週末は部活動がない。
朝は穏やかにベットから起きることができるのが嬉しい。
それに
(今日はヒカリと会える日!)
ヒカリにノートを届けるためだけに、私は気合を入れてお洒落をすることにした。
肩が丸く空いた おヘソが見えそうなチビTシャツにハイウエストのハーフパンツを合わせて、大きなリング状のピアスをチョイス。
(ヒカリと会うのは一週間ぶりかあ。)
ヒカリが居ないのが寂しくて、一年くらい会ってないような気がする。
私はヒカリに会ったら話すことをずっとスマホのメモアプリに溜め込んでいた。
ファッションのこと、芸能ニュース、それから部活のこと。
ヒカリのことを考えると笑顔になる。
(今日は言いたいことを思い切り言って、ストレスを発散させよう!)
私は九センチのヒール靴を久しぶりに履いた。
♢
「確か、ヒカリが車で迎えに来るって言ってたけど。」
私はメールに書かれていたバス停で降りた。
そこは大きなビニールハウスが立ち並び、見渡す限り広大な畑しかない場所だった。
今日は五月にして汗ばむ陽気で、蝉と蛙の声が耳障りなほど響く。
やけに大きな頭の蜂に怯えながら、日傘で降り注ぐ紫外線をガードする。
「ヤダヤダ。
焼けたくないから、早く来てよ、ヒカリ。」
やがて一台の白い軽トラが高いエンジン音を響かせて私の近くに寄ってきた。
車体半分は泥だらけで、フロントガラスは虫が潰れた体液で薄汚れている。
(え、あれがまさか…?)
半分開いた助手席の窓から、ピンク色のつなぎを来たヒカリが明るく手を振っている。
「久しぶり!
コレはウチのいちばん上のアニキだよ!」
運転席に居るヒカリの兄は無言で私に頭を下げた。
「あ、はじめまして。」
青いツナギを着ていて真っ黒に日焼けした顔は無精ヒゲだらけ。
けっこうオジサンに見えるけど、案外若いのかな?
ヒカリには全然似ていない。
車を降りたヒカリがすぐに私を上から下まで眺めた。
「わあ、アオかわいー! それ、グラマラスの新作でしょ。」
「そうそう。
ネットで頼んで昨日届いたんだ。」
日傘を畳んだ私の頬が火照った。
「すごく似合う。
いいな、アオはひざ下が長いからハーフパンツが似合うよね。」
「そんなことないよ。」
ヒカリのつなぎ姿を見て言葉を失った私に気づいたのか、ヒカリは自嘲ぎみに笑った。
「私なんか、朝から晩まで稲の苗ポッド作ったり紫外線を浴びまくってるんだよ!」
私はヒカリの黒くなった頬を見て、同情した。
「日焼け止め貸そうか?」
「もうね、汗で流れちゃうから意味ないかも。
ホント、何もしてないアオが羨ましいよ。
ネイルもキレイ。見せて。」
ヒカリが私の手を取り、ため息を吐く。
「苦労を知らない、綺麗な手だよね。
あたしの日焼けした真っ黒い手とは大違い。」
私は気まずくなって、手を背中に引っ込めた。
「大変そうだね。」
「おじいちゃんの痴呆がひどくて、この間もちょっと目を離したスキに家を出て道路に飛び出してたみたい。
お母さんが轢かれてくれたら良かったのにって言うから、シャレにならないよね。」
私はガッカリした。
こんな話、つまらない。
軽トラの荷台に揺られてヒカリの家に向かう間、ほとんどヒカリの農家や介護の苦労話を聞くばかりで、ぜんぜん私の話は聞いてくれない。
もっと学校に居た時のようなキラキラした会話を期待していたのに。
だいたい、車の荷台って人が乗っても良いの?
私は車が段差で揺れるたびに荷台から投げ出されそうで、必死に枠に掴まった。
そんな時、ヒカリが部活の話を聞いてきた。
「ところで部活はちゃんと行ってるの?
絵は描いてる⁇」
ようやく私のターン。
溜めていたストレスを吐き出すように、私は愚痴った。
「それがこのあいだ、公開処刑みたいなことがあってさ。
私たちがうるさいって部長に怒られたんだよね。
ヒカリのラジオも禁止だって。」
「は? 何それ。」
急にヒカリの声のトーンが下がった。
「悪いけど、私はあの暗い部活に話のネタを提供してあげてるだけだよ?」
「強気だね。」
「だってそうじゃん。誰のおかげで部活の円満な雰囲気が保ててると思ってんの?」
誰のおかげ?
どれだけ上から目線なの。
最初は冗談かと思って、私は苦笑した。
「でも、もう部活でアゲな話はできないね。」
「部長のことは気にする必要ないよ。 あたしが戻ったらガンガン喋ろうね!」
「だね…。」
私はヒカリの勢いに押されて頷いた。
(ヒカリは計算で明るく振るまってるということ?)
ヒカリのピュアな面しか見ていなかった私は、ダーク面のヒカリの言葉に驚いた。
それからは芸能人の話で盛り上がりヒカリへの猜疑心は薄れていった。
(人間だから、たまにはブラックな感情を吐き出すこともあるよね。)
私は夜寝る前に、そう自分に言い聞かせた。
朝は穏やかにベットから起きることができるのが嬉しい。
それに
(今日はヒカリと会える日!)
