「アメリア? ウチのクラスの?」
「そう。ショーン王国の大貴族であるル・メールの御令嬢ね」

 アメリア……

「落第だっけ?」
「ええ。小説では落第したとしか書いてないからどういう風に落第したのかはわからないけどね」

 いや……

「エリーゼ、どう思う?」
「普通に学力で落第でしょ。問題を起こすような子じゃないし、魔法科を落ちたレベルの子だもの……」

 だよね……

「錬金術科ではどんな感じなの?」

 マリーが聞いてくる。

「まだ数日だから何とも言えないけど、実戦派だと思う。魔法使い志望だっただけあって魔力のコントロールはできるし、すでに最低ランクとはいえ、Fランクのポーションを作れてた。でも、座学では首を傾げている場面をよく見る」

 アメリアは一番前のど真ん中にいるから目立つのだ。

「人のことを言えないけど、座学の成績が良くないわけね」

 そういえば、マリーも自信がないって言ってたな。
 得意ではないのだが、首ちょんぱが待っていたから必死に勉強したんだろうな。

「しかし、あのアメリアが良くない道に進むのか……」
「どんな子なの? 寮で挨拶くらいしかしてないけど、明るい子っていう印象はあるけど」
「いや、そのまんま。裏表がないし、ポジティブな子だよ。それが変わってしまうのか……本当にアメリアなの?」

 ちょっと信じられない。

「間違いなく、アメリア・ル・メールよ。それに変わってしまうのはあなたもでしょ」

 それもそうか。
 僕も良くない道に行ってしまう。

「ウィル、どんな人間でも環境次第で変わってしまうものよ」

 エリーゼがそう言いながらマリーの腕から飛び降り、こちらに帰ってくる。

「そうなのかもね……しかし、そうなると、イベントを回避するためにはアメリアの落第を阻止すればいいわけだね」
「そういうこと。私はそれが1つの手だと思って、アメリアと仲良くなる案を考えた。そしたらまさかの錬金術科だったのよ」

 普通は魔法科って思うよね。
 何しろ、ル・メールは魔法使いの名門なんだから。

「なるほどね……魔法科を落ちちゃったから……」
「その辺が闇落ちの原因じゃない?」
「どうだろ……すごいポジティブな子なんだよ。今は錬金術師を目指しているってはっきり言ってたし」

 切り替えがすごい早い。

「うーん……無理してる? それともその錬金術科すら落第したからかな?」
「さあ?」

 どうだろ?
 そこまで付き合いがあるわけでもないし、踏み込んだ会話をしていないからわからない。

「2人共、その辺はとりあえず、置いておいていいわ。今、決めるのはそのイベントが起きるのを阻止するかどうか。嫌な言い方をすると、アメリアを見捨てるかどうかね。イベントが卒業後ならこの地を離れればあなた達に害は起きない」

 確かにそうだ。

「マリーはどう考えてる?」
「私はまだ道を決められてないのよ……だから卒業後にどうなるかがわからない。ウィルはアトリエを開くんでしょ?」
「うん。でも、できればこの町でって思ってた。のどかで良い町だし、何よりも奨学金の返済の補助のことがあるから」

 できれば借金を減らしたい。

「そうね……となると、イベント阻止の方向?」
「そうしたいね。そこまで関係性が深いわけじゃないけど、知り合いというかクラスメイトが闇落ちして死んじゃうって結構ショッキングだしね」

 しかも、それが明るい子だからなおさら。

「それもそうね。そうなると、アメリアの落第を阻止する方向になるわよ?」
「ちょっと気にかけてはみるよ。実習では同じテーブルだし」
「お願い。私も寮でちょっと話してみる」

 アメリアか……
 いっそ、特別実習のチームにでも誘おうか……あっ。

「マリーを呼び出した用事を思い出した」

 マリーの話のインパクトが強すぎてすっかり忘れてた。

「あ、そういえば、そうね。何? 愛の告白? 私、首がかかってるし、勉学に集中したいからお断りよ」

 やっぱり告白って思われた。
 しかも、断る理由がものすごく納得できる。

「いや、そうじゃなくて……マリーはさ、もう特別実習のチームは決めた?」
「あー、あれね……まだ決めてない。というか、他国出身の私は中々ね……知り合いがゼロだもの」

 なるほど。
 社交的なマリーにもそういうのがあるのか。

「良かったら一緒に組もうよ。僕、クラスメイトにも寮生の皆にも目が合わないレベルで避けられている。ランディとマリーしか話せる相手がいないんだよね」
「可愛い笑顔できついことを言うわね……」

 仕方がないよ。

「アシュクロフトの評判があまり良くないんだよ。しかも、悲しいことに評判だけじゃないってのがきついところ」
「まあね……その親友のランディは?」

 ランディって親友なの?

「組んだ。それでランディがここをセッティングしてくれたんだよ。お前が誘えって」
「なるほどね……」

 マリーが呆れた顔で窓の外を見る。

「どうかな?」
「組むのは構わないわよ。こんな感じで情報交換もしたいし、組む相手に困っていたから……3人?」

 マリー、僕、ランディ。
 チームは3人から5人だから最低人数は集まっている。

「今のところね。それで話を聞いて思ったのはアメリアも誘ってみない? 同じチームならテスト前に勉強会してもおかしくないでしょ」

 それで落第を阻止する。

「悪くないわね……イベント回避のためにも……私のためにも……」

 マリーも勉強が苦手だもんね。
 もし、マリーが落第したら実家に帰り、社交界イベントが起き、ギロチン王妃様ルートになる。

「僕、勉強得意だよ」
「ウィルは賢いの! 入学試験も満点なのよ!」

 エリーゼがドヤ顔を浮かべた。

「満点……すごっ……」
「引きこもってずっと勉強してたからね」
「そ、そう……とにかく、アメリアを誘うのは私も良い案だと思うわ。誘ってみてよ」

 ん?

「僕?」
「同じ科でしょ。しかも、実習で同じテーブルなんでしょ」

 そうだけども……

「マリーが誘った方が良くない? 同じ女子だし」
「それしか接点がないのよ。いきなり誘ったら変でしょ。ウィルが誘ってよ」

 僕かー……

「女子を誘うのはハードルが高いな……」
「私を誘ったじゃないの」

 そうだけども……

「じゃあ、ちょっと声をかけてみるよ」
「お願いね」

 大丈夫かな?