にはそれがあるんだよ」
「はい? そうなの?」
「うん。ちなみだけど、今、僕の目の前に透明の板があるんだけど、見える?」
ステータス板を指差しながら聞く。
「えっと……何もないけど?」
やっぱりか。
僕にしか見えないんだ。
エリーゼにもマリーにも見えないし、ステータスもない。
やはり転生者、かつゲームでステータスを持つ人間っていうのが有力かな?
「あるんだよ。一応、見せておくけど、これが僕のステータス」
紙に書き写しておいたステータス表をマリーに渡した。
すると、マリーがじーっとその紙を見る。
「ふーん……本当にゲームね……って、HP1000ってすごくない? めちゃくちゃ強い……ふふっ、弱っ……」
物理系のステータスを見たな。
「僕は魔法タイプなんだよ」
「確かに魔法系のステータスはすごいわ。というか、レベルが45ってすごいわね。引きこもりって言ってたのにどこでレベル上げしたのよ」
メタル狩りなんかしてないね。
「いや、最初からそれだった。僕は多分、そのステータスが上下しないんだと思う。ボスキャラだから」
「なるほど……しかし、本当に偏ったステータスよね」
「それが雑魚と呼ばれるゆえんだよ。魔法対策したら終わる」
しかも、魔法対策がめちゃくちゃ通るっていう情けなさ。
「それで戦いじゃなくて、生産職の錬金術師を目指したわけね。良い判断だわ。ところで、このMPは何? 8が横になっているけど?」
∞を知らないのか……
「無限っていう意味だね」
「ん?」
「無限の記号だよ。数学とかで習わなかった?」
「ごめん……私、実はアメリアをバカにできないくらい勉強が苦手なんだ……前世から……」
そ、そう……
首ちょんぱが嫌だからウチの魔法学校に入るために努力したんだったね。
「とにかく、それは無限っていう意味。僕はボスキャラだからMPの上限がないんだ。要は魔法を撃ち放題ってこと」
「へー……って、それすごくない? チートじゃないの」
確かにチートかもしれない。
「うん、これが僕の武器だよ。いくらポーションやエリーゼのぬいぐるみを作ってもMPが尽きない」
「そりゃすごいわ。あなたって大成しそうね」
マリーが感心したように頷く。
「大成しなくてもいいけど、アトリエを開いて、エリーゼと一緒に平穏に暮らしたいんだよ」
「良いと思うわよ。魔王を倒すのは勇者に任せておけばいいしね」
そうそう。
「マリーも魔法使いになるんだよね?」
「そうね。どっかに就職か、冒険者か……最悪はあなたのところで雇ってもらうわ」
錬金術師になるのかね?
それとメイドさんもついてくるのかね?
「頑張りなよ。マリーの能力なら宮廷魔術師にでもなれるでしょ」
「宮廷魔術師は筆記試験が激ムズだから無理じゃない? 私、数学で50点を超えたことないわよ」
おー……理数系の学校を出た僕にはまったく理解できない点数だ。
「べ、勉強くらいなら見るよ。勉強は好きだから」
「尊敬するわ……お願い。就職先以前に落第が破滅になるのは私も同じだから」
ちょっと復習しとくか……
「任せておいて」
「ありがと。それでぬいぐるみはどんな感じだった? 売れそう?」
マリー、商品に夢中で僕とエステルさんのやり取りをスルーだったもんな。
「うん。店にいる間にも売れてたみたいだし、良い感じっぽい」
「私は自分の分身が売られているような気分で微妙よ……」
エリーゼは売らないよ。
「エリーゼの魅力を皆におすそわけしてるだけよ」
「ふん」
いやー、可愛い。
惜しむべきはこのツンデレ可愛いエリーゼをぬいぐるみでは表現できないことだ。
「確かにあのぬいぐるみは可愛かったもんね。寮でアメリアに見せてもらったけど、私がもらったやつとは違ってたわ」
「10種作ったんだよ。セット売りしようかと思って」
「コンプしたくてお小遣いが全部なくなった嫌な思い出が蘇ったわ……」
それはごめん。
「ここは出すよ。儲かったし」
「あら、紳士。素敵だわ。さすがは大貴族様ね」
元ね。
「マリーのところも大きいんじゃないの?」
「そこそこかしら? リット王国自体がそんなに大きい国じゃないしね。このショーン王国の半分くらいじゃないかしら?」
そんなもんだったと思う。
「それでも王妃様になれるくらいには大きいでしょ」
王妃になるのにも家の格が必要になる。
「まあねー……私もそんな良いところじゃなくていいから平穏な生まれが良かったわ」
「頑張ってそういう人生を歩もうよ」
「そうね……そうしましょう」
僕達はその後も話をしながら過ごし、夕方になったので店を出ると、一緒に寮に戻った。
「マリー、また月曜ね」
男子寮と女子寮の間で別れを告げる。
「ええ。今日は楽しかったわ。それに奢ってくれてありがとう」
「うん。僕も楽しかったよ。なんか久しぶりに知っている人と会話ができて良かった」
「それはそうね。お互い、頑張りましょう。それと来週からの特別実習もよろしく」
あと勉強ね。
「そうだね。じゃあ、また」
「ええ」
僕達は手を振り合って別れると、それぞれの寮に入った。
部屋に戻ると、一休みし、エリーゼのぬいぐるみを作っていく。
しばらくすると、ランディが呼びにきたので一緒も夕食を食べた。
なんかにやにやしているランディがちょっとムカついた。
