✳
「あかりーっ!」
その日の帰り、教室で1人教科書を片づけていると、勢いよく七海が教室に入ってきた。
「ん?何」
私は手は動かしたまま口を動かす。
「あのさ、今日私の家おいでよ!作戦会議しよ!」
「え?」
作戦会議?一体何の?
「名付けて、”輝をメロメロにしよう大作戦!”どう?」
私は、思わずそのネーミング力のなさに、クスッと笑ってしまう。
「そのネーミング、七海が考えたの?」
「うん!今考えた。もうすごくいい感じでしょ??」
そういって、屈託のない笑顔で笑う七海はもう楽しそうだった。
でもさ。
この気持ちは、伝えない方がいいと思うんだよね。
今の関係、壊したくないし。
「これは私の問題だから。でも、ありがとう」
そう。
これは私の問題。
「なんでさ?私とあかり、友達でしょ?あかりの問題は私の問題でもあるんだよ!」
そう一線を引こうとするも、七海はそう言って、構わずその一線を越えて、私の中に入ってくる。
「さ、いこう!もう荷物まとめたでしょ?奏ちゃん、待たせてるの。輝にはあとで急用できたから先に帰るって、私の方からメッセージ送っておくから心配無用。じゃ、レッツゴーっ!」
そう言って七海は、私の反応を待たずに鞄を手に取り、私の手首を掴んで走り出した。
教室を出て、学校をでて、玄関にいた佐野奏をも七海は連れて走る。
佐野奏は一瞬困った顔をするが、いつものポーカーフェイスに戻る。
いつも後先考えずに突っ走る七海には、慣れてしまっているのだろう。
七海は、いっつもこうやって半強制的に私を前へと導いてくれる。
この道へ行けばいいよって教えてくれる。
今まで、何もかもを独りで戦わないといけないと思ってた。
一緒に戦うってことを私は知らなかった。
それを教えてくれたのは七海。
あなたがいたから、きっと今私はここにいるんだって思う。
✳
「たっだいまー!」
いつの間にか、私たちは七海の家の前に立っていた。
七海を筆頭に私たちは、玄関へと入る。
この島の家の構造は大体同じらしい。
やっぱり、広い玄関があって、少し行ったところに居間がある。
家には今誰もいないらしく、家の中はとても静かだった。3人の足音だけが長い廊下に響いた。
そして、七海は襖を開けて、部屋へと入っていく。
きっとこの部屋が七海の部屋なんだと思う。
意外と物は少なく、整理整頓が行き届いていた。
「七海。俺、茶持ってきていい?」
佐野奏が、相変わらずのポーカーフェイスで、襖の前に立ってそういう。
「ああ、いいよ。いつものところにあるから。あたしたちの分もお願いねっ!」
「ああ」
佐野奏は、荷物をゆっくりと下ろして、踵を返し部屋を出た。
「奏ちゃん。あかりとちょっと似てると思わない?」
ふと七海がそんなことを言いだした。
「え?」
どこが?
「無愛想なとことか?」
そういって、面白半分に笑う七海。
確かに、それなら似ているかもしれない。
感情を押し殺してきた日々。
そんな私を傍から見れば、ポーカーフェイスに見えるのだろう。
「あ、そんなこと話に来たんじゃなかった!さて、座って座ってあかり!」
そういって、センターテーブルの座布団の一つに七海が腰を下ろした。
私も、七海が用意してくれた座布団に腰を下ろす。
そこへちょうど、カランという氷の音と共に、佐野奏が3つのグラスを持って部屋に帰ってきた。
テーブルに置かれる3つのお茶の入ったグラス。
そのテーブルを囲む私たち3人。
なぜか、落ち着くことは出来なかった。
「さて、始めようか。司会は私ねーっ!」
そういって、七海はすでにノリノリのようだ。
「っていうか、輝のどこを好きになったの?」
そういって七海が、マイクを持ったふりをして、私の方へ手を伸ばしてくる。
どこを好きになったかって……そんなの……。
「分からない」
なんで好きなったのか、どこが好きなのか……私にはわからない。
「あかりさ、私が前言ったこと覚えてる?」
七海が……前言ったこと?
