寮に戻り、ランディと昼食を食べると、実習室に向かう。
そして、皆が昨日と同じような席について待っていると、ダニエル先生がやってきた。
「さて、午後からの授業を始める。今日は昨日言ってた通り、ポーション作りを行う。だが、その前に学校のとある施設の説明をする。全員ついてくるように」
ダニエル先生がそう言って実習室を出ていったので皆が慌てて立ち上がって、ついていく。
階段を降り、実習棟の奥に向かうと、そのまま渡り廊下を通る。
すると、草木が生え、小川が見える自然豊かな庭園に出た。
「あの、先生、ここは何ですの?」
アメリアはダニエル先生に聞く。
「特別訓練施設だ。ここは町の外にそのまま繋がっている」
ん?
「どういうことですの?」
「言ったとおりだ。この施設はかなり広いんだが、そのまま進んでいくと、町の外に出られる」
「それって大丈夫なんですか?」
「結界が張ってあるし、問題ない。監視システムもしっかりしている」
………………。
「魔物がいたりします?」
さすがに気になったので聞いてみる。
「もちろんだ。特別訓練施設だぞ? ここは魔法使いが実戦をするための施設だ。まあ、安心しろ。そんなに強い魔物は出てこない」
へ、へー……
「先生、話を聞く限り、ここは魔法科の生徒に関係する施設のように思えます。錬金術科に関係あるんですの?」
「関係ある。魔法使いは魔法を使うし、実戦をすることが多いため、授業でもこういった施設を活用したりするし、実戦形式の授業も多くある。一方で錬金術科は言わば生産職なため、そういった授業はほとんどない。だがな、錬金術師が戦わないかというと、必ずしもそうではない」
「そうなんですの? 戦うイメージがありませんが?」
僕もあまりない。
「魔法使いがそうであるように錬金術師にも色々いる。例えば、どこかの工場や研究所、宮仕えする錬金術師は戦闘とは無縁だろう。だが、その他はどうだ? ウィリアム、客からの注文があった時に材料はどうする?」
ダニエル先生が指名してきた。
「市場で買いますかね?」
「特殊な素材で市場になかった場合は?」
えーっと……
「冒険者ギルドに依頼を出します」
「素人共に任せるか? 素人は素材の見分け方も、採取の仕方、素材の保存方法もわからんぞ」
それはそうだが……
「指定すればよいのでは?」
「それができる冒険者が何人いると思っている。そして、それができる冒険者を雇うのにどれだけの予算がいると思っている? この場合、自分で取りに行くことが多い。もちろん、護衛を雇うことになるが、おんぶに抱っこでは死ぬ。冒険者だって人間だ。護衛対象を命がけで守るが、もし、本当に命の危機にさらされた時に見捨てるという選択肢も出てくる」
最低限は動けないとダメなのか。
「言ってることはわかります」
「これは一例にすぎない。この中には戦闘どころか運動もできないという者もいるだろうし、そういうのはやらないと決めている奴もいるだろう。それは間違いではないし、その道に進むのは賢い選択だ。だが、そうでない者は選択肢が多くあって良い。だからこそ、この施設は魔法科の生徒だけでなく、錬金術科の生徒も使っていいことになっている。授業ではここで採取の実技なんかもするが、それ以外も自由に使っていい。ここは魔物も出るが、薬草を始めとする錬金術で使用する素材も栽培されているし、それの採取は自由だ。もちろん、他の生徒への配慮も必要だがな」
つまりなくなった薬草をここで採取しろってことか。
「わたくしはこちらの方が向いている気がしますね」
アメリアは魔法科志望だったからそうかも。
多分、強いんだろうし。
「その辺りは自分達で考えるといい。ここの説明は以上だ。今日はポーション作りを行うが、まだ魔力コントロールに自信のない者はそちらをしてもいい。ここを使うなり、ポーションを作るなり、好きにするといい。先生は実習室にいるから何かあれば聞くように」
結構、自由なんだな。
「わたくしはポーションを作りますわ」
アメリアがそう言って、実習棟に戻っていくと、先生も他の生徒も戻っていき、この場には自分だけが残される。
「ウィルは採取?」
「薬草がないからね。しかし、魔物か……ん?」
なんかダニエル先生が戻ってきた。
「言うのを忘れていた。ここは魔物が出るが、奥に行かない限り、そこまで出てくるわけではない。ギザギザ草くらいなら近くに生えているからそれを採取するといい。また、ここは土日も開放しているし、奥に行きたい場合は魔法科の生徒や先輩に護衛を頼むというのもありだ。実際、先輩達の中には自作したアイテムなんかと交換でそういった護衛を頼む者もいる。その辺りも自分で考えてやるといい。方法は一つじゃない」
「わかりました。考えてみます」
どうしようかね?
「以上だ。それと4時過ぎには実習室に戻ってこい。今後のカリキュラムのことで説明することがある」
「4時過ぎですね。わかりました」
「よろしい」
先生は頷くと、実習棟の方に戻っていった。
「ギザギザ草を採取しようか」
「やりかたはわかるの?」
「本に書いてあるからね」
実際、寮の近くで生えていたギザギザ草も上手く採取できたと思う。
「じゃあ、そうしましょうか。魔物なんか出ないと思うけど、一応、見張っておいてあげるわ」
「ありがと」
さすがは使い魔だ。
「よし、やろう」
周りをキョロキョロと見渡すと、早速、ギザギザ草を見つけたので採取することにした。
