寮に帰った僕はランディと夕食を食べると、部屋に戻り、デスクにつく。
そして、薬草と共に食堂でもらってきたコップと水差しを取り出した。
「ポーションを作るの?」
「うん。先生が言ってたけど、アトリエを開きたい僕はそこそこの錬金術師ではダメだと思うんだ。だから自主練。あと、単純にやってみたい」
当然ながら錬金術は前世にない技術だ。
魔法もそうなのだが、物心がついた時にはもう魔法を使っていたので感動を覚えていない。
「まあ、好きなだけやりなさいよ。あんたはMPが無限にあるんでしょ? 魔力不足でぶっ倒れることはないわ」
魔法を使う際に魔力、すなわちMPを使うのだが、MPが切れた状態で魔法を使っても魔法は発動せずにフラついて気絶してしまうのだ。
「それがやっぱり大きなアドバンテージだと思う。いくらでも練習できるわけだし」
「そうね。よし、記念すべき1個目を作ってみなさいよ」
「うん」
コップに水を入れ、品質の良くない薬草を入れた。
そして、先生がやっていたように魔力を込める。
「おー、光ったー」
コップが光り出すと、エリーゼが嬉しそうな声をあげた。
直後、光が収まり、コップの中には薬草が消え、水が青色になる。
「どうかな? ポーションっぽいけど」
「えーっと、紛れもないポーションね。品質はまあ、お察しだけど」
「わかるの?」
「魔力を見れば大体わかるわ」
へー、使い魔ってすごいな。
「ランクはどのくらい?」
ポーションなんか薬品にはFからAのランクがあるのだ。
そして、一般的にF、Eが粗悪品であり、D、Cが普通、BとAは優良品と呼ばれる。
「Fの粗悪品」
「あ、やっぱり?」
ここでAランクを出すチート持ちではなかったようだ。
「あんなしなしなの薬草と井戸水でしょ? そんでもって初めて作ったもの。ちゃんと錬成できただけでもすごいことって思いなさいよ」
「それもそうだね。いやー、これが最初の錬金術かー」
ちょっと感動。
「飲んでみる?」
え?
「これを? 大丈夫かな? お腹を壊さない?」
粗悪品だよ?
「ポーションでお腹を壊すって何? そういうのを治す薬でしょ」
まあねー。
「よし、飲んでみよう」
青い液体というのがちょっと怖いが、清涼飲料水と思い、一気に飲んでいく。
「んー?」
味はまったくなく、ただの水だ。
「どう? 回復した?」
「うーん、特には……よく考えたら別にHPが減ってるわけじゃないしね」
多分、HPは1000のままだろう。
「それもそうね。じゃんじゃん作ってDとかCを作れるようになりなさいよ。そしたら町の店で売れるんじゃない? アトリエの開店資金にしましょうよ」
「そうだね。よーし、やるぞー」
またもやコップに水と薬草を入れ、今度は魔力を込める量を増やして薬草を作ってみる。
そんな感じで色々と試しながら作っていくと、大事なのは魔力の量ではなく、いかに均一に魔力を込めるのかというのがわかってきた。
「結構、楽しいな……」
魔法使いだったからなんとなく、錬金術師の道に進むことにしたが、こうやって物を作るっていうのはやはり楽しい。
前世でも最初はこんな感じで楽しかった。
それが会社で上司や同僚に裏切られて最後は嫌な感じで終わってしまったが、やはり自分はこの道が性に合っているのだ。
「ウィルー、もう寝ましょうよ。0時を超えてるわよ?」
エリーゼに言われて時計を見ると、0時15分だった。
「もうちょっと……あれ? ない?」
薬草がないけど?
「全部使ったんでしょ。あんた、集中してやりすぎよ。いくら魔力が無限でも体力は無限じゃないのよ?」
「それもそうだね……初日から頑張りすぎたかもしれない」
「良いことだけど、飛ばし過ぎは良くないわ。3年もあるんだからじっくりやりましょうよ」
エリーゼがいてくれて良かったな。
「そうだね。じゃあ、寝ようか」
本当は明日の予習もしたかったが、仕方がないのでベッドに入る。
「寝ましょう、寝ましょう」
エリーゼが枕元で丸まったので灯りを消し、就寝した。
翌日、この日も教室に行き、授業を受けていく。
そして、授業を終えると、周りの生徒達は寮に戻っていったのだが、アメリアだけは腕を組んで首を傾げていた。
そんな中、ダニエル先生のもとに向かう。
「先生、ちょっといいですか?」
「ん? 何だ?」
「薬草ってもらえるんですよね? なくなったんでもらえませんか?」
「は? 昨日、何十枚も持って帰っただろ」
42枚ね。
「使っちゃいまして……」
「使ったって……そんなにポーションは作れないだろ」
「作っちゃいまして……粗悪品ですけど」
1個だけEだったところだけは我ながら評価したい。
「……魔力が持ったのか?」
「まあ……」
無限なんで……
「ふむ……使い魔持ちは違うというわけか」
雑魚とは言え、中ボスなんです……
「僕、アトリエを開きたいんで……」
「わかった。用意しよう。しかし、そうなると、午後からの授業を変更するか……」
「あ、いや、僕よりも他の生徒を優先してもらえると……」
なんか嫌だし。
「いや、明日説明しようと思っていたことがずれるだけだ」
ならいいか。
「わかりました」
「ああ。では、予定通り、午後から実習室に来なさい」
先生はそう言うと、教室を出ていった。
「ウィリアムさん」
「はい?」
名前を呼ばれたので振り向くと、アメリアがじーっとこちらを見ていた。
「豊富な知識といい、1日でポーションをそれだけ作れる魔力をお持ちなのは素晴らしいことと思います」
「ど、どうも……」
急にどうしたんだろ?
「さすがは名門であるアシュクロフトの人間であり、使い魔持ちです。さらにはそんな家を出てまで錬金術師を目指そうとする意志も素晴らしいことです」
べた褒めだ……
どう反応すればいいのかわからない。
「えーっと?」
「ふっ、わたくしのライバルに相応しい……負けませんことよ」
アメリアはそう言ってキメ顔で髪を払うと、教室を出ていった。
「……ライバル認定されちゃった」
「かっこつけたい年頃なんでしょ。暖かい目で見守ってあげなさい」
まあ、ものすごいかっこつけてたけど……
でも、似合ってた。
あの子こそゲームのキャラに登場させればいいのに。
