✳
____カキーン……
白球は再び青空へと飛び上がり、その音は私の鼓膜を揺らす。現実が無慈悲に私たちの目の前に広がる。
「わぁぁぁぁぁあ!!!」
歓声は大きくなる。
勝利があれば敗北がある。
それは、当たり前のこと。
「……ちっくしょう……っ!」
巧はその場に膝をつき、崩れ落ちた。
ああ。私たちは、負けたんだ。
3年生はこれで最後。
私たち野球部の3年生は3人。
キャプテンの川原先輩。ムードメーカーの村上先輩。いつも優しい大原先輩。
3年生の目には涙が光っていた。
野球部はゆっくりと巧の方へ集まる。
川原先輩は座り込んでいる巧に手を伸ばした。
「巧……。お前はよくやってくれた。ありがとう。お前と野球がやれてよかった」
「先輩っ……。俺は……」
「立て、巧。お前はよく頑張った。青の分までお前は頑張った」
「先輩……」
巧は川原先輩の手を握り、立ち上がった。
そして、深々と頭を下げる。
「来年こそ……この悔しさを、必ず晴らします。ありがとうございました!」
巧を筆頭に、1、2年生は皆3年生に向かって頭を下げた。皆泣いている。
どんなに監督に怒鳴られようが、きつい練習だろうが泣かない人たちが、あんなに泣いている。
この悔しさをバネに、彼らは再び歩き出すんだ。
勝利というものを追い求めて。
「監督……。野球って……いいですよね」
ベンチからその光景を見ていた私はぽつりと言う。
「ああ……。そうだな」
監督は私の隣で静かにそういった。
✳
「なぁ……。今日空、青のところ行くのか?」
試合が終わり、病院にいこうとしていた、私を川原先輩が呼び止める。
「あ、はい。今日の報告を……」
「俺たちも行ったら駄目か?3年だけだが……」
「あ、はい。大丈夫ですよ。青も喜びます」
「じゃ、ちょっと待って。あいつら呼んでくるから」
先輩はそういって他の2人の先輩を呼びに駆けて行った。
今から負けたことを青に報告しなければいけない。
「はぁ……」
私は一人小さくため息をついた。
青は、人一倍の負けず嫌いだった。誰だって負けたくはないけれど、青の負けたくないという想いは、誰よりも強かった。
試合に負ければ、今までの倍練習した。
そして、また負ければ、またその倍練習をした。
負けるたびに青はどんどん強くなっていった。
私はそばでそんな青の姿をずっと見てきた。
そんな青に負けたと報告することは、なんて辛いことだろう。
「おっし……。空、待たせて悪かったなっ」
川原先輩が戻ってきた。村上先輩と大原先輩も一緒だった。そして4人でゆっくりと歩き出す。
もう、日が沈む。綺麗な茜色の光が私たちを優しく包み込んでいた――――。
✳
「青……。先輩来たよ。川原先輩と村上先輩と大原先輩」
青は相変わらず。ベッドでただ寝ているだけ。
喋ることはない。
「お前が倒れてから、久しぶりだな……」
川原先輩は、どこか寂しげに青へ語りかけた。
「お前さ……。目覚まさないから俺たち引退しちまったじゃねぇか」
村上先輩は少し笑いながら言う。
「お前が目覚ます頃、俺たちはどうしているんだろうな」
大原先輩が静かにそう言う。先輩は皆悲しそうだった。
当たり前か。
負けた報告をしなければいけないのだから。
「青……。お前に謝らなければいけないことがあるんだ。お前が楽しみにしていた甲子園に繋がる試合。負けちまった。本当にすまない。俺たちの力不足だ。俺たちが不甲斐ないばかりに負ちまった。……っ!本当に……ごめんな」
川原先輩は青のベットに崩れ落ちた。泣いている。
あんなに普段頼りになって、しっかりしている先輩が。
「……っ!ごめんな……青」
村上先輩も泣いている。
「青……。すまねぇっ!」
大原先輩も泣いている。先輩皆泣いている。
なんで泣くの?
青はきっと
「先輩……。青はきっと怒ってないし、先輩方に謝ってほしくないと思っています。むしろ、青はきっと先輩方に謝りたいと思っていますよ。だって、青、先輩方のこと本当に尊敬していましたから。大好きでしたから」
なぜ、こんなこと言ったかは自分でもわからない。
先輩を励まそうとか、そんなことで言ったわけじゃない。
ただ、青の気持ちが私にはなんとなくわかったから。
そうなんだよね、青。
その瞬間視界がにじみ、足元がふらつく。
あれ……体に、力が入らない……?
