「とにかく、ランディが言いたいことはわかったよ。グランジュもル・メールがいるのはちょっとびっくりだけど、大丈夫」
「そうか? じゃあ、飯に行くか」
あれ? 一緒に行く流れになっている?
「う、うん」
ナンパされて、断れない女子ってこんな感じなのかな?
僕達は部屋を出ると、階段を降りていく。
そして、1階の食堂に向かった。
「やっぱりあまり人がいないわね」
エリーゼが言うように広い食堂には10人程度しかいない。
「時間的にちょっと早いか……いるのは帰省してない先輩方だな。もう少ししたら増えると思う」
「グランジュはいる?」
エリーゼがランディに聞く。
「いないな……まあいいか。飯を食べようぜ」
僕達は奥のカウンターの方に行き、白衣を着たおばちゃんから定食を受け取ると、適当なテーブルにつき、食べ始める。
「結構、美味しいね」
「そうね。3年間の食事が良さそうで良かったわ」
エリーゼとシェアしているが、家庭的な料理で非常に良い。
「ウィルってあまり貴族感がないな。本当にアシュクロフトか?」
対面に座っているランディが聞いてくる。
「貴族感って何?」
「偉そうな感じ」
うーん……
「僕、引きこもりだから」
「引きこもりが家を出て、ここまで来たのか? 行動力があるのか、ないのかどっちだよ」
ランディが笑う。
その笑顔は嫌味一つなく、とてもさわやかだ。
コミュ力といい、間違いなく、陽キャだな。
「跡取りがいるし、このまま家にいても良くないと思ったんだよ」
嘘ではない。
「ふーん……」
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、この学校って貴族はどれくらいいるのかな?」
「1年はまだ半分くらいしか決まってないと思うが、1割くらいじゃないかな? 毎年そんなもんだぞ」
1割か。
「思ったより、少ないね」
「貴族さんはもっと良い町に行くからなー。それこそ王都とかじゃないか?」
あ、そうか。
わざわざ辺境の町には来ないか。
「それで1割か」
「ここはレベルがそこそこ高いから意識が高い奴はここを選ぶんじゃないか? さすがに貴族の考えはわからんが……」
貴族はやっぱり華やかな町に行く気がする。
そのまま話をしながらご飯を食べていると、一人の男子が食堂に入ってきた。
ぱっと見て、その男子が貴族なことがわかる。
僕も一応、貴族なので作法は習っている。
だからその男子の歩き方を見て、すぐにわかったのだ。
「ランディ、ジスラン・グランジュって黒髪?」
「そうだが? ん?」
ランディが後ろを振り向いた。
すると、貴族男子もこちらに気付き、歩いてくる。
「……エリーゼはしゃべらないで」
「……わかった」
そのまま待っていると、貴族男子がランディの横に立った。
「よう、ジスラン、今日もしかめっ面だな」
ランディ、すごいな。
「ランディ、平民なら平民らしく、言葉遣いには気を付けろ」
「なーに言ってんだよ。そういうのは学校ではダメってなってるだろ」
これはどこの学校も校則でそうなっている。
この国は学問を重んじているので学校内では身分は関係ないとされているのだ。
たまに平民の先生に盾突く貴族の生徒もいるからね。
「それはそれだが、お前はちょっと馴れ馴れしすぎる」
それはそう。
「別にいいじゃねーか」
「まあいい。それよりもそいつは? 1年のようだが……」
ジスランが僕を見る。
「今日、入寮した錬金術科の1年。部屋が目の前なんだよ」
「ということは平民か……」
あれ? 部屋の位置で貴族と平民が分かれてるの?
あ、いや、そういえば、マリーがそんなようなことを言ってた気がする。
「どうも。僕はウィリアム・アシュクロフト」
一応、名乗っておこう。
「アシュクロフト? あのアシュクロフトか?」
「多分、それ」
というか、絶対にそれ。
「ほう……あの貴族の誇りすら失くしたアシュクロフトか……ん? 錬金術科?」
「うん、錬金術科」
「アシュクロフトも落ちたもんだな……この程度の試験にすら落ちるとは」
あ、すべり止めって思われている。
「第一希望だよ」
「ふっ、そうだな。第一希望だな」
すげーバカにされているし。
「ジスラン、マジらしいぞ。そのために家を出たらしい」
「は?」
ランディの補足説明にジスランが呆けた。
「将来はアトリエを開きたいんだ」
「…………バカか、こいつ?」
ひっどい。
「別にいいじゃん」
「アシュクロフトも本当に落ちたもんだ」
落ちるのは数十年後だよ。
もっとも、僕が家を出たからどうなるかはわからないけど。
「僕の道は僕が決めるんだよ」
「ふっ、せいぜい頑張ってくれ。アシュクロフトと聞いたからどんなものかと思えば、その程度か。じゃあな」
ジスランは奥のカウンターに行き、夕食を受け取ると、食堂を出ていった。
「ここで食べないのかな?」
「部屋で食べる生徒も多いぞ」
へー……明日から僕もそうしようかな?
「ねえ、ランディ。さっきのジスランって優秀なの?」
言いつけ通り、黙っていたエリーゼが聞く。
「優秀だな。一緒に試験を受けたが、実技の方は文句なしだった」
そうなんだ。
魔力も高そうだったし、あの自信に裏付けるものは持っているんだな。
「ランディは?」
「俺は普通だ。筆記も実技も普通」
ホントかな……?
普通って言う人は普通じゃないことが多い。
「そっかー……」
「まあ、何にせよ、ジスランは完全に眼中から外しから良かったじゃないか」
「まあね。あとはル・メール……あ、令嬢なら関係ないか」
女子寮だろうし。
「どうかね? まあ、困ったことがあればいつでも言えよ。力になってやる」
なんでだろう?
ランディが主人公に思えてきた。
まあ、僕は主人公じゃなくて、悪役の中ボスなんだけどさ。