「輝を助けてほしいってやつ」
七海は、私が思い出せないのを察して、ぽつりとつぶやいた。
ああ、そういえば……。
『輝を……助けてあげてほしいの』
言っていた。
確かに七海は言っていた。
その瞬間、さっきまで黙って無表情で聞いていた佐野奏が動いた。
「もしかして……七海。お前っ!」
見たことのない顔だった。
怒っているのか、悲しんでいるのかそんな訳の分からない顔を、佐野奏は七海に向けていた。
「大丈夫、奏ちゃん。言ってないよ。これは輝の口から言うべきだって思ってる。私に言う権利なんてないんだから」
「……そうか。お前そこは意外と考えてんだな」
「意外って何よ!いつも考えてるよ!何かしら!」
私の目の前で繰り広げられる七海と佐野奏の会話。
私に理解できるはずはなかった。
「……っとにかくね、輝を見ていてほしいの。あかりはさ、輝と家近いしさ、夜も会うときは会うみたいだし。とにかく、輝から目を離さないでほしい。輝はそしたらきっと、心開いてくれるはずだから。心を開くのを待っていてほしいの」
七海は必死に私にそういってくる。
心を開く……。
私に、それができるの……
「迷ってるくらいなら、輝好きになんのやめとけよ」
切れ味のある声が隣から飛んできた。
その声の方向を見て見れば、相変わらずの顔の佐野奏がいた。
「……」
迷っているというか。
自信がなかった。
こんな私に、この2人がおそらく出来なかっただろうことが出来ると思えなかった。
ただ、この気持ちを抑えて、好きになるのをやめようとしても――やめられる自信なんて、なかった。
「奏ちゃん!そんなに冷たくしないでよ。でもさ、あかり。前も言ったと思うけど輝はね、他とは違うよ。それだけは覚えておいて」
そういって、七海が少し悲しげに笑った。
そのあと、何気ない話をして七海の家を出た。
七海の家を出たころは、もう烏が鳴いていて、空はあの時の海のように茜色だった。
「あかりーっ!」
その日の帰り、教室で1人教科書を片づけていると、勢いよく七海が教室に入ってきた。
「ん?何」
私は手は動かしたまま口を動かす。
「あのさ、今日私の家おいでよ!作戦会議しよ!」
「え?」
作戦会議?一体何の?
「名付けて、”輝をメロメロにしよう大作戦!”どう?」
私は、思わずそのネーミング力のなさに、クスッと笑ってしまう。
「そのネーミング、七海が考えたの?」
「うん!今考えた。もうすごくいい感じでしょ??」
そういって、屈託のない笑顔で笑う七海はもう楽しそうだった。
でもさ。
この気持ちは、伝えない方がいいと思うんだよね。
今の関係、壊したくないし。
「これは私の問題だから。でも、ありがとう」
そう。
これは私の問題。
「なんでさ?私とあかり、友達でしょ?あかりの問題は私の問題でもあるんだよ!」
そう一線を引こうとするも、七海はそう言って、構わずその一線を越えて、私の中に入ってくる。
「さ、いこう!もう荷物まとめたでしょ?奏ちゃん、待たせてるの。輝にはあとで急用できたから先に帰るって、私の方からメッセージ送っておくから心配無用。じゃ、レッツゴーっ!」
そう言って七海は、私の反応を待たずに鞄を手に取り、私の手首を掴んで走り出した。
教室を出て、学校をでて、玄関にいた佐野奏をも七海は連れて走る。
佐野奏は一瞬困った顔をするが、いつものポーカーフェイスに戻る。
いつも後先考えずに突っ走る七海には、慣れてしまっているのだろう。
七海は、いっつもこうやって半強制的に私を前へと導いてくれる。
この道へ行けばいいよって教えてくれる。
今まで、何もかもを独りで戦わないといけないと思ってた。
一緒に戦うってことを私は知らなかった。
それを教えてくれたのは七海。
あなたがいたから、きっと今私はここにいるんだって思う。
✳
「たっだいまー!」
いつの間にか、私たちは七海の家の前に立っていた。
七海を筆頭に私たちは、玄関へと入る。
この島の家の構造は大体同じらしい。
やっぱり、広い玄関があって、少し行ったところに居間がある。
家には今誰もいないらしく、家の中はとても静かだった。3人の足音だけが長い廊下に響いた。
そして、七海は襖を開けて、部屋へと入っていく。
きっとこの部屋が七海の部屋なんだと思う。
意外と物は少なく、整理整頓が行き届いていた。
「七海。俺、茶持ってきていい?」
佐野奏が、相変わらずのポーカーフェイスで、襖の前に立ってそういう。
「ああ、いいよ。いつものところにあるから。あたしたちの分もお願いねっ!」
「ああ」
佐野奏は、荷物をゆっくりと下ろして、踵を返し部屋を出た。
「奏ちゃん。あかりとちょっと似てると思わない?」
ふと七海がそんなことを言いだした。
「え?」
どこが?
