町に出ると、日用品なんかを買っていく。
新生活であり、地味に初めての1人暮らしなのでワクワクしながら買い物を済ませた。
そして、昼になったので昼食でも食べようと思い、露天を見て回っていると、知り合いを見つけた。
「あれ? マリーじゃない?」
銀髪の子が1人で歩いている。
「本当ね。リサがいないわ」
どうしたのかな?
「おーい、マリー」
迷子かもしれないので声をかけた。
「あ、ウィル……こんなところでどうしたの?」
マリーが振り向き、首を傾げる。
「僕は寮に入るための買い物をしてた。それであらかた終わったから昼食でも食べようと思って」
「入寮の準備ね。じゃあ、合格したんだ。良かったわね」
マリーが可愛らしい笑顔で頷いた。
「うん、おかげさまでね。それよりもマリーはどうしたの? リサは?」
「あー、リサは人と会う用事があって今日は一緒じゃないわ。というか、私は今日が試験なのよ」
あ、そういうことか。
「昼休み?」
「ええ。午前中に筆記を終えて、午後から実技ね」
錬金術科の試験は1時間で終わったというのに大変だな。
「じゃあ、ご飯なわけだ」
「そういうこと。ねえ、あなたもご飯なんでしょ? どれが美味しいの?」
マリーが周りの露天を見渡す。
どうやら目移りしていたようだ。
「好きなものを買えばいいんじゃない?」
「そう言われてもね。あの肉?」
マリーは串肉屋を見ながら首を傾げる。
そういえば、お嬢様だったな。
「じゃあ、あれでいいじゃん。僕もそれにするから買ってきてあげるよ」
そう言って、串肉屋に行くと、串肉を3本買う。
なお、3本で銅貨3枚だ。
「はい」
買ってきた串肉をマリーに渡す。
しかし、ドレスに串肉は似合わないね。
「あ、ありがとう……お金は」
「あー、いいよ、いいよ。銅貨1枚だし、君達には恩があるからね」
「そんな大層なこと?」
「君らに出会わなければあのままリットまで行ってたよ」
とにかく、南に進んでいたからそうなる。
「じゃあ、まあ……えーっと、この串肉ってどこで食べるの?」
「あっちに川があるからそこで食べよう」
「川……そうなんだ……」
僕達はこの場をあとにすると、川に向かった。
そして、河川敷で敷物をしき、川を眺めながら串肉を食べる。
「どう?」
「うん、美味しいわね。こういうのをあまり食べたことがなかったけど、普通に美味しいわ」
それは良かった。
「エリーゼも美味しい?」
「普通にね」
大満足らしい。
「ウィルって家を出たんだっけ? いつ?」
マリーが聞いてくる。
「3日前かな」
「え……あなたって行動力がすごいわね」
「そう?」
「家を出て、3日なのにもう馴染んでるんじゃない」
それは前世の影響だろうね。
ド庶民だったもん。
「マリーは慣れない?」
「そうね……他国だし、基本的なことはリサに任せてきたから。でも、今後はそういうわけにはいかないのよね」
「マリーは寮?」
「ええ。そのつもり。もちろん、リサと一緒」
一緒?
「狭くない?」
「そういう部屋があるのよ。女子寮だけね」
そうなんだ……
まあ、貴族女子は色々あるからな。
男子は意外と適当でオッケーだけど。
「じゃあ、今後もリサに任せればいいんじゃない?」
「学校では一緒ってわけにはいかないもの。実習もあるし、1人で何かをしないといけないことが格段と増える」
それもそうか。
さすがに学校内をメイド付きで歩く人はいない。
「大丈夫だと思うよ。こういうのは慣れだろうし」
「そうだといいわ。それに受かればの話、ね……」
マリーが顔を落とす。
「午前中の筆記が芳しくなかった?」
「ギリギリかな……午後からの実技で取り戻す」
ギリギリってアウトって意味?
「頑張って」
「あなたは良いわよね。合格者の余裕ってやつよ。昔からそういう人はいたわ」
ん?
「マリーも錬金術科を受ければそうなれるよ」
「錬金術科なんて無理。ああいう細々としたものは向いてないもの」
器用でもないわけだ。
この子、見た目と違って、かなり脳筋タイプかもしれない。
「じゃあ、午後からの実技だね」
「ええ……御馳走様。ありがとうね。私は学校に戻るわ」
食べ終えたマリーが立ち上がった。
「いえいえ。頑張ってね」
「ありがとう」
マリーはそう言って、学校の方に向かって歩いていく。
マリーの後ろ姿を見送っていると、目の前にコソコソしたメイドさんが現れた。
「ウィリアム様、ありがとうございました」
リサがしゃがんで礼を言ってくる。
「えーっと、何してんの?」
「お嬢様を見守っています」
はじめてのおつかい……
「頑張って」
「はい。では……」
リサはコソコソとマリーの後ろをついていった。
「メイドも大変ね……」
「ホントにねー……」
僕達も串肉を食べ終えると、最後に本屋に行き、錬金術系の本を購入し、寮に戻った。
そして、部屋で本を読みながら時間を潰していく。
「ねえ、この1ヶ月、何して過ごすの?」
エリーゼが膝に乗って、聞いてくる。
「多分、勉強かな?」
「家を出ても引きこもりなわけ?」
「基本、家が好きなんだよ」
「冒険者としてお金でも稼がない?」
無理無理。
「僕には無理だよ。それよりも少しでも早く、売れそうなものを作れるようになりたい」
「この世界ってゲームなのよね? 敵を倒して儲けるゲームじゃないの?」
別に儲けるゲームではないんだけどね。
「僕は多分、ステータスが固定なんだ。どんなに頑張ってもあの雑魚能力のままだよ」
何しろ、何もしてないのにすでにレベルが45もあるのだ。
「そっかー……つまんないー」
構ってほしいんだな。
「エリーゼ、しりとりしようか」
「また微妙なチョイスを……まあ、付き合ってあげるわよ」
ツンデレ猫が尻尾をピンと立てた。
「じゃあ、エリーゼ」
「絶対に捨てないわよね?」
気にしてるなー……
