僕とアメリアは特別訓練施設にやってくると、奥には行かず、手前の方で採取をすることにした。
「これがギザギザ草。品質の良し悪しの見分け方は覚えてる?」
アメリアと並んで草の前でしゃがみ、聞いてみる。
「えーっと、変色があるかとギザギザの部分を見るんでしたっけ?」
「そうだね。あと、単純に鮮度。ほら、これとかもうダメっぽいでしょ?」
しおしおになった葉っぱを指差す。
「ですわね。これで作ったら逆効果っぽいですわ」
うん、ダメージを負いそう。
「新鮮なのは……えーっと?」
いっぱいあるな……
「これですかね?」
「あ、そうそう。そういうの」
ちゃんと品質の良いギザギザ草だ。
「採取の仕方は? 普通にちぎればいいんですの?」
「この本に書いてあるけど、茎の部分を折って採取するんだよ。葉っぱを傷付けたら品質が落ちるからって」
「確かにせっかく良い葉っぱを選んでも採取する時に傷付けたら意味がありませんものね」
まったくもってそう。
「それとこの本とは別に採取の本も持っているんだけど、できたら手袋とハサミを持ってきた方が良いみたいだよ」
錬金術の本じゃなくて、園芸用の本だけど。
「ハサミはわかりますが、手袋もですか?」
「うん。このギザギザ草は薬草だから大丈夫だけど、ものによっては毒があったりして手が荒れたりするらしい。嫌でしょ」
ぱっと見てもアメリアの手は貴族令嬢らしく、手入れがされたとても綺麗な手だ。
「それは確かに嫌ですわね。買っておきます」
「今日は素手でも問題ないよ。ギザギザ草はむしろ美容にも使われる草だから肌に良いらしいから」
「そうなんですの?」
「この本にちょこっと使用例が書いてあるけど、回復ポーションの他にも美容液や入浴剤にも使われるって書いてある」
アメリアに本を見せる。
「ホントですわね。自作してみようかしら?」
「いいんじゃない?」
僕はそっち方面は全然、わかんないけどね。
「では、採取しますか」
「うん。空間魔法は使える?」
「もちろんですわ」
さすがは貴族の魔法使いだ。
本当に実技は優秀だったんだろうな。
やはり学力、か……
「じゃあ、採取していこうか。本は好きに読んでいいし、わからないことがあったら聞いてよ。好きで本ばっかり読んでるからさ」
「ありがとうございます。ウィリアムさんは頼もしいですね」
この子、すごく良い子だなー。
この子が闇落ちし、僕が悪役貴族になるんだから人生っていうのはわからないもんだ。
僕達は各々、ギザギザ草を採取していく。
見張りはエリーゼがやってくれるので安心して作業をすることができた。
「あー、腰が痛くなりますわね……」
さすがにぶっ通しでやっていると、アメリアが立ち上がり、身体を伸ばす。
「本当にねー。ポーションでも飲むと良いよ」
「そうします……それとそろそろ実習室に戻りましょうか」
時計を確認すると3時前だった。
結構採取できたし、確かに戻った方がいいかもしれない。
「そうしよっか……あれ? マリー?」
奥からマリーが歩いてくるのが見える。
「本当ですわね。マリーアンジュさんです」
アメリアも気付いたようでそのまま待っていると、マリーがやってきた。
「ごきげんよう」
アメリアがいつもの挨拶をする。
「ごきげんよう。今日は2人で採取?」
「ええ。ウィリアムさんとギザギザ草の採取ですわ。マリーアンジュさんはどうしたんですか? まだ3時前ですけど?」
確かに早い。
「揉め事。ケンカになって、授業になんないから帰ってきた」
えー……
「ケンカって……何があったの?」
「いつもの見栄の張り合い? 先生が言うには毎年のことらしいけど、男子って嫌だわー」
男子というか、ジスランでは?
知らないけど。
「マリー、ランディに聞いたかもしれないけど、アメリアがチームに入ってくれるってさ」
「聞いたわね。アメリア、よろしくね」
「よろしくお願いしますわ、マリーアンジュさん」
「マリーでいいわ。長いのよ」
確かに長いね。
「では、マリーさんとお呼びします」
「僕もウィルでいいよ。皆、そう呼ぶし」
皆(エリーゼ、マリー、ランディのみ)
「では、ウィルとお呼びします」
あれ? 呼び捨てなの? まあいいか。
「あ、ウィル。なんか朝起きたらエリーゼのぬいぐるみが枕元に置いてあったけど、何? あなたでしょ」
「まあ……!」
言い方よ。
アメリアがちょっと赤くなってんじゃん。
「昨日、リサに会った時に渡したんだよ。可愛いから売ろうかと思っている」
「まあ、確かに可愛かったけど……寝起きだったからエリーゼがあなたを見限ってウチに来たのかと思ったわ」
なんでだよ。
エリーゼは僕の使い魔だい。
「あのー、ぬいぐるみって何ですの?」
アメリアが聞いてくる。
実はこの世界にはぬいぐるみがないのだ。
だからこそ、売れるかと思って作ってみたのである。
「こういうやつ」
空間魔法からエリーゼのぬいぐるみを取り出し、アメリアに渡す。
「まあ、可愛い! エリーゼさんですね!」
アメリアがエリーゼと見比べながらぬいぐるみを撫でた。
「私の方が美人よ」
それはもちろんそう。
「私のやつとは違うわね……」
同じやつを作っても面白くないので違うポーズのやつを10種くらい作ったのだ。
「試作品だからあげる」
「ありがとうございます。可愛いですねー」
「確かに可愛いけど、元の猫を知っているとなんか変な気分よね」
女性陣には好評のようだ。
ちょっとサンプルを持って、商人ギルドか雑貨屋にでも行こうかな……
