なんやかんやあったが、無事にチームを組むことをマリーに了承してもらったので一緒に寮まで戻る。

「ウィル、明日は無理そうだけど、明後日の休みの日に会えない?」

 この世界は日本で作られたゲームのためかはわからないが、1年は365日だし、1か月は30日前後だ。そして、1週間は7日であり、土日は休みになる。

「大丈夫だけど、どこ?」

 土日は勉強しているか錬金術の練習をするくらいだろう。
 あとはエリーゼと遊んでいるか、ランディとしゃべっているかだ。

「さっきの喫茶店がいいかな。あまり人がいるところでしゃべれる内容じゃないし」

 確かにね。

「わかった。僕も話がしたいし、土曜日にあそこに行こう」
「うん。じゃあね。アメリアの件、よろしく」
「う、うん……」

 寮の前でマリーと別れると、男子寮に入り、階段を昇っていく。
 そして、3階までやってくると、ランディの部屋の扉をノックした。

「ランディー」
「おー、帰ったか」

 声をかけると、すぐに扉が開き、ランディが顔を出す。

「帰ったよ。ちゃんとマリーを誘った」
「何て? まあ、結構時間がかかったみたいだし、色よい返事をもらえたと思うが」

 断られたらすぐに帰ると思ったのかな?

「うん。マリーもまだ組んでないみたいだから了承してもらった」
「それは良かったな」

 ランディが嬉しそうに僕の肩を叩く。

「どういう意味で?」
「色んな意味。まあ、とにかく、これで3人になったな。他はどうする?」
「それについてマリーと話したんだけど、アメリアを誘ってもいいかな?」
「アメリアってあのル・メールの? やっぱり女子が欲しいって?」

