長い学園長の話が終わると、解散となったので錬金術科の教室に向かう。
皆が同じ方向に向かうのでその波に乗り、3階までやってくると、一番手前の教室に入り、窓際の席についた。
そのまま待っていると、他の生徒も入ってきて、空いている席に座っていくのだが、皆、廊下側に座り、誰一人窓際には座らない。
きっと太陽が苦手な人達なんだろう。
「……避けられてる?」
エリーゼが囁いてくる。
「……クラス表を見たけど、僕とル・メールのお嬢様以外は平民だからね」
「……しかも、評判が良くない家だもんね。ましてや、大人しそうな子達ばかり」
クラスメイトは男女が均等にいるように見えるが、皆、大人しい感じだ。
特に話し込んだりするわけでもなく、教科書や資料なんかを見ている。
「……僕は落ち着いていて居心地が良いかな」
「……あんたも引きこもりだものね」
陰の者だから。
このままなら平穏な学校生活を送れそうだなと思っていると、ガラッと扉が開き、平穏そうじゃない女子が入ってきた。
「ごきげんよう、クラスメイト諸君!」
すげー……
まさしく、違う人種だ。
「おや? 返事がない? 聞こえなかったかしら? ごきげんよう、3年間共に学ぶ学友の皆様!」
「「「ご、ごきげんよー……」」」
クラスメイト達は小さな声だが、今度はちゃんと挨拶を返した。
すると、金髪の女子は満足そうに頷く。
「……私、あの子を尊敬するわ」
ちょっとわかるけども……
「さて、悪名高きアシュクロフトはどこかしら?」
「……前言撤回」
うん。
「あ、僕だと思います」
他の生徒が俯いてしまったので手を上げた。
すると、女子生徒がこちらにやってくる。
「あなたがアシュクロフト?」
女子生徒がじーっと見てきた。
「ええ……あのー、どちらさまで?」
「おーっと、これは失礼。わたくしはアメリア・ル・メール。ル・メールは御存じかしら?」
知らないって言いたいけど、言ったら怒るんだろうな。
「知ってるよ」
「結構。しかし、あなたは貴族っぽくないですわね。本当にアシュクロフト?」
皆、言うな……
「家を出たから平民だからかな?」
「家を出た? 親とケンカでもしたの?」
「そういうわけじゃないよ。錬金術師になりたかっただけ」
「へー。奇遇ですわね。わたくしも錬金術師になりたくて、この学校に入ったんです」
あれ?
「魔法科を受けたって聞いたけど?」
「落ちたから目標を変えたんです。よく考えたら魔法使いより錬金術師の方が向いている気がします」
この子、すごい……
「そっかー。お互い頑張ろうね」
「そうですわね」
アメリアは満足そうに頷くと、一番前の真ん中に座った。
「……私、わかったわ。あの子、あまり頭が良くないと思う」
ポジティブなんだよ。
そのまま待っていると、またもや扉が開いた。
そして、20代か30代くらいの茶髪の男性が入ってくる。
「おー、毎年のことだが、少ないし、静かだなー」
男性は教壇に立つと、僕達を見渡す。
「学業はぺちゃくちゃおしゃべりしながらするものではありませんわ」
アメリアが優雅に髪を払いながら答えた。
「静かじゃなさそうなのもいるな……まあいい。俺は錬金術科のダニエルだ。基本的には座学も実技も俺が教えることになる。問題を起こさず、真面目に授業を受け、卒業するように」
「わかりましたわ!」
元気な子だなー。
「はいはい。では、カリキュラムを説明する。知っていると思うが、基本的には座学と実技があり、ほぼ半々だ。座学で習ったことを実際にやってみるって感じだな」
これは資料に書いてあるから知っている。
「実技って何をやるんですの?」
「そりゃ錬金術科なんだから錬金術だ」
「やったことありません」
「ほとんどの生徒がそうだよ」
先生とアメリアが会話してるな……
「そうなんですの?」
アメリアがキョロキョロと見渡す。
なんとなく、頷いておいた。
他の生徒も頷いている。
「魔法とは違う特殊な技術だからな。物によっては特殊な機材も使うし、身近なものじゃないんだ。この中にも魔法を使ったことある生徒はいるだろうが、錬金術は実家がそういう家ということでもないと中々やる機会がない」
それはそう。
「へー。ということは私が出遅れているということはないわけですね」
気にしているのはそこか。
「いや、多分、一番出遅れているだろう。ここにいる生徒はお前以外、最初から錬金術科を希望した生徒だし、事前に勉強もしているだろう。そして何より、筆記で52点というギリギリの点数を取ったのはお前だけだ」
合格点は50点なのだ。
本当にギリギリ。
「伸びしろしかないということですわね」
ミス、ポジティブ。
「先生、お前のような生徒が好きだわ……皆も頑張るようになー。さて、事前に配った資料には書いてないが、特別実習というのもあるが、それは後日に説明する。以上だ。授業は明日からになるし、本日はもう解散でもいい。でも、せっかくだし、自己紹介でもするか。えーっと、じゃあ、お前から」
ダニエル先生がアメリアを指名する。
「わたくし?」
「一番前から順番だ」
となると、次は僕だ。
「では……」
アメリアが立ち上がり、振り向いてクラスメイトを見渡す。
「ふっ、わたくしはアメリア・ル・メールですわ! 誉れ高きル・メールの次女! 趣味はショッピングで特技はお茶会ですわ! 将来は宮廷魔術師になることでしたが、よく考えたら自分には向いていないので錬金術師として、世界に名を轟かせてることにしました! 幼少期は王都で過ごし、見識を深めて参りましたわ。進路先を決める際もやはりリットに近く、見識を深めるためにこの学校を選びました。クラスメイトの皆様と共に切磋琢磨し、少しでも成長できるように努力したいと思います」
長い……
名前だけで良いんじゃないの?
「ほら、拍手」
ダニエル先生が促してきたので皆が慌てて拍手をする。
だが、その顔には自分達も同じような感じで自己紹介するのかという陰の者特有の焦りが見えていた。
多分、僕もだけど。
「どうも、どうも。皆様と同じ学び舎になったのも何かの縁です。困ったことがあればいつでも頼ることですわ」
まだしゃべってる……
「なげーよ。はい、次、お前」
先生が僕を見てきたので立ち上がる。
他の生徒も伏し目がちではあるが、こちらを注目していた。
若干、1名はガン見だが……
「ウィリアム・アシュクロフトです。北の方にあるアルゼリーから錬金術師を目指してきました…………」
終わりなんだけど?
「えーっと、あ、この子はエリーゼです。この子共々、これからよろしくお願いします」
そう言って、エリーゼに礼をさせると、アメリアが大きな拍手をし、それに連鎖してクラスメイトも拍手をしてくれる。
アメリア以外の人の顔がちょっとほっとした表情になっているのは僕が思ったよりまともだった……ではなく、自己紹介はあれくらいで良いんだという安堵感だろうなと思った。
その後もクラスメイトが順番に簡単な自己紹介をしてくれたが、その度にアメリアが大きな拍手をしており、そんなものがあるのか知らないが、このクラスの委員長が決まった気がした。
