魔法学校に入学し、最初の休みの日。
 この日はちょっとゆっくりめに起きると、食堂で朝食を食べ、部屋に戻った。
 そして、準備をすると、時間になったのでエリーゼを抱え、寮を出る。
 すると、寮の前でマリーが待っていた。

「お待たせ」
「私も今来たところよ。行きましょう」
「うん」

 僕達は歩いていき、学校の敷地を出る。

「この前に喫茶店でいいわよね?」

 マリーが確認してくる。

「うん。でもその前にちょっと付き合ってくれない?」
「何? デート? どこよ?」
「あの喫茶店近くの雑貨屋さん。エリーゼのぬいぐるみを置いてもらえないかなって思ってさ」

 市場にあるのだ。

「ふーん……まあでも、奇しくもデートのチョイスとしては悪くないわね。行きましょうか」
「行こう、行こう」

 僕達は町中を眺めながら市場に向かって歩いていく。

「ねえ、この光景はゲームでも?」

 マリーが町を見渡しながら聞いてきた。

「そうだね。小説版では……そうか、小説か」

 絵がない。

「そうなのよ。絵がないから情報がなかり少ないのよ。もっと言えば、小説も昔、1回だけ読んだだけだから詳細なところまでは覚えてないの」

 視覚情報がないと厳しいか。

「それはそうかもね。ちなみにだけど、マリーって何歳なの?」
「ウィル、ルールを決めましょう」

 ルール?

「何?」
「あまり前世のことを話すのはやめない?」

 あー、それがいいかも。

「僕はウィルね。15歳」
「私はマリー。15歳」

 うんうん。
 エリーゼも言ってたようにその辺がごっちゃになるのは危ないかもしれない。

 僕達は市場にやってくると、雑貨屋に入る。
 雑貨屋はそこまで大きくなく、コンビニ程度の広さだったが、日用品などが売られており、どれも可愛らしい感じのものが多かった。
 当然、客層もそれに見合った感じであり、女性や子供ばかりだ。
 というか、制服を着ているウチの生徒もいる。

「ふーん、悪くないわね。私はちょっと見てるから話してきなさいよ」

 マリーは頬が緩んでおり、ちょっと嬉しそうだ。

「じゃあ、ちょっと待っててね」
「ゆっくりでいいわよー」

 ご機嫌なマリーが商品を見だしたので受付にいるメガネをかけている茶髪で優しそうなお姉さんのもとに向かう。

「こんにちは……」
「いらっしゃいませー。何かお探しですか?」

 お姉さんが笑顔で応対してくれる。

「えーっと、店長さんは?」
「店長? 私のお店なんで私が店長ですね」

 あ、そうなんだ。
 まだ若いのに店を出したのか。
 自分もそれを目指しているからちょっと尊敬する。

「そうですか……あの、ご相談なんですけど、この店にこれを置いてもらえませんかね?」

 空間魔法から10種の白猫のぬいぐるみを取り出してカウンターに置いた。

「何これ? 猫?」

 店長さんが1つのぬいぐるみを手に取り、まじまじと見る。

「ぬいぐるみって言うんですけど、錬金術で作ったんです。モデルは使い魔のこの子です」

 エリーゼを見せる。

「魔法学校の学生さんなわけね」
「はい。将来はアトリエを開きたいんです」
「それは立派ね。これはどれくらい用意できて、いくらぐらいで売りたいの?」

 えーっと?
 値段か……正直、原価はほぼかかってない。
 布なら何でもいいし、綿は安いのだ。

「数はいくらでも用意できますし、別の生き物が良かったら指定して頂ければ作れます。値段は……銀貨1枚くらい?」

 高いかな?

「なるほどね……じゃあ、10種類あるし、とりあえず、金貨1枚で買い取るわ。店に置いてみて、お客さんの反応を見てみる。売れそうだったらまた納品してちょうだい」

 おー、やった!

「それで」
「じゃあ、金貨1枚ね」

 店長さんがカウンターに金貨1枚を置く。
 これが僕の錬金術師としての初めての収入になる。

「ありがとうございます」
「いえいえ、魔法学校ってことは寮に住んでるの?」
「はい。1年のウィリアム・アシュクロフトです。皆、ウィルと呼びます」
「ウィル君ね…………え?」

 あ、アシュクロフトはマズかったかも……

「ど、どうしました?」
「あなた、1年? 入学したばかりなのにもうこういうのが作れちゃうの?」

 あ、そっちか。

「元々、魔法使いでしたし、発想自体は前から持ってましたんで」

 前(世)です。

「ふーん……すごいわね。わかったわ。何かあれば訪ねるか手紙を出すわ。あ、私はエステルね」
「エステルさんですね。わかりました。それではお願いします」
「ええ。こちらこそね」

 エステルさんに軽く頭を下げると、コップを見ているマリーのもとに向かった。

「終わったよー」
「どうだった?」

 マリーはこっちを見ずに聞く。

「様子見ってことで置いてもらえるって」
「それは良かったわね。ねえ、こっちとこっちだとどっちが良いと思う?」

 2つのコップを見せながら聞いてくる。
 1つは赤いので1つは青いのだ。

「こっち」

 青いのを指差す。

「ふーん……」

 マリーがコップを置いた。

「買わないの?」
「今日は見るだけ。次はっと……」

 エリーゼが他の雑貨を見にいった。
 僕はこれでもちょっと大人なので黙ってマリーについていく。
 その後もマリーに付き合っていくと、マリーが再び、コップを見だした。

「……さっきも見なかったっけ?」

 小声でエリーゼに聞く。
 さっきマリーが見ていた同じ青いコップと赤いコップなのだ。

「……ここで良い男と良くない男に分かれるわよ。楽しそうなマリーを見られて幸せだねっていうスタンスで行きなさい」

 そっかー……

「ウィルくーん」

 ん?

 自分を呼ぶ声が聞こえたので振り向くと、エステルさんが手招きしていた。

「マリー、ごめん。行ってくる」
「うん」

 マリーがコップを見ながら頷いたので受付に向かう。

「何でしょう?」
「デート中にごめんね。さっきのぬいぐるみをもうちょっとちょうだい」

 ん?

「どうしたんです?」
「もう半分なくなった」

 え?
 あ、カウンターの横に置いてあるエリーゼ達が5匹しかいない。

「早いですね」
「会計に来たお客さんが無言で取って、カウンターに置いていく」

 さすがはエリーゼだな。

「えーっと、今は3セットしかないですけど」
「はい」

 エステルさんが金貨3枚をカウンターに置いた。

「じゃあ……」

 金貨を手に取ると、残っている30匹のエリーゼ達をカウンターに置く。

「また連絡するかね」
「わ、わかりました」

 部屋に戻ったら補充しようかなーっと思いながらマリーのもとに戻り、雑貨を……楽しそうなマリーを見続けた。