授業が始まると、ダニエル先生が錬金術とは何かということから説明していく。

「錬金術は複数の素材から別の素材を作る技術のことであり、一番有名なのがポーションだ。薬草と水なんかの液体でできる。とはいえ、薬草にも種類があるし、品質の良し悪しもある。もちろん、液体もそうだ。当然、良い品質のものを使えば、良いポーションができるし、熟練の錬金術師が作れば良いものができる」

 これは教科書の始めに書いてあるし、皆、わかっているだろう。

「わたくしが高級な素材で作ったポーションと先生がその辺の草で作ったポーションではどっちが上ですか?」

 アメリアがちょっと気になることを聞く。

「お前はまだポーションを作れないが、作れると仮定して答えると、今の段階では俺が作ったポーションの方が上だろう。だが、数ヶ月も学べばお前が作った高級素材のポーションの方が良くなる。理由はポーションはそこまで難しい技術じゃないからということと素材はそれだけ重要ということだ」
「ふむふむ。お料理に似ていますね」

 なるほど。
 ドシロウトがいくら良い食材を作っても美味しくならないだろうが、ちょっと齧った人なら美味しくできる感じだ。

「そうだな。基本的な考えはそれでいい。お前達はこれから実技では実際に錬金術をやってもらう。そして、この座学では錬金術としての知識を学んでもらう。そういうわけでまずは薬草についてだ」

 ダニエル先生は薬草の種類や見分け方、さらには採取の仕方なんかを教えていく。
 一応、この1ヶ月で錬金術の本を読んだり、教科書を見たりして予習をしていたのでそこまで難しい授業とは思わなかった。
 ただ、アメリアはちょっと固まっていた。

 そして、午前中の授業が終わると、寮に戻り、道中で合流したランディと共に昼食を食べる。

「ウィル、そっちはどうだった?」

 ランディが聞いてくる。

「そこまで難しくはなかったと思う。一応、予習なんかはしてたしね」
「勉強してたもんな。こっちはちょっと難しい」
「そうなの?」

 魔法科ってそんなに難しいのかな?

「いやー、俺は魔法なんて馴染みあるものじゃなかったからな。魔力があって、魔法使いになれる才があるって気付いたのも昨年だし」

 あー、なるほどね。
 魔力を測定する水晶玉はその辺に流通しているものじゃないのだ。

「そこは仕方がないよ」

 僕もだけど、家に水晶玉がある貴族は幼少の時に判明するし、家で魔法を学べる環境もある。

「午後からの実技で実力の差を見せつけられそう」
「最初だけだと思うけどね。それに貴族ってそんなに多くないから大丈夫だと思うよ。実技って何するの?」
「実際に魔法を使ってみる感じだな。まあ、試験でやったことのおさらいをして、先生から指導があるんだろう。ウチの先生、すごい美人なんだけど、なんか怖いんだよな……」

 魔法科は女性の先生なんだ。
 ドラグニアファンタジーの仲間キャラかも……

「何て先生?」
「オリアンヌ先生」

 ゲームの仲間キャラじゃないし、聞いたことがない名前だから関係なさそうだ。

「ふーん」
「そっちは?」
「ダニエル先生。ぶっきらぼうだけど、丁寧な先生だよ」

 ちゃんとアメリアの質問にも答えていたし。

「先生達ってやっぱりすごいんだろうな」
「だと思うよ。実力もだろうし、人に教えるって難しそうじゃない?」
「それは言えるな」

 僕達は昼食を食べると、雑談をして過ごし、時間になったので実習棟に向かった。
 そして、ランディが実習棟の奥にある演習場に向かったので2階にある錬金術科の実習室に行く。
 実習室は前世の学校にあった理科室を彷彿とさせる作りであり、そこそこ広かった。
 テーブルは大きめであり、個人というより数人で使うような感じだったが、迷惑になると思ったので誰もいないテーブルにつく。

「フラスコとかをひっくり返さないでね」

 エリーゼに一応、注意しておく。

「私を何だと思っているの? 猫だけど、賢い猫なのよ?」
「一応だよ、一応」

 エリーゼを撫でながら待っていると、アメリアが入ってくる。
 そして、キョロキョロと実習室を見渡しながら空いているこのテーブルにやってくると、対面に座った。

「ごきげんよう!」

 僕、だよね?
 いやまあ、僕を見ているし、僕しかいないか。

「ごきげんよー……」

 ごきげんようなんて使ったことないぞ。

「ねえ、わたくし、錬金術のことをほとんど知らないんですけど、こういうところで物を作るのが錬金術師ですの?」

 アメリアが聞いてくる。

「いや、そんなことないと思うよ。ここは授業のためだからこんな感じの作りなんだと思う」
「ふむふむ。わたくしがアトリエを出す時はもうちょっとおしゃれにしようかしら?」

 そういうのもあって良いと思うが……

「アメリア、アトリエを開くの?」
「まだ決めてませんけど、そういう道もあるということですわ。わたくし、錬金術師がどこで働いているのかも知りませんし」

 先月までは魔法科志望だったし、しょうがないか。

「色々あるから調べるなり、人に聞くなりした方が良いよ。先生とか相談に乗ってくれるんじゃないかな?」
「ふむふむ……放課後に聞いてみますか……」

 すごい真面目な子ではあるな……