制服が届き、1週間が経つと、いよいよ学校が始まる日となった。
 朝食を食べ終えると、制服に着替え、エリーゼを抱える。

「ねえ、私も行っていいの?」

 腕の中のエリーゼが見上げてくる。

「使い魔は大丈夫だよ。オッケーって書いてあったから」

 使い魔は魔法使いの補佐をするのが仕事だ。
 それは学校でも同じ。
 ただ、それは魔法使いであって、錬金術師は想定してないと思うが……

「ふーん……まあ、邪魔はしないようにするわ」
「お願い」
『ウィルー、行こうぜー』

 部屋の外からランディがドンドンと扉を叩いてきた。

「すぐ行くよー」
「……あいつ、ウィルを狙っているんじゃないかしら?」

 いや、ないない。

「違うでしょ」
「ウィル、恋人は女の子だけね」
「はいはい」

 多感な猫だなーと思いながら部屋を出る。

「おっ、美人ちゃんも一緒か?」
「あんたが私のウィルを取らないように見張るの」
「この猫、何を言ってんだ?」

 ランディが呆れる。

「気にしないで。それよりも行こう。まずは講堂だよね?」
「ああ、入学式だな。まあ、長い話を聞くだけだろ」

 それはどこも一緒か。

 僕達は寮に出ると、講堂の方に向かう。
 周りには僕達と同様に真新しい制服に身を包んだ新一年生達が同じ方向に歩いている。
 すると、その中にマリーを見つけた。

「あ、マリーだ」
「ホントね。さすがにリサはいないようね」

 メイドさんはさすがに待機だろう。

「んー? あー、ウィルが狙っている子か」
「違うよ」

 これだから陽キャは……

「ふーん、声をかけないのか?」
「かけるよ……マリー」

 声をかけると、マリーが振り向き、こちらにやってきた。

「ウィルじゃないの。おはよう」
「おはよう。いい天気だし、入学式にふさわしいね」
「そうね。そちらは?」

 マリーがランディを見る。

「真ん前の部屋のランディ。マリーと同じ魔法科の生徒」
「へー。マリーアンジュ・フォートリエよ。よろしく」
「よろしくー。フォートリエは聞いたことないな……外国か?」

 ランディは本当に詳しいな。

「ええ。リット王国から来たの」
「お隣か」
「そうね。ところで、あの集まりは何?」

 マリーが言うように前方には講堂があるのだが、皆、中に入らずに入口付近で集まっていた。

「クラス分けだろ。錬金術科はともかく、魔法科は生徒が多いからな」
「あ、そういうのね」
「錬金術科はやっぱり少ないのか」

 僕達は講堂の前に行き、他の生徒と同じように掲示板に貼られているクラス分けの表を見る。

「錬金術科って20人もいないのね……」
「16人だね」

 ちょっと気になることもあったが、魔法科の方を見て、ランディやマリーのクラスを探す。
 すると、すぐに見つかった。

「Aクラスか」
「私もAね」

 2人は同じクラスらしい。
 知り合い2人が同じクラスで羨ましいと思わないでもないが、まあ、科が違うのでそれはいい。
 何よりもAクラスにはあのジスランもいたので一緒じゃなくて良かったと思える。

「ランディ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「錬金術科のクラス表を見れば何を聞きたいか想像はつくが、何だ?」

 うん……

「ウチのクラスにアメリア・ル・メールっているんだけど?」
「いるな……」
「ル・メール……ショーン王国の大貴族ね。優秀な魔法使いを何人も輩出した魔法使いの名家と聞いてるわ」

 マリーも知っているらしい。

「俺と一緒に魔法科の試験を受けていたんだが……落ちたか」

 っぽいね。

「実技がダメだったのかな?」
「いや、実技はすごかったぞ。ジスランよりも上だった」
「じゃあ、筆記?」
「それしか考えられんな」

 あちゃー。

「私も一歩間違えればそうだったわね……危ない」

 マリーも不安がってたしな。

「ウィル、大丈夫か?」
「どんな子か知らないから何とも……」

 当然だが、交流なんてない。

「マリー、女子寮でアメリアに会ってないか?」

 ランディがマリーに聞く。

「挨拶くらいね。明るい子って印象」
「そうか……ウィル、頑張れ。女子の方は助けてやれないが、女子にいじめられても泣くんじゃないぞ」

 なんでいじめられないといけないんだよ。

「大丈夫だよ」

 というか、僕、どれだけ軟弱ボーイって思われているんだろ?

「そうか。講堂でもこのクラス分けみたいだし、入るか。またな」
「ウィル、またね」

 僕達は講堂に入ると、それぞれのクラスに分けられた列に並ぶ。
 なお、錬金術科の列に並ぶ際に一番前にいる金髪女子を見て、絶対にこの子がル・メールだと思った。
 理由は簡単で派手な髪飾りをしているうえに自信満々な顔で仁王立ちしていたからだ。

「……自己顕示欲が強いわね」

 一番後ろに並ぶと、エリーゼが囁いてくる。

「……貴族のお嬢様だからかな? 貴族令嬢ってだいたいおしとやかな人か、そういう人かの2極だと思う」
「……落ちたくせにあんな顔ができるのはちょっと尊敬しちゃうわ」
「……そこはなんとも」

 人それぞれだよ。

 そのまま待っていると、入学式が始めった。
 入学式と言っても新入生代表の挨拶はなかったし、ひたすら学園長が学校の説明や校則なんかを話していき、最後に学生としての心構えなんかを長々と話して終わった。
 なお、学園長は事務で見たことあるおばちゃんだった。

 あの人、学園長だったのか……