マリーに付き合っていると、昼前になったので雑貨屋を出た。
 そして、喫茶店に行き、昼食を食べる。

「ゲームの世界に転生して良かったと思えるのはご飯が美味しいことよね」

 マリーがパスタを食べながらしみじみと頷いた。

「それは言えてるね。中世ヨーロッパって感じがする町並みだけど、あるゆるところで現代日本を感じる」

 食事もそうだが、普通に時計もあるし、カレンダーもある。
 トイレも水洗だし、お風呂もシャワーだってある。

「私は特にね……あ、いや、これはいいわ。それよりも今後のことを話しましょう。まず、アメリアの勧誘が上手くいったのは良かったわね」

 マリーが本題に入る。

「そうだね。なんとなくだけど、勉強を見る感じも作れそうだよ」
「ん? なんで?」

 マリーの手が止まる。

「ランディも自信ないんだってさ。今度、勉強を見ることになった」
「へー……でも、ウィルって錬金術科でしょ? 大丈夫なの?」
「これまでずっと魔法の勉強をしてたからね。大丈夫だと思うよ」

 引きこもってね。

「へ、へー……すごいわね」
「マリーも見てあげるよ。ギロチンは嫌だし」
「ウィル……こんな可愛い子が悪役貴族になるなんて信じられないわ」

 それ、僕だけど、僕じゃないからね。
 あと、やっぱりだけど、マリーの前世は10代で亡くなってないと思う。
 なんか僕を見る目が完全にお姉さん目線だし。

「なんないから。そういうわけでアメリアの落第阻止はそんな感じで大丈夫だと思う」
「じゃあ、このままいけばアメリアの方は問題なさそうね。ひとまずは安心だわ」

 ホントにね。

「他にここでのイベントってあるの?」
「ちょこちょこあった気がするけど、たいしたものではないわ。少なくとも、私達の生活に影響するイベントはないと思う」

 なら大丈夫か。

「そもそもなんだけど、ドラグニアファンタジー・ゼロってどういう話なの? ドロドロな政治劇って言ってたけど……」
「そうねー……私も記憶があいまいだけど、ざっとあらすじを説明するわ。リット王国に住む男爵令嬢が主人公なんだけど、幼少期から苦労の連続でね、それはもう大変なわけよ」

 男爵とはいえ、貴族なのに苦労しているんだ……

「令嬢が主人公なのはちょっと微妙じゃない?」
「それが男性ゲーマー達からの支持がなかった原因ね」

 まあ、そうだよね。
 勇者は男だったし。

「それでその男爵令嬢はどうなるの?」
「貴族学校に入り、色んなイベントが起きるわ。そこで仲間と出会い、友好を深めていくわけよ」
「へー……」

 面白いのかな?

「ごめんね。私、あまりそういうおすすめが得意じゃないの」
「いや、今は面白いかはいいよ。それよりも話を進めて」
「主人公は学校を卒業して、宮仕えをするんだけど、その際に学校での仲間と共に政変に巻き込まれるわけ。それで最終的には王家が倒れ、国を救ってハッピーエンドなわけ」

 すんごい端折ったな……

「リット王国って悪い国なの?」
「そこは何とも……ただ、王様は良くないわね。その王妃である私も、ね……」

 確かに何とも言えないな。

「その主人公と会ったことある?」
「あるわよ。普通の子だったと思う」

 まあ、主人公はそんなものかもしれない。

「仲間とやらは?」
「2人くらいかな? 主人公側だから悪い人じゃなかったわね」

 さて、聞いていいものか……

「えーっと、ごめんね。王様……今は王子様かな? その人は?」

 小説版でマリーの旦那さんになる予定の人。

「見かけたことはあるわ。でも、会って話したことはない。かっこいい人だと思うけど、私、もっと可愛い感じの子が良いのよね」

 マリーの好みは知らないが、面識はないのか。
 あ、いや、社交界で見初められるわけだからそれはそうか。

「ウィリアム・アシュクロフトは出てこないんだよね?」
「ええ。出てこない」

 これは少し安心材料だ。

「この学校にいる人達は? アメリア以外ね」
「出てこなかったと思うわ……逆に聞きたいけど、ゲーム版で出てくる人はいる?」

 僕……あ、待てよ。

「エリーゼは仲間になるよ」
「え? この子? ウィリアム・アシュクロフトを倒したら仲間になる感じ?」
「いや、シーン帝国で売られていて、買えば仲間にできる感じ」
「…………え? あなたの使い魔よね? それって……」

 うん……

「きっと僕はこのままでは悪に落ちると察したんだと思う。それでエリーゼを巻き込んではいけないと思い、逃がしたんだと思うよ」

 きっとそう。

「ぜーったい、邪魔になって捨てたのよ。こいつ、人々に重税を課し、女を侍らかす悪党だからね」

 やっぱり根に持っているエリーゼちゃん。

「ウィリアム・アシュクロフトって本当にひどいわね……」

 そこでちゃんとフルネームで呼び、僕と差別化しているマリーの優しさに涙が出そうだよ。

「そうならないように家を出て、ここにいるんだよ。エリーゼを捨てるなんてとんでもない」

 テーブルの上にいるエリーゼを抱えて撫でた。
 エリーゼは気持ちよさそうな顔で身を委ねている。

「まあ、そうよね……他にはいないの?」
「今のところはいないね。前にも言ったけど、そもそもここはイベントがないんだ。だからこの地を選んだんだし」
「言ってたわね……その仲間は? ウチの教師だっけ?」
「うん。でも、その先生も若い女性の先生だし、この時代だと生まれてないか、生まれててもまだ子供だと思うよ」

 今はゲームの数十年前だし。

「ゲームの方は問題ないわけね……」

 ゲームの方か……