見張りをエリーゼに任せ、せっせとギザギザ草を採取していると、徐々に腰が痛くなってきた。
「採取って大変だね」
「まあ、肉体労働だしね。疲れたらそれこそポーションを飲みなさいよ」
昨日作ったやつがある。
「そうだね。魔物は? 出てくる気配はある?」
「全然。本当にいるのかしらって感じ」
「出てこないに越したことはないけど、もし出てきたらお願いね。僕、戦いは苦手だから」
魔法は使えるが、実戦経験はない。
「たいした魔物は出ないでしょうから私が追い払ってあげるけど……あんた、HPが1000もあるんだから大丈夫じゃない?」
「物理防御力が15しかないんだよ」
この数字がどれくらいなのかは検証してないのでわからないが、弱いのは確かだろう。
「あんたに戦闘は無理そうね。ギザギザ草はどう? 全部、採ったらダメよ」
「いっぱい生えているから大丈夫。それにギザギザ草は安いだけあってすぐに生えるんだよ。これが枯渇することはないよ」
先に僕の腰がダメになると思う。
「今、何枚採取したの?」
「40枚くらい?」
「あんた、ぶっ通しでやる癖があるわね。少し、休みなさい」
そう言われたので立ち上がり、身体を伸ばす。
「あー、運動不足だなー」
「そのレベル? 部屋から出ないじゃないの」
「毎日、階段を昇り降りしてるよ」
しかも、3階。
「健康のためにも適度な運動は大切よ? ん?」
「どうしたの?」
「魔物よ」
「え!?」
キョロキョロと周りを見渡すと、奥から銀髪の少女が歩いてきていた。
「マリーじゃん」
随分と可愛らしい魔物だね。
「ウィルじゃないの……何してるの? サボリ?」
マリーが呆れた顔をする。
「いや、授業中だよ。魔力コントロール組とポーションを作る組と採取組に分かれているんだよ」
採取組は僕、1人だけど。
「へー……錬金術科も色々やるのね」
「うん。思ったより奥が深かった。マリーは? サボリ?」
「ちゃんとした授業です。今日は奥で魔法の実習だったの。私は最初だったから終わっただけ」
魔法科は想像通りの実習をしているな。
しかし、となると……
「これから他の魔法科の生徒も戻ってくる感じ?」
「そうだと思うわよ。終わった人から帰って良いって言われたから」
やっぱり……
「じゃあ、僕も実習室に戻ろうかな。魔法科の生徒って何か怖いし」
「怖くないわよ」
マリーが苦笑いを浮かべた。
でも、なんか下に見られている感がすごいんだよな。
ジスランとか……
「あ、そうだ。マリーにプレゼント」
空間魔法から小瓶に入れたポーションを取り出して渡す。
「空間魔法……え? 何これ? ポーション?」
マリーがじーっと小瓶を見ながら聞いてくる。
「作ったやつ。品質はそこまでだけど、せっかくだからあげる」
唯一できたEランクのやつ。
いっぱいあるFランクは朝、ランディにあげた。
「へー……いいの?」
「練習で作ったやつだからね。今日も部屋で作るから大丈夫」
「ありがとう……ちゃんとアトリエを開くために頑張っているのね」
マリーが微笑む。
「まあね。家を出たわけだし、頑張らないとね」
路上生活者は嫌だよ。
「ねえ、なんで家を出たの?」
「んー? 錬金術師になりたかったから? ほら、アトリエを開きたいって言ったじゃん」
「それは家を出る理由にはならないわ。アシュクロフトに援助してもらってアルゼリーで開けばいいじゃない」
確かに……
「うーん、こういうことをあんまり言いたくないけどさ、ウチって評判が良くないじゃない?」
「そうね……他国だし、あまり頷きたくないところだけどそうね……」
マリーはそう言いながらもはっきりと頷いた。
「他国でも有名?」
「評判が良くない家って程度かしら? あと、寮でちょっと噂になってた」
女子寮でもそうなっているのはちょっとショック。
「あはは……まあ、そういう家でさ……多分、噂通りの家だと思うんだよ。僕自身は引きこもりの3男坊でよくは知らないんだけどさ」
知っているのは僕自身が将来、悪政を敷くことだけ。
「そう……」
「なんかさ、あのまま家にいてもロクなことにならない気がしてきて、逃げてきた」
中らずと雖も遠からず。
「……あなたって行動力が本当にすごいわ」
「そんなことないよ。エリーゼがいてくれたからだね」
「私に任せておけばいいのよ」
エリーゼがドヤ顔を浮かべる。
非常に可愛い。
「なるほどね……確かに誰かがいてくれるというのは強いわ。私もリサがいてくれたから行動できた」
んー?
「行動って?」
「それはまた今度……ぼちぼち帰ってきたわよ」
マリーが言うように奥には数人の魔法科の生徒が見えている。
「あ、実習室に戻らないと……ってか、4時じゃん」
やばい。
4時過ぎには戻らないといけなかった。
「じゃあ、私は帰るわ。またね。それとポーションありがとう」
「いえいえ。またね」
マリーに別れを告げると、速足で渡り廊下を抜け、階段を昇っていく。
そして、実習室に戻ったが、幸い、まだ魔力コントロールの授業をしていたので一人でポーションとにらめっこしているアメリアがいるテーブルについた。
「ふう……」
「間に合ったわね」
セーフ……
「ねえ……これ、どうかしら?」
アメリアが持っているポーションをテーブルに置く。
青い液体だし、普通の回復ポーションに見えるが……
「ちゃんと回復ポーションよ。Fランクだけどね」
エリーゼが答えると、アメリアは満足そうに頷いた。
「これがわたくしが初めて作ったポーションです。どうしましょうかね?」
「僕は自分で飲んだよ。残ったのは友達にあげた」
「なるほど……もう少し作りますか」
アメリアはもう1枚の葉っぱを取り出し、ポーションを作り始めた。
