そのまま待っていると、ダニエル先生が実習室に入ってきて、教壇に立った。

「全員、いるな? さて、これから実習を始める。とはいえ、いきなり何かを作れと言っても無理だ。まずだが、魔法が使える者は手を上げろ」

 ダニエル先生がそう言ってきたので手を上げる。
 すると、自分の他に手を上げているのは目の前にいるアメリアだけだった。

「ふむ……例年通り、貴族だけか。では、魔力のコントロールなんかをできる者は手を上げろ」

 ダニエル先生の問いにも僕とアメリアだけが手を上げたままだった。

「よし、これも毎年のことだな」

 ダニエル先生は頷くと、僕とアメリアのテーブルにやってきて、木箱を置いた。

「何ですの?」
「お前達はこの木箱にある薬草の仕分けをしてろ。使えそうなやつと使えそうにないやつに分けるだけ」
「これが実習?」
「品質の重要性は午前中の授業で説明しただろ。見極める目も大事なことだ」

 まあ、それはそうだろう。

「ふむ……わかりました」
「よし、お前らはそれな。他の者は魔力のコントロールを教える」

 先生は他のテーブルに行ってしまい、魔力のコントロールの授業を始めた。

「皆さん、魔法を使えないんですの? 魔法学校なのに?」

 アメリアが聞いてくる。

「錬金術科は適性試験だけだからね。合格したからにはもちろん、魔力を持っているし、素質はあるんだけど、普通の人は魔法が身近にないし、使う機会がなかったみたいだよ。そんなことを聞いた」

 もちろん、ランディね。

「へー……座学で劣る自分には良いアドバンテージと考えますか……」

 やっぱり午前中に授業はよくわかっていなかったようだ。

「仕分けしようか」
「そうですわね」

 立ち上がって木箱を覗くと、大量のギザギザの葉っぱが入っていた。

「ギザギザ草だね」
「確かにギザギザしてますわね。これが薬草ですの?」

 一緒に覗いているアメリアが聞いてくる。

「うん。一番安価でオーソドックスな薬草。下手したらその辺にも生えていると思う」
「へー……ウィリアムさん、詳しいですわね」
「一応、勉強したからね」

 入寮してひと月もあったから色々と調べたし、寮の近くで探したりもした。
 本当に生えていたのでちょっとびっくりした。

「素晴らしいですわ」

 アメリアが頷いて感心する。

「どうも……えーっと、品質の見方はわかる?」

 そう聞くと、アメリアが首を横に振った。

「ちょっと待ってね」

 空間魔法から本を取り出すと、ギザギザ草が記載されてるページを開いて、アメリアに見せる。

「何ですの、この本?」
「薬草のことが書いてある本。町の本屋で買った」

 金貨1枚もしたが、投資と思うことにした。

「あー、ウィリアム。そういう本は学校の図書館にあるぞ」

 他の生徒に魔力コントロールを教えているダニエル先生が教えてくれる。

「え?」

 あるの?
 金貨1枚もしたのに?

「基礎的な本はだいたい揃っている。ただ1冊しかないので持ち出し厳禁だから個人的に持つというのは良いと思うぞ。皆もそういうことを考えるように」

 先生の言葉に生徒達が頷く。

「ウィル、何度も見返すような本は買っても良いと思うわよ」

 エリーゼがフォローしてくれた。

「うん……そ、それでね、これがギザギザ草」

 アメリアに描かれているギザギザ草の絵を見せる。

「確かに同じ葉っぱですわね」

 アメリアは葉っぱを手に取り、絵と見比べた。

「品質の良し悪しの見分け方も書いてあって、変色してないか、ギザギザの部分がよれてないか、茎の部分が瑞々しいかとかだね」
「なるほど。では、それで仕分けしていきましょうか」
「そうだね」

 僕とアメリアは1枚1枚葉っぱを見ていき、左右に品質が良いものと悪いものに分けていく。

「つまんなそうね……」
「つまんないというか、地味ですわね……」

 まあね……

「錬金術師は魔法使いと違って派手に魔法を使うわけじゃないからね」

 地味と言われればそうだろう。

 僕達がそのまま地味な作業を続けていると、窓の外が茜色に染まり始めた。
 すると、ダニエル先生がこちらにやってくる。

「ご苦労、ご苦労。良い感じに仕分けできているな。さて、皆も簡単な魔力コントロールくらいならできるようになったし、ここで錬金術をしてみよう」

 ダニエル先生は品質の悪い方の薬草を手に取ると、前の教壇に立つ。
 そして、ガラスのコップに水と薬草を入れた。

「いいか? これに魔力を込めると、あっという間にこうなるわけだ」

 ダニエル先生が魔力を込めると、手の中のコップが光り、あっという間にフラスコに入った青色の液体に変わる。

「「「おー……」」」

 これには全員の声が漏れた。
 ポーションを作るだけでなく、同時にコップをフラスコに変えたのはすごい。

「こんなもんだ。魔力コントロールができるようになったお前らにはそう難しいことじゃない。とはいえ、まずは純粋にポーションを作ることから始めることだ。さて、本日の授業はここまでだ」

 あれ?

「先生、やってみたいんですが……」

 アメリアが手を上げて、全員が思っているであろうことを代弁してくれた。

「もちろん、やってもいいが、学校が閉まるから帰ってからやれ。これからの授業だが、基本的に座学と実習をしていくし、明日はポーション作りをする。ただ、放課後なんかの空いている時間に自主練するのは自由だ。そこはお前達の自主性を重んじるし、ウィリアムやアメリアが仕分けしてくれた薬草は自由に使っていい」

 全員が僕達が分けた薬草を見る。

「好きに使ってもいいんですの?」
「ああ。ウチのカリキュラム通りにやれば卒業時にある程度の錬金術師になれるだろう。だが、逆を言えば授業だけではある程度止まりになる。これは別にウチの科に限ったことではないし、魔法学校に限ったことでない。上を目指すなら時間を有効に使うことだ。この学校はそれの後押しをするからそういった素材は提供するし、申請すれば場所も提供する。そういったことも今後説明していく」

 良い学校だ。
 さすがは学問を推奨する国の学校。

「では、これを皆で分けますか……」

 そうなるか。

「その辺は好きにしろ。アドバイスをすると、お前らが作ってもどうせ粗悪品ができるから最初は品質の悪い薬草で練習するのが良いぞ」

 だから僕とアメリアに分けさせたのか。

「わかりました。それでは皆さん、並んでください」

 その後、アメリアが仕切りだし、薬草を皆で分けていく。
 生徒一人一人に笑顔で渡していくアメリアを見て、本当にクラスのリーダーが決まったなーと思った。