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―――そう、あれは冬の夜。
目の前に広がるのは、闇の様な真っ黒の海。
微かに水面に反射する月の光。
そんな海に私はゆっくり入って行った。
なんで、自殺場所を海にしたかは覚えてはいない。
家にいるのがもう耐えられなくて、フラフラしてたらここにたどり着いたんだと思う。
水はとても冷たかった。
いや、冷たいってもんじゃなかった。
まるで、氷水に足を浸しているような、全身が凍ってしまうような冷たさ。
だけど、そんな冷たさよりも、私はこんな世界から逃げたいって気持ちのほうが勝った。
私は一歩一歩海に入って行った。
暫くして、足の感覚はなくなり、思考も働かなくなっていって、視界もぼやけてきた。
ああ、このまま死ねるんだって思った。
もう体の感覚は何にもなくて、ただただ私は闇に落ちていくような感覚に陥った。
その時にふと聞こえた。
誰の声かはわからない。
女の人の声だったと思う。
――――”生きて”
とても優しい声だった。
気がついたら、私は病院にいた。
点滴に繋がれて、温かい布団までかけられてた。
横を見たら、怖い顔をしたお母さんが立っていた。
その時お母さんが私に言った一言を、私はまだ忘れられない。
『自殺未遂とか……。本当は死ぬ気ないんでしょ?』
絶望した。
何もかもに。
今度こそ死んでやる。
そう思った。
海を一瞬恨んだ。
なんで、こんな私を生かしたんだって。
生きる価値なんて私にはないのに。
帰る場所なんて私にはないのに。
それから、退院してまたすぐに私は海に行った。
今度こそ死んでやる。
それしか頭になかった。
それで、勢いよく私は海に入った。
だけど、あの”生きて”って言葉が邪魔して、どうしても私はもう一歩踏み出せなかった。
誰だかはわからない。
分らないけれど、そのたった一言が私にブレーキをかけたの。
今になって思う。
あの声は海の声だったんじゃないかって。
私の勝手な妄想だけど。
それからだったと思う。
あの灰色の海が、私の唯一の拠り所になった。
私を生かした海が唯一のあたしの味方だった―――。
―――そう、あれは冬の夜。
目の前に広がるのは、闇の様な真っ黒の海。
微かに水面に反射する月の光。
そんな海に私はゆっくり入って行った。
なんで、自殺場所を海にしたかは覚えてはいない。
家にいるのがもう耐えられなくて、フラフラしてたらここにたどり着いたんだと思う。
水はとても冷たかった。
いや、冷たいってもんじゃなかった。
まるで、氷水に足を浸しているような、全身が凍ってしまうような冷たさ。
だけど、そんな冷たさよりも、私はこんな世界から逃げたいって気持ちのほうが勝った。
私は一歩一歩海に入って行った。
暫くして、足の感覚はなくなり、思考も働かなくなっていって、視界もぼやけてきた。
ああ、このまま死ねるんだって思った。
もう体の感覚は何にもなくて、ただただ私は闇に落ちていくような感覚に陥った。
その時にふと聞こえた。
誰の声かはわからない。
女の人の声だったと思う。
――――”生きて”
とても優しい声だった。
気がついたら、私は病院にいた。
点滴に繋がれて、温かい布団までかけられてた。
横を見たら、怖い顔をしたお母さんが立っていた。
その時お母さんが私に言った一言を、私はまだ忘れられない。
『自殺未遂とか……。本当は死ぬ気ないんでしょ?』
絶望した。
何もかもに。
今度こそ死んでやる。
そう思った。
海を一瞬恨んだ。
なんで、こんな私を生かしたんだって。
生きる価値なんて私にはないのに。
帰る場所なんて私にはないのに。
それから、退院してまたすぐに私は海に行った。
今度こそ死んでやる。
それしか頭になかった。
それで、勢いよく私は海に入った。
だけど、あの”生きて”って言葉が邪魔して、どうしても私はもう一歩踏み出せなかった。
誰だかはわからない。
分らないけれど、そのたった一言が私にブレーキをかけたの。
今になって思う。
あの声は海の声だったんじゃないかって。
私の勝手な妄想だけど。
それからだったと思う。
あの灰色の海が、私の唯一の拠り所になった。
私を生かした海が唯一のあたしの味方だった―――。



