入寮してからの僕は部屋で本を読んでいるか、エリーゼと遊んでいることが多い。
 とはいえ、ランディと話したりもする。
 食事の時なんかは部屋で食べようと思っているのだが、ランディが誘ってくるので断れない。
 そこで気付いたのだが、陰キャは陽キャの誘いを断れないのだ。
 でもまあ、ランディは良い奴なので良しとした。

 そんな感じで寮で過ごしていると、徐々に新1年生も増えだしたし、先輩方も帰省から戻り始めた。
 そして、入学式1週間前になると、白を基調とした制服が届いたので試しに着てみた。

「エリーゼ、どう?」

 ベッドの上にちょこんと座っているエリーゼに見せびらかしてみる。

「かっこいいわよ。さすがは私のウィル」

 そうかなー?

「よし、着替えよう」
「せっかくだし、それで出かけたら? これから本屋に行くんでしょ?」

 制服で出かけるの?
 いや、これからはそういうことも増えるか。

「じゃあ、そうしよっか。おいで」

 エリーゼがジャンプしてきたのでキャッチして抱えると、部屋を出て、階段を降りていく。
 そして、寮を出たのだが、隣の女子寮の前に制服に身を包んだ銀髪の女子がいた。

「マリー」
「ん? あ、ウィルじゃないの」

 マリーが笑顔でこちらにやってくる。

「受かったんだね」
「ええ。なんとかね」

 実技で挽回できたわけだ。

「魔法科?」
「もちろんよ」

 すべり止めは受けないって言ったしね。

「良かったね」
「ええ。ウィルも制服ね? 着てみた感じ?」

 マリーが僕の制服を見る。
 その際にエリーゼに手を振ったのだが、エリーゼも前足を上げ返していた。

「せっかくだからね。似合ってる?」
「うん、良いと思うわよ」

 そっかー。

「マリーも似合ってるよ」
「ありがと」

 マリーが微笑むと、女子寮からメイドのリサが出てきた。

「おや? ウィリアム様ではありませんか」
「こんにちは。お出かけですか?」
「ええ。日用品などを買いに行きます。お嬢様、お待たせしました」

 リサがマリーに頭を下げる。

「別に待ってないわよ。行きましょう。じゃあ、またね」

 マリーはそう言って、リサを連れて、正門の方に向かっていった。

「今日はコソコソついていかないんだね」
「みたいね……ん?」

 エリーゼが横を見ると、男子寮の玄関に制服を着たランディがいた。
 でも、なんかにやついている。

「ランディ? どうしたの?」

 そう聞くと、ランディがこちらに来て、何故か肩を組んでいた。

「人畜無害な顔をして、もう女子に粉をかけたのか? 可愛い子だったじゃないか」

 陽キャめ。

「そういうのじゃないよ」
「俺以外と全然しゃべらないくせに可愛いことはあんな可愛い子とは笑顔でしゃべってたじゃないか」

 君以外が絡んでこないからだよ。
 もう寮内で僕がアシュクロフトの人間という噂が広がったらしく、避けられているのだ。

「知り合いというか、ここに来る時に迷子になったんだけど、道を教えてくれた子だよ」
「そうか、そうか。出会いとしては上等。錬金術科か?」
「いや、魔法科」
「そうか……いつでも俺を頼れよ」

 頼もしいような……そうじゃないような……

「その時があったらね。それよりもランディも制服だね? お出かけ?」
「実家に制服姿を見せにちょっと帰るんだよ」

 あー、なるほど。
 確かにそれは大事だ。

「ランディの家ってどこ?」
「町の東にある住居が集まっているところだな。来るか?」

 行ってもね……

「いや、僕も本屋に行くんだよ」
「お前さん、本が好きだよな」

 好きだね。

「僕はアトリエを開きたいからね。少しでも学びたいんだ」
「そっか。まあ、良いことだ。じゃあ。途中まで一緒に行こうぜ」
「そうだね」

 僕達は学校の敷地を出ると、途中まで話をしながら歩いていき、本屋で別れる。
 そして、本を買うと、寮に戻った。

「あと一週間ね。制服も届いたし、気分はどう?」

 買った本を読んでいると、エリーゼが聞いてくる。

「ちょっと楽しみではあるよ。でも、アシュクロフトはすごいね。見事だと思う」
「まあ、そこはね……」

 新1年生もどんどんと入寮してきているが、僕はしゃべったのはランディだけだ。
 僕は別に馴れ合いをする気はないからこちらから話しかけることをしないのもあるが、それでも避けられているのは感じている。
 特に貴族じゃない平民がすごくて、目が合うと、すぐに逸らすし、あからさまに避けていた。

「ランディが特別なんだね」
「あれはすごいわね。分け隔てないとはあの子のことだわ」

 僕みたいな奴からジスランまで普通にしゃべる。
 もちろん、同じ平民にも明るくしゃべっていた。

「僕はあんな感じになれない。アトリエを開くならランディみたいにならないといけないんだろうなとは思うけどね」

 客商売だもん。

「あんたはあんたにしかなれないわよ。そういうことは気にしなくていい。今はアシュクロフトの名が足を引っ張っているだけ。あんたは真面目だし、わかってくれる人はわかってくれるわ」

 頑張るか。
 家を出て、アトリエを開くと決めた。
 今のところは順調だが、僕だってこれかもずっと順調とは思っていない。
 来週からの学園生活では苦難もあるし、苦労もするだろう。
 いや、卒業後もそうだろう。
 でも、それは当たり前のことだ。
 ただ、自分が好きなことをやって、大きなトラブルもなく、この地で平穏に生きていく。
 それが僕の目標だ。

「エリーゼ、助けてくれるよね?」
「もちろんよ。私はあんたと共にある」

 よし!

「エリーゼとなら頑張れるよ」
「白猫のアトリエを開きましょうね」
「そうだね」

 もちろん、看板猫がいるアトリエだ。

『ウィルー、飯食おうぜー』

 ランディが部屋の外から夕食を誘ってくる。

「わかったー」

 僕はエリーゼを抱えると、部屋を出た。