マリーが帰っていったので僕とアメリアも実習室に戻り、ポーションを作っていく。
すると、4時を回り、授業を終えた。
「今日はここまでだ。1週間お疲れさん。明日からは休みになるが、この休みをどうするかもお前達の裁量に任せる。学校は空いているし、職員室か事務室にいる先生達に声をかければ特別訓練施設も使用できる。では、解散とする。あ、ウィリアムとアメリアは残ってくれ」
ん?
何だろうと思い、アメリアと顔を見合わせていると、他の生徒が帰っていった。
「先生、何でしょう?」
すべての生徒が実習室から出ていくと、アメリアが聞く。
「実はな、来週も今週と同じように魔力コントロールの実習になりそうなんだ」
「そうなんですの?」
「今年のウチの科の生徒はお前を除いて、皆、座学の成績は良い。だが、逆に実技に少し時間がかかりそうなんだ」
一言多いよ、先生。
「魔力コントロールができないんですの?」
「こればっかりはな……できるようになれば苦労しないが、それまでは人によって習得スピードが違う。そして、魔法使いでもあるお前達は承知しているだろうが、ここを疎かにはできない」
魔力コントロールは魔法使いにとっては大事なことである。
この微妙なさじ加減を間違えると、気絶することもあるし、危ないのだ。
それは当然、錬金術師もであり、たとえば、危ない薬品を扱っている時に気絶すれば普通に死んでしまう。
「それはわかります。そこだけは特に重点的に教わりましたので」
僕も。
「ああ。そういうわけで来週も自信のない奴に魔力コントロールを教えていく。そうなると、お前らはずっとポーションを作ってばかりで暇だろ。だから良いものをやる」
先生はそう言って、僕達に本を渡してくる。
「これ、何ですの? 触媒?」
本には触媒図鑑と書いてある。
「今週の座学の授業でも説明したが、錬金術は特定の素材を触媒にすると品質が上がる。それの図鑑だ。暇だったら読んで特別訓練施設で探しても良い。回復ポーションがワンランク上がるかもしれんぞ」
こう言うってことはランクが上がる触媒が特別訓練施設にあるんだろうね。
「わかりましたわ」
アメリアが頷いた。
「以上だ。頑張ってくれ」
「あ、先生、ちょっと良いですか?」
帰ろうとするダニエル先生を呼び止める。
「ん? 何だ?」
「例の特別実習のチームなんですけど、アメリアと魔法科の生徒2人で組むことになってんです。それでこの後、顔を合わせをしたいのでどこかの教室を借りてもいいですかね?」
「いいぞ。どこでもいいと思うが、錬金術科の教室を使うといい」
よし、錬金術科の教室を借りれたぞ。
「ありがとうございます」
「感謝しますわ」
2人で礼を言う。
「ああ。ではな」
ダニエル先生が帰っていったので僕達も教室を出ると、階段を降りて、寮に向かう。
すると、男子寮と女子寮の間辺りでマリーとランディが待っていた。
「あ、先に待ってた」
「早めに終わったらしいですからね」
そういえば、そうだ。
僕達はちょっと歩くスピードを早めて2人のもとに行く。
「ごめん。遅れちゃった」
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
2人で謝罪した。
「俺らは早めに終わったからな」
「仕方がないわよ。そもそも遅れてないしね」
2人は気にしてない様子だ。
「先生に錬金術科の教室を使っていいって言われたからそっちに行こうか」
「そうするか」
「ここは目立つしね」
僕達は来た道を引き返し、再び、校舎の方に向かうと、3階に上がり、錬金術科の教室に入る。
当然、誰もいなかったので窓際の席に行き、僕、ランディが前に座って、マリーとアメリアが後ろに座った。
「「「「………………」」」」
あれ?
「ウィル」
「あなたでしょ」
「ウィルが仕切ってくださいませ」
え?
「僕なの?」
こう言ったらなんだけど、この中で僕が一番、仕切るのに向いてないよ?
「あなたが誘ったんでしょうが」
「そうですわ」
僕もランディに……
いやまあ、誘うつもりで声をかけたんだけども。
「えーっと、この人がランディ。アメリアは初めてでしょ」
正しいのかはわからないが、貴族であるアメリアにランディを紹介する。
「ごきげんよう。もしかして、入学試験の時にご一緒ではありませんでしたか?」
「一緒だったな」
へー、そうなんだ。
「やはりそうですか。見たことがあると思いました」
「あの時は数人だったからな。お前やジスランが目立っていた」
やっぱりアメリアもジスランもすごいんだ。
「ランディ、アメリアね」
「ああ、知ってる」
まあ、アメリアのことを教えてくれたのはランディだしね。
「この4人でチームの申請をするんだけどいいかな?」
一応の確認。
「いいぞ」
「ええ」
「もちろんですわ」
ちょっと安心……
ここに来て、『やっぱり……』っていうのも心の隅で思わないでもなかった。
「じゃあ、この4人で頑張ろう。でも、実際のところ、特別実習って何かな?」
「うーん、特別な実習だと思いますわ」
僕もそう思うよ、アメリア……
「私は魔法科と錬金術科の混成でも大丈夫っていうのが気になるわ。普通、分けない?」
「俺もそう思うな。でも、そこが特別なんだと思う。じゃなきゃ、各科の実習でやれば良いことだからな」
なるほど。
マリーとランディは賢いな。
「そんなのは考えても仕方がないことよ。来週、聞けばいいこと。それよりも決まったのなら事務室で申請したら? 閉まっちゃうわよ」
エリーゼが一番賢いかも。
「それもそうだね。行こうか」
そう言って立ち上がると、皆と共に事務室に向かい、申請をした。
申請は渡された紙にそれぞれの名前を書くだけだったのですぐに終わり、寮に戻ると、解散した。
そして、時間的に夕食時だったのでそのままランディと食堂に行き、夕食を食べる。
「いやー、無事に申請できて良かったよ。一時は誰とも組めないで孤立するかと思った」
「良かったな。それよりもウィルは土日は何をするんだ? まだ勉強か?」
ガリ勉って思われてないだろうか?
まあ、否定はできないんだけど。
「勉強もするし、錬金術の練習もするね。でも、明日はちょっと出かける」
「おや、珍しい」
「ちょっとね……」
「あー、はいはい。どっちかねー?」
何が?
「違うからね」
「はいよ。俺もちょっと勉強すっかな。難しいわ」
「ちょっとなら見てあげようか? 僕、魔法の方も少しならわかるし」
ずっと部屋で勉強してたし。
「おー、友よ。そのセリフを明日、マリーにも言ってあげた方が良いぞ」
あと、アメリアね。
「わかってるよ」
「そっかー。頑張れよ」
君が勉強を頑張るんだよ。
