4時を過ぎ、午後の実習を終えると、寮に戻る。
 すると、部屋の前にランディが待っていた。

「あ、そっちも終わったんだ。お疲れ」
「お疲れさん。でも、お前はすぐに町の喫茶店に行くんだ」

 ん?

「なんで?」
「マリーに話をしたんだよ」

 あ、特別実習のやつか。

「なんで喫茶店なの?」

 話すだけだし、寮の前でもいい。

「向こうが喫茶店を指定してきたんだ」

 お茶を飲みたかったのかな?

「……あんた、どういう話をしたの?」

 エリーゼがランディに聞く。

「ウィルが大事な話をしたいから繋いでくれって」

 いや、それって……

「告白するみたいね……」
「ランディ……」

 陽キャに任せるんじゃなかった……

「いや、向こうもある程度分かっていると思うぞ。他の女子にも話を聞いたが、皆、特別実習のチーム決めの話題で持ちきりらしいし」

 さり気に自分は女子と話をできるんだぞ自慢が入っている……
 まあ、僕もアメリアとそういう話をしたんだけど。

「ハァ……待たせても悪いし、行ってくるよ」
「喫茶店の場所は俺が決めておいたからな。この町でも珍しい雰囲気の良い個室の店だ。頑張れよ」

 やっぱりそういう意図があるんじゃん。

「なんか声掛けしにくくなったよ……」
「大丈夫だって。とにかく、行ってこい」
「ハァ……お店はどこ?」
「市場の近くにある赤い屋根の店だ」

 あー、あそこか。
 ゲームで回復アイテムを買える店だから町を巡った際にチェックしていたところだ。

「じゃあ、行ってくるよ」

 僕達は部屋に戻らずに階段を降り、寮を出ると、学校の敷地を出て、歩いていく。

「マリーか……大丈夫かな?」
「ん? 何が?」

 独り言だったが、エリーゼが反応し、聞いてくる。

「んー……ちょっと相談に乗ってくれる?」
「相談? どうしたの?」
「僕さ、ちょっと人間不信なんだよ」
「前世で裏切られたんでしょ? それはまあ、そうなるのもおかしくないわ」

 抱えているエリーゼがそう言いながら尻尾で腕を撫でてくれた。
 それだけですごく心が落ち着く気がする。

「うん……でもさ、その人達って男性なんだよね」
「そうなの?」
「前世では僕がやっていたような職種は男性がほとんどで女性はほぼいなかったんだよ」

 それは職場だけでもなく、学校でもそうだった。
 僕は専門学校を出ているが、女生徒はほとんどいない。
 だから人生で親しい女性は母親かお婆ちゃん、もしくは、親戚くらいだった。

「男社会ってやつね。それがどうかしたの?」
「僕の前世は女性との接点がほぼなかった。今世はもっとない」

 今世でも母親がいるが、ほぼ接点がなかった。
 姉妹もいないし、メイドと話すようなこともなかった。

「なるほど……言いたいことはわかったわ。女性に裏切られるかどうかってことね」
「まあ、そんな感じ。女性に裏切られるとすごいきついってイメージがある」

 知識としては知っている。

「うーん、そうねー……こればっかりは男女のことだから難しいことね。なんできついかって言うと、それだけ男女の関係は幸せだからよ」

 まあ、言わんとしていることはわからないでもない。

「恋人とかでしょ? 単純に仲間としたら?」
「それは男女関係ないわよ。でも、そうならないのが男女だからね」

 そっかー……

「難しいね」
「難しいことよ。でもだからといって、避けて通れない道ね。まあ、安心なさい。マリーは悪意を持った子じゃないわ」
「わかるの?」
「女はわかるの」

 猫さんなのに……

「一応聞くけど、アメリアは?」
「ふっ……ないない」

 エリーゼが鼻で笑った。

「まあね……」

 アメリアは、ね……
 バカにしているんじゃなく、少し話しただけで裏表がない子だというのがわかる。
 この僕にすら……

「ウィル、そういうことを学ぶのも学校生活よ。あんたの将来を考えたら絶対に避けて通れない道」
「それはわかるよ」

 客商売のアトリエ運営だもん。

「安心しなさい。どうなろうと私がついているから」

 エリーゼは優しいなーと思っていると、市場の赤い屋根の喫茶店の前までやってくる。

「中かな?」
「そうじゃない? 入ってみましょう」

 エリーゼに促され、店に入ると、すぐにウェイトレスさんがやってくる。

「いらっしゃいませー。御一人様ですか?」
「待ち合わせです。僕と同じ制服の銀髪の子が来てませんかね?」
「いらしてますよ。どうぞこちらに」

 ウェイトレスさんがそう言って案内してくれるのでついていく。
 そして、奥にある個室に入ると、マリーがお茶を飲みながら待っていた。
 なお、メイドのリサはいない。

「呼び出したのに待たせちゃってごめんね」

 ランディが悪いんだよ。

「待ってないから大丈夫。まあ、座りなさいよ」
「うん」

 マリーの対面に座ると、エリーゼがテーブルの上で丸まる。

「寮の前とかでも良かったんだけど……」
「私もちょっと話したいことがあったし、気になっていた店だから来たかっただけよ。何か頼む?」
「そうなんだ……えーっと……」

 ウェイトレスさんを呼び、お茶を頼む。
 そして、しばらくすると、ウェイトレスさんがお茶を持ってきてくれたので一口飲んだ。

「美味しいね」
「そうね。錬金術の方はどう?」
「ぼちぼちって感じ。時間はあるし、少しずつやっていくよ。そっちはどう?」
「こっちもそんな感じ。焦ることもないわ。なんか焦っている子も多いけど」

 ランディもそんな感じのことを言ってたな。

「そっか。えーっと……それで話があるんだけど、そっちもあるんだっけ? 先に聞くよ」
「そうね……うーん、何て言ったらいいか……」

 何だろ?

「大事な話?」
「ある意味ね……ねえ、あなたってドラグニアファンタジーって知ってる?」
「え?」

 え?