涙の先にある光




 

いつだっただろうか。ふと耳にしたことがある。
恋とは、気づいた時にはもう始まっているのだ――――と。


『独り……寂しいだろ?』


あの日から、輝のこの言葉が私の耳から離れることはなかった。
あの、輝の悲しそうな瞳を忘れることはなかった。


「……あーかりっ!」

「……ん?」


あれ、私何ぼーっとしてたんだろう。
私らしくない。

今は休み時間。
クラスメイトが自由に教室を動き回る。
私はただただ、頬杖をついてさっきまである人物を見ていた。

だけど、七海に呼ばれ、我に返る。
私の前席に座っていた七海は、椅子を半周させて私の方へ体を向けた。
そして、その可愛らしいくりくりの瞳を私に真っ直ぐ向けてくる。


「あかりさ、最近おかしいよ」


何だと思って待っていた言葉が、その一言。
まあ、たしかに。
輝の言った言葉だったり、あの表情が頭から離れなくて虚空を見つめることは増えたかもしれない。
ただ、だからといってそれが、自分にとって変なのかどうか、私には判断がつかない。


「ねね、あかりさ、さっきから誰見てたの?」


七海は無邪気に笑いながらそう言って私を見てくる。
七海の問いかけに跳ねる私の心臓。


「だれって……」


そんなの、一人しかない。
言葉を分かりやすく濁す私。
なんで、濁すのか。
自分でもよくわからなかった。


「輝」

「……っ!」


七海ははっきりそう言葉に出す。
小さな声で、私にしか聞こえないように。

この子にきっと私は一生敵わないんだって思う。
きっと今の私の顔は、動揺を隠しきれてはいないんだ。


「やっぱり。図星だっ!」


この目の前にいる七海にとって、私の心の中は見え見えらしい。
幸い輝はついさっき、教室から出て行った。

多分トイレか何かだろうと思う。
少しだけ、胸の高まりが治まった。


「恋……?」

「え?」


七海は何言ってるの?

私が、輝に……恋?そんなはず……ない。


「ほら、恋する女の子の顔になってるっ!」


そういって、七海はからかっているのか、私の頬を指先で突っついてきた。

恋する……女の子の顔?
そんな馬鹿な。
そんなはずない。
そんなはず――――。

その瞬間、教室のドアが開いて――輝が、笑顔で戻ってきた。

自然と、目が輝を追っていた。
ぐるぐると、頭の中で彼の言葉が渦巻く。
あのときの声。
あのときの瞳。
あのときの背中――

胸が、きゅっと締め付けられる。

心臓の音がうるさい。
さっきよりもずっと、速くて。
抑えられないくらいに。