ヒカリにノートを届けるためだけに、私は気合を入れてお洒落をすることにした。
肩が丸く空いた おヘソが見えそうなチビTシャツにハイウエストのハーフパンツを合わせて、大きなリング状のピアスをチョイス。
(ヒカリと会うのは一週間ぶりかあ。)
ヒカリが居ないのが寂しくて、一年くらい会ってないような気がする。
私はヒカリに会ったら話すことをずっとスマホのメモアプリに溜め込んでいた。
ファッションのこと、芸能ニュース、それから部活のこと。
ヒカリのことを考えると笑顔になる。
(今日は言いたいことを思い切り言って、ストレスを発散させよう!)
私は九センチのヒール靴を久しぶりに履いた。
♢
「確か、ヒカリが車で迎えに来るって言ってたけど。」
私はメールに書かれていたバス停で降りた。
そこは大きなビニールハウスが立ち並び、見渡す限り広大な畑しかない場所だった。
今日は五月にして汗ばむ陽気で、蝉と蛙の声が耳障りなほど響く。
やけに大きな頭の蜂に怯えながら、日傘で降り注ぐ紫外線をガードする。
「ヤダヤダ。
焼けたくないから、早く来てよ、ヒカリ。」
やがて一台の白い軽トラが高いエンジン音を響かせて私の近くに寄ってきた。
車体半分は泥だらけで、フロントガラスは虫が潰れた体液で薄汚れている。
(え、あれがまさか…?)
半分開いた助手席の窓から、ピンク色のつなぎを来たヒカリが明るく手を振っている。
「久しぶり!
コレはウチのいちばん上のアニキだよ!」
運転席に居るヒカリの兄は無言で私に頭を下げた。
「あ、はじめまして。」
青いツナギを着ていて真っ黒に日焼けした顔は無精ヒゲだらけ。
けっこうオジサンに見えるけど、案外若いのかな?
ヒカリには全然似ていない。
車を降りたヒカリがすぐに私を上から下まで眺めた。
「わあ、アオかわいー! それ、グラマラスの新作でしょ。」
「そうそう。
ネットで頼んで昨日届いたんだ。」
日傘を畳んだ私の頬が火照った。
「すごく似合う。
いいな、アオはひざ下が長いからハーフパンツが似合うよね。」
「そんなことないよ。」
ヒカリのつなぎ姿を見て言葉を失った私に気づいたのか、ヒカリは自嘲ぎみに笑った。
「私なんか、朝から晩まで稲の苗ポッド作ったり紫外線を浴びまくってるんだよ!」
私はヒカリの黒くなった頬を見て、同情した。
「日焼け止め貸そうか?」
「もうね、汗で流れちゃうから意味ないかも。
ホント、何もしてないアオが羨ましいよ。
ネイルもキレイ。見せて。」
ヒカリが私の手を取り、ため息を吐く。
「苦労を知らない、綺麗な手だよね。
あたしの日焼けした真っ黒い手とは大違い。」
私は気まずくなって、手を背中に引っ込めた。
「大変そうだね。」
「おじいちゃんの痴呆がひどくて、この間もちょっと目を離したスキに家を出て道路に飛び出してたみたい。
お母さんが轢かれてくれたら良かったのにって言うから、シャレにならないよね。」
私はガッカリした。
こんな話、つまらない。
軽トラの荷台に揺られてヒカリの家に向かう間、ほとんどヒカリの農家や介護の苦労話を聞くばかりで、ぜんぜん私の話は聞いてくれない。
もっと学校に居た時のようなキラキラした会話を期待していたのに。
だいたい、車の荷台って人が乗っても良いの?
私は車が段差で揺れるたびに荷台から投げ出されそうで、必死に枠に掴まった。
そんな時、ヒカリが部活の話を聞いてきた。
「ところで部活はちゃんと行ってるの?
絵は描いてる⁇」
ようやく私のターン。
溜めていたストレスを吐き出すように、私は愚痴った。
「それがこのあいだ、公開処刑みたいなことがあってさ。
私たちがうるさいって部長に怒られたんだよね。
ヒカリのラジオも禁止だって。」
「は? 何それ。」
急にヒカリの声のトーンが下がった。
「悪いけど、私はあの暗い部活に話のネタを提供してあげてるだけだよ?」
「強気だね。」
「だってそうじゃん。誰のおかげで部活の円満な雰囲気が保ててると思ってんの?」
誰のおかげ?
どれだけ上から目線なの。
最初は冗談かと思って、私は苦笑した。
「でも、もう部活でアゲな話はできないね。」
「部長のことは気にする必要ないよ。 あたしが戻ったらガンガン喋ろうね!」
「だね…。」
私はヒカリの勢いに押されて頷いた。
(ヒカリは計算で明るく振るまってるということ?)
ヒカリのピュアな面しか見ていなかった私は、ダーク面のヒカリの言葉に驚いた。
それからは芸能人の話で盛り上がりヒカリへの猜疑心は薄れていった。
(人間だから、たまにはブラックな感情を吐き出すこともあるよね。)
私は夜寝る前に、そう自分に言い聞かせた。