 どうしよ?
 まあ、それでいいか。

「そんなところ。僕が明日、誘うことになったけど、ランディは大丈夫?」
「俺は別に構わんぞ。でも、いいのか? ル・メールだぞ?」

 アシュクロフトのライバルの家っていう意味だろう。

「アメリアはそういうことを気にしている感じの子じゃないし、大丈夫。良い子なんだよ」
「へー……まあ、その辺は任せるわ。ただ一応、顔合わせくらいはしようぜ」

 それもそうか。

「わかった。明日、誘ってみるし、その結果次第でどっかで会おうよ」
「了解。その辺も任せる」
「うん」

 ランディへの報告を終えたので自分の部屋に戻る。
 そして、すぐにベッドに倒れ込んだ。

「あー、疲れたー」
「お疲れ」

 耳元でエリーゼが囁いてくれる。

「ただでさえ、マリーを誘うのに緊張してたのにそれ以上の爆弾が返ってきたよ」
「さすがにね……」

 びっくりした。
 何ならまだ状況を完全には呑み込めていない。

「エリーゼ、一応確認だけど、マリーの言葉に嘘はあったかな?」
「ないわね。最初の方は不安の感情がすごかった」

 正直、こんなとんでもないことをよく打ち明けたなと思えるが、やはり仲間が欲しかったのだろう。
 それが悪役であるウィリアム・アシュクロフトだとしても。

「最後の方は?」
「あんたと一緒。安堵感」

 そうか……

「しかし、前日譚の小説があるとは……まったくチェックしてなかった」
「危なかったわね」

 本当にそうだ。
 ちょっと安心しきってたところがある。

「土曜にマリーにもう少し、聞いてみるよ」
「いいんじゃない? それと明日ね」

 アメリアか……

「大丈夫かな? よく考えたら僕、ライバル認定されてなかった?」
「それはそれ、これはこれよ。私が良い感じの援護射撃をしてあげるから任せておきなさい」

 エリーゼが助けてくれるなら安心だ。

「よし! 勉強しよう!」

 起き上がると、デスクにつき、教科書を開く。

「真面目ねー」
「それだけが取り柄なの」

 僕は勉強を始めたが、すぐにランディが呼びにきたので夕食を食べる。
 夕食後も引き続き、勉強をしていき、良いところまで予習を終えると、次にポーションを作り始めた。

「あんたって息抜きとかしないの?」
「エリーゼが話しかけてくれるだけで息抜きになるよ」
「もう! 茶化さないの!」

 茶化してないけど?
 そのご機嫌な尻尾がすごく可愛いし、癒しだよ。

「モノを作るのは好きなんだよ」
「ふーん、でも、ポーションばかりで飽きない?」

 それはちょっと感じていることだ。

「じゃあ、ちょっと違うものを作ってみようか」
「できるの?」
「ポーションみたいな魔法的な要素のないもので大層なものじゃないよ」

 前に作ろうかなと思っていたものだ。

「何を作るの?」
「まあ、見ててよ」

 空間魔法から春休みの間に勝っておいた綿と安い布を取り出した。
 そして、魔力を込めて、錬成する。
 すると、あっという間に真っ白な猫のぬいぐるみができあがった。

「どう? エリーゼだよ」

 多少、デフォルメしているが、めちゃくちゃ可愛らしい。

「すごいわね……でも、どう反応していいかわからないわ。私、こんな感じ?」

 エリーゼが前足でぬいぐるみをちょいちょいと突く。

「本物の方が可愛いに決まっているけど、子供とかに人気そうじゃない?」
「まあ、女子供は好きかもね……ん?」

 エリーゼが窓の方を見る。
 コツンという音がしたのだ。

「何だろ?」
「虫かしら?」

 立ち上がり、窓の方に行くと、カーテンをずらす。

「は!?」
「え!?」

 窓の外にはメイド服を着た黒髪の女性がロープか何かでぶら下がっていた。
 どう見てもマリーのメイドのリサである。

「ちょっ!」

 慌てて窓を開ける。

「こんばんは」
「こんばんは……じゃなくて! 何してんの!?」
「しー」

 リサが口元に指を当てる。

「……えっと、何をしているの?」

 本当に……ってか、ここ3階ですけど?

「今日、お嬢様と話をしましたね?」
「う、うん……特別実習のチームに誘ったけど」
「前世のことも聞きましたね?」
「ええ。そのことも話した……あ、あの、中にどうぞ」

 いつまでそこにぶら下がっているんだろう?

「では、失礼しまして……」

 リサが中に入ってきた。

「いくらメイドさんでも男子寮に入るのはマズいのでは?」
「マズいでしょうが、バレないので問題ありません」

 良くない考えだ。

「呼ばれれば行くよ」
「いえいえ。そんな御足労をして頂くわけにはまいりません。すぐに済みますので」
「えーっと、何でしょう?」
「たいしたことではございません。どうか、お嬢様をよろしくお願いします」

 リサが深々と頭を下げた。

「リサは前世のことを聞いているんだよね? どう思っているの?」
「最初はどうかしてしまったのだろうと思いました。ですが。お嬢様が予言したことがことごとく当たったのです」

 イベントか。

「僕の頭もおかしくないなら本当なんだと思うよ」
「事実なんでしょうね……ですが、そうなるとあまり良いことではありません」
「ギロチンね」
「私はそれを許容できません。当然、お嬢様もでしょう」

 そりゃそうだ。

「最悪は逃げられる?」
「もちろんです」
「リサもフォートリエのメイドを辞めることになっても?」
「ええ」

 リサがはっきりと頷いた。

「そう……僕が何かできるかはわからないけど、一緒のチームだし、僕自身も嫌なイベントは避けたいから協力しようと思ってるよ」
「ありがとうございます。何卒、お力添えのほどをよろしくお願いいたします。それでは私は戻ります。錬金術の練習中だったのに失礼しました」

 リサが再び、頭を下げると、窓の方に行く。

「息抜き中だったからいいよ。あ、待って。これ、あげる」

 デスクの上にある猫のぬいぐるみを取り、リサに渡す。

「これは何でしょう?」
「エリーゼのぬいぐるみ。可愛いでしょ」
「ええ。とても。ありがとうございます。お嬢様も喜ぶでしょう」

 あれ? マリーにあげるの?
 別にいいけども……

「気を付けて……あれ?」
「消えた?」

 一瞬にしてリサの姿が消えたので上半身を乗り出して、窓の外を覗く。
 でも、誰もいない。

「忍者みたいだったね……」
「何それ?」

 この世界に忍者はなかったか。

「隠密? 密偵? そういう人達のこと」
「なるほど。多分、護衛を兼ねているメイドでしょうし、そういうこともできるんでしょうね」

 メイドってすごいね。