町にある骨董品や雑貨屋を巡りながら調度品を売っていくと、昼になったので露天で串肉を買い、川のほとりでエリーゼと一緒に食べる。

「やっぱり買い叩かれたわね」

 調度品は全部で金貨70枚で売れた。
 実際の価値の十分の一もないだろう。

「十分だよ。一応は3年分の学費と寮代はまかなえる」

 もちろん、奨学金の返済が半額になる前提。

「それでも他のことでお金がいると思うわよ?」
「その辺も考えないとね。できたら在学中にお金を貯めて、アトリエの資金にしたい」
「それなんだけど、金銭的に卒業後、すぐにアトリエを開くわけにはいかないでしょ」
「学んだ錬金術でお金を貯めるかだね。わかりやすいのはポーションが作れるようになったら店やギルドで売れる」

 ポーションにも種類があるが、一番はやはり傷が治る回復ポーションだろう。
 これは需要が大きいし、数が売れる。

「そういう意味でもちゃんと学ばないといけないわね」
「うん。まあ、そういうモノ作りは好きだから大丈夫。魔力もあるしね」

 体力はないけど、魔力なら無限にある。

 僕達は昼食を食べ終えると、宿屋に戻り、ゆっくりと過ごした。
 そして、翌日、自信はあるものの、やはり結果が気になったので朝から学校に向かう。

「ここで落ちてたらすべてが狂うね」
「大丈夫よ。私のウィルはこんなところで落ちないから」

 エリーゼ……
 ゲームではしゃべるキャラはなかったが、こんなに良い子だったんだな……

「行こう」
「ええ」

 僕達は魔法学校の敷地に入ると、事務室に向かった。
 そして、一呼吸置き、中に入る。

「おはようございます」

 挨拶をすると、先日のおばちゃんがいる受付に行く。

「あら、ウィリアム君。早いわね」

 先日は途中から敬語だった。
 でも、元に戻っている。
 これはもしや……

「結果が気になったもので」
「あ、そうなんだ。あれだけできたら気にしないでいいと思うけどね。えーっと、まずこれが教材」

 おばちゃんがカウンターに数冊の本を置く。

「あのー……結果は?」

 まあ、教材を置いた時点でわかるんだけど。

「合格よ。満点だもの」

 おー、頑張った甲斐があったぞ!
 でも、もうちょっと合格の喜びを味わえるように教えてほしかったな。
 軽く流してたじゃん。

「安心しました」
「落ちるとは思ってなかったでしょ」

 自信はあった。
 あったのだが、それでも気になるのが試験だ。

「それでも気になりますよ」
「ごめんね。あまりにも優秀だったから。それで合格になったから来月からウチの学生として頑張ってちょうだいね」
「はい」

 ちょっと嬉しくなりながら教材を空間魔法にしまう。

「空間魔法も使えるのね……魔法科の方が良いと思うんだけどなー」
「錬金術が良いんです」

「まあ、本人がやりたいことが一番よね。それで寮はどうする? 料金さえ払ってもらえれば今日からでも入れるわよ?」
「あ、じゃあ、お願いします。宿代もバカにならないんで」

 金貨3枚を置く。

「わかったわ。奨学金希望だったから入閣金と授業料なんかはこちらで処理しておくから。来月からの寮代もね」
「ありがとうございます」
「来月からの詳しいことは一緒に渡した本に書いてあるし、すでに寮に入っている同級生や帰省してない先輩に聞くでもいいわ。あ、一応、言っておくけど、女子寮に男子は入ったらダメだからね」

 そりゃそうだ。

「わかってます」
「彼女ができてもよ? 毎年のように停学者が出るから」

 青春かなー?
 まあ、僕には関係ないや。

「大丈夫です」
「よろしい。えーっと、寮の場所はわかる?」
「わかります」

 ゲームでは入ったことがある。
 実は女子寮もある。
 タンスを漁ったこともある。
 いやー、日本のゲームって最低だよね。

「じゃあ、これが鍵ね。制服はまた後日、採寸することになるから」
「はい。えーっと、305号室か」
「1年は3階なのよ。2年が2階で1年が1階。これは教室もね」

 なるほど。

「わかりました。ありがとうございます」
「頑張ってね。私も応援してるから」

 おばちゃんがにっこり微笑んだので一礼し、事務室を出る。

「やった。合格だよ」

 しかも、満点。

「当然ね。ウィルは毎日、頑張ってたもん」

 引きこもってね。

「寮の方に行ってみようか」
「そうね。あの宿屋より良いことを願うわ」
「あの宿屋も悪くなかったけどね」

 僕達はこの場をあとにすると、敷地の裏に向かう。

「なんか校舎が多いわね」
「実習棟があるんだよ。錬金術や魔法を研究したり、実際に使ってみる特別訓練施設なんかがある」

 この学校は正門のすぐ正面に教室や事務室、職員室などがある教育棟があり、さらには実習棟や特別訓練施設がある。
 そして、その奥には学生寮があるのだ。

「へー……特別訓練施設ってワードから戦いの匂いがするわね」
「使うのは魔法科の生徒でしょ。僕らは実習棟でマッドなサイエンティストごっこさ」
「それもどうかと思うけどね」
「冗談だよ。あ、あれが寮だね」

 前方には赤い屋根と青い屋根の3階建ての建物が並んでいる。

「赤い屋根が女子寮で青い屋根が男子寮?」
「えーっと、そうだね」

 事務のおばちゃんにもらった資料を眺めながら頷く。

「男子寮と女子寮が近くない? あれ、窓から侵入できるでしょ」

 男子寮と女子寮の間が1メートルくらいしかない。
 行こうと思えば行ける距離ではある。

「そもそも魔法で飛べば行けるよ」

 この学校は魔法学校なんだからあれくらいの高さを飛べる学生は多いだろう。

「まあ、そうだけど……そりゃ毎年、停学者が出るわけだわ。あんたも気を付けなさいね」
「僕は大丈夫だってば」

 そう答えて青い屋根の男子寮の方に入ったのだが、誰もいない。
 仕方がないのでそのまま玄関近くの階段を昇っていき、3階までやってきたが、やはり誰もいない。

「春休みで帰省か。1年はまあ、仕方がないわよね」

 1年は僕みたいなケースは少ないだろう。
 多分、1週間前くらいになれば徐々に増え出す感じだと思う。

「まあいいじゃん。えーっと、305号室はっと……あ、ここだ」

 305号室と書かれた扉を見つけたので鍵を開け、中に入る。
 部屋は10畳くらいの部屋であり、ベッドと机、それにタンスがあった。

「実家の家と比べるとしょぼいけど、まあ、良いんじゃない?」
「十分だよ。お風呂やトイレが共同じゃないのが良いね」

 ちゃんと部屋についている。

「まあね。私はあんた以外とお風呂に入るのは嫌よ」
「そうだね」

 部屋の中に入り、ベッドに布団を敷くと、腰かける。

「学校が始まるまで1ヶ月か。まずは色々と揃えないとね」

 服は買ったものの、日用品なんかはない。

「キッチンがないけど、ご飯は?」
「1階に食堂があるからそこで食べられるんだよ。ちゃんと長期休み期間中も開いてる」
「じゃあ、お金がなくて餓えるってことはないわけね」
「うん、衣食住はちゃんとあるから問題ない」

 この国の学ぶ若者を補助する制度はすごい。
 だからこそ、マリーのように他国からも留学生が来るのだ。

「よし、買い物に行こう」
「おー」

 僕達は荷物を空間魔法から出し、タンスや机に収納すると、町に買い物に行くことにした。