皆の自己紹介が終わると、この日は解散となったので寮の自室に戻る。
 そのまま休んでいると、ノックの音が部屋に響いた。

『おーい、ウィルー。いるかー?』

 この声はランディだ。

「いるよー。空いてるから勝手に入ってー」

 そう答えると、扉が開き、ランディが部屋に入ってくる。

「ん? 今日は読書や勉強じゃないのか?」

 ランディはベッドでエリーゼと一緒に横になっている僕を見て、首を傾げた。

「休憩だよ。そっちも終わったの?」
「ああ。魔法科の連中は自信家ばっかりだったな」

 魔法使いは言わばエリートだからね。

「へー……」
「そっちはどうだった?」
「人数自体が少ないし、皆、大人しそうな感じで良かった。これなら平穏な学校生活を送れそう」

 ほとんど目が合わなかったし、まったく会話をしてないけどね。

「例のル・メールは?」
「うーん、最初にちょっと話をしたけど、悪い子じゃなさそうだった。すんごい自己主張が強かったし、ポジティブな子だったけど」

 解散になった後も他の生徒に積極的に声をかけてたし、良い子だと思う。
 皆、動揺がすごかったけど。

「ふーん、まあ、問題なさそうなら良かったな」
「そっちは? なんかケンカとかあった?」
「いや、さすがにケンカなんて起きてない。でも、自己紹介をしたんだが、皆、お互いのことを意識している感じがすごかったな。まあ、最初だけで徐々に打ち解けていくと思うが……」

 なんか怖いな。
 錬金術科で良かった。

「マリーは? 同じクラスでしょ?」
「マリーは普通だったな。ちなみに、ジスランは長々としゃべってた」

 ウチの貴族は長々としゃべるのが好きなんだろうか?

「そっかー。大変だと思うけど、頑張ってね」
「そっちもな」

 その後も少しだけ雑談をすると、ランディが帰っていったので教科書を開き、明日の予習をした。

 そして翌日、朝食を食べ、準備をすると、教室に向かう。

「ウィル」

 校舎の前で声をかけられたので振り向くと、マリーがいた。

「あ、マリー。おはよう」
「おはよう。今日から本格的に授業ね」

 僕達は並んで校舎に入り、階段を昇っていく。

「そうだね。実技はともかく、座学の方は大丈夫?」

 苦手らしいし。

「多分? この魔法学校って優秀な人が多そうなのよね……」

 自分もその辺を考慮してなかったが、結構レベルが高い学校っぽい気がする。

「魔法科ってそんなに優秀なの?」
「ちょっとねー……それに錬金術科だけど、あなたも優秀な魔法使いでしょ。使い魔いるし」

 ウチの可愛い子ね。

「マリーは使い魔を持たないの? すごく可愛いよ?」

 見て、ウチの子!
 世界一の美人さん!

「使い魔は制御するのには相当の熟練度がいると言われているからね……」

 ツンデレの理解度かな?

「そっかー。ウチの子は大人しくて良かったよ」

 制御なんて考えたことがない。

「ふん。貧弱なあんたのために配慮しているのよ」

 ほら、ツンデレ。

「ウィルは良い子を得たわね。すごく可愛い」

 マリーがエリーゼを撫でる。

「あんたも良いメイドがいるじゃない」
「そうだけど、メイドと使い魔は違うでしょ」

 マリーが苦笑いを浮かべた。

「主人を世話するっていう点では一緒よ。ウィルなんて私がいないと何もできないからね」

 エリーゼがドヤ顔を浮かべている。
 ちなみに、僕はお世話をされているという感覚よりお世話をしているという感覚の方が強かったりする。

 話をしていると、3階までやってくる。

「じゃあ、頑張ってね」
「うん。またね」

 マリーが手を上げて、奥にある魔法科の教室に行ったので僕も錬金術科の教室に入った。
 すると、すでにほとんどの生徒が来ており、話をしたりしていたのだが、僕が入った瞬間、会話が止まる。
 しかし、なんとなく、昨日と同じように皆から離れた窓際に腰かけると、再び、話を始めた。

「……話しかけたりしないの?」

 エリーゼが小声で聞いてくる。

「……変な空気になりそうだからいいや」

 何度も言うが、友達を作りに来たわけではないのだ。
 それに一応、別の科だが、ランディとマリーがいる。
 そう思っていると、扉が開き、アメリアが入ってきた。

「皆様、おはようございます!」
「「「お、おはよございます……」」」

 皆が挨拶を返すと、アメリアは満足そうに頷き、今日も一番前のど真ん中に座る。

「……あんたも挨拶くらいはすべきじゃなかった?」

 あんなに元気に挨拶できないが、そのくらいはすべきだったかもしれない。
 挨拶なしは感じが悪かったかも……

「……ちょっと失敗した。明日から頑張る」

 ただでさえ、評判が悪いところからのスタートなんだから大事な挨拶はしないといけなかった。
 別に味方を作るつもりはないが、敵を作る気もないのだ。

「……ねえ、適度な距離を保った付き合いが得意って言ってたけど、やっぱり無理じゃない?」
「……だ、大丈夫だよ」

 ちょっと不安になりながらも教科書などを出して待っていると、ダニエル先生がやってきた。

「おはよう」
「おはようございます!」
「「「おはようございます……」」」

 皆に倣ってちゃんと挨拶をする。

「さて、今日から授業がスタートする。今日は午前中に基礎的なことを教え、午後からは実習棟に行き、実習の説明なんかをするつもりだ」
「錬金術をするんですの?」

 アメリアが先生に聞く。

「さわりだけな。爆発するようなことは起きないので安心するように」
「安心しましたわ」

 僕も安心した。
 なんか失敗したら爆発するイメージがあったもん。