「無愛想なとことか?」
そういって、面白半分に笑う七海。
確かに、それなら似ているかもしれない。
感情を押し殺してきた日々。
そんな私を傍から見れば、ポーカーフェイスに見えるのだろう。
「あ、そんなこと話に来たんじゃなかった!さて、座って座ってあかり!」
そういって、センターテーブルの座布団の一つに七海が腰を下ろした。
私も、七海が用意してくれた座布団に腰を下ろす。
そこへちょうど、カランという氷の音と共に、佐野奏が3つのグラスを持って部屋に帰ってきた。
テーブルに置かれる3つのお茶の入ったグラス。
そのテーブルを囲む私たち3人。
なぜか、落ち着くことは出来なかった。
「さて、始めようか。司会は私ねーっ!」
そういって、七海はすでにノリノリのようだ。
「っていうか、輝のどこを好きになったの?」
そういって七海が、マイクを持ったふりをして、私の方へ手を伸ばしてくる。
どこを好きになったかって……そんなの……。
「分からない」
なんで好きなったのか、どこが好きなのか……私にはわからない。
「あかりさ、私が前言ったこと覚えてる?」
七海が……前言ったこと?
「輝を助けてほしいってやつ」
七海は、私が思い出せないのを察して、ぽつりとつぶやいた。
ああ、そういえば……。
『輝を……助けてあげてほしいの』
言っていた。
確かに七海は言っていた。
その瞬間、さっきまで黙って無表情で聞いていた佐野奏が動いた。
「もしかして……七海。お前っ!」
見たことのない顔だった。
怒っているのか、悲しんでいるのかそんな訳の分からない顔を、佐野奏は七海に向けていた。
「大丈夫、奏ちゃん。言ってないよ。これは輝の口から言うべきだって思ってる。私に言う権利なんてないんだから」
「……そうか。お前そこは意外と考えてんだな」
「意外って何よ!いつも考えてるよ!何かしら!」
私の目の前で繰り広げられる七海と佐野奏の会話。
私に理解できるはずはなかった。
「……っとにかくね、輝を見ていてほしいの。あかりはさ、輝と家近いしさ、夜も会うときは会うみたいだし。とにかく、輝から目を離さないでほしい。輝はそしたらきっと、心開いてくれるはずだから。心を開くのを待っていてほしいの」
七海は必死に私にそういってくる。
心を開く……。
私に、それができるの……
「迷ってるくらいなら、輝好きになんのやめとけよ」
切れ味のある声が隣から飛んできた。
その声の方向を見て見れば、相変わらずの顔の佐野奏がいた。
「……」
迷っているというか。
自信がなかった。
こんな私に、この2人がおそらく出来なかっただろうことが出来ると思えなかった。
ただ、この気持ちを抑えて、好きになるのをやめようとしても――やめられる自信なんて、なかった。
「奏ちゃん!そんなに冷たくしないでよ。でもさ、あかり。前も言ったと思うけど輝はね、他とは違うよ。それだけは覚えておいて」
そういって、七海が少し悲しげに笑った。
そのあと、何気ない話をして七海の家を出た。
七海の家を出たころは、もう烏が鳴いていて、空はあの時の海のように茜色だった。