先輩たちの顔が、霞の向こうに消えていくように見えた――。
「おい、空っ」
川島先輩の声が聞こえ、そのまま私は意識を失った。
____カキーン……
白球は再び青空へと飛び上がり、その音は私の鼓膜を揺らす。現実が無慈悲に私たちの目の前に広がる。
「わぁぁぁぁぁあ!!!」
歓声は大きくなる。
勝利があれば敗北がある。
それは、当たり前のこと。
「……ちっくしょう……っ!」
巧はその場に膝をつき、崩れ落ちた。
ああ。私たちは、負けたんだ。
3年生はこれで最後。
私たち野球部の3年生は3人。
キャプテンの川原先輩。ムードメーカーの村上先輩。いつも優しい大原先輩。
3年生の目には涙が光っていた。
野球部はゆっくりと巧の方へ集まる。
川原先輩は座り込んでいる巧に手を伸ばした。
「巧……。お前はよくやってくれた。ありがとう。お前と野球がやれてよかった」
「先輩っ……。俺は……」
「立て、巧。お前はよく頑張った。青の分までお前は頑張った」
「先輩……」
巧は川原先輩の手を握り、立ち上がった。
そして、深々と頭を下げる。
「来年こそ……この悔しさを、必ず晴らします。ありがとうございました!」
巧を筆頭に、1、2年生は皆3年生に向かって頭を下げた。皆泣いている。
どんなに監督に怒鳴られようが、きつい練習だろうが泣かない人たちが、あんなに泣いている。
この悔しさをバネに、彼らは再び歩き出すんだ。
勝利というものを追い求めて。
「監督……。野球って……いいですよね」
ベンチからその光景を見ていた私はぽつりと言う。
「ああ……。そうだな」
監督は私の隣で静かにそういった。
✳
「なぁ……。今日空、青のところ行くのか?」
試合が終わり、病院にいこうとしていた、私を川原先輩が呼び止める。
「あ、はい。今日の報告を……」
「俺たちも行ったら駄目か?3年だけだが……」
「あ、はい。大丈夫ですよ。青も喜びます」
「じゃ、ちょっと待って。あいつら呼んでくるから」
先輩はそういって他の2人の先輩を呼びに駆けて行った。
今から負けたことを青に報告しなければいけない。
「はぁ……」
私は一人小さくため息をついた。
青は、人一倍の負けず嫌いだった。誰だって負けたくはないけれど、青の負けたくないという想いは、誰よりも強かった。
試合に負ければ、今までの倍練習した。
そして、また負ければ、またその倍練習をした。
負けるたびに青はどんどん強くなっていった。
私はそばでそんな青の姿をずっと見てきた。
そんな青に負けたと報告することは、なんて辛いことだろう。
「おっし……。空、待たせて悪かったなっ」
川原先輩が戻ってきた。村上先輩と大原先輩も一緒だった。そして4人でゆっくりと歩き出す。
もう、日が沈む。綺麗な茜色の光が私たちを優しく包み込んでいた――――。
✳
「青……。先輩来たよ。川原先輩と村上先輩と大原先輩」
青は相変わらず。ベッドでただ寝ているだけ。
喋ることはない。
「お前が倒れてから、久しぶりだな……」
川原先輩は、どこか寂しげに青へ語りかけた。
「お前さ……。目覚まさないから俺たち引退しちまったじゃねぇか」
村上先輩は少し笑いながら言う。
「お前が目覚ます頃、俺たちはどうしているんだろうな」
大原先輩が静かにそう言う。先輩は皆悲しそうだった。
当たり前か。
負けた報告をしなければいけないのだから。
「青……。お前に謝らなければいけないことがあるんだ。お前が楽しみにしていた甲子園に繋がる試合。負けちまった。本当にすまない。俺たちの力不足だ。俺たちが不甲斐ないばかりに負ちまった。……っ!本当に……ごめんな」
川原先輩は青のベットに崩れ落ちた。泣いている。
あんなに普段頼りになって、しっかりしている先輩が。
「……っ!ごめんな……青」
村上先輩も泣いている。
「青……。すまねぇっ!」
大原先輩も泣いている。先輩皆泣いている。
なんで泣くの?
青はきっと
「先輩……。青はきっと怒ってないし、先輩方に謝ってほしくないと思っています。むしろ、青はきっと先輩方に謝りたいと思っていますよ。だって、青、先輩方のこと本当に尊敬していましたから。大好きでしたから」
なぜ、こんなこと言ったかは自分でもわからない。
先輩を励まそうとか、そんなことで言ったわけじゃない。
ただ、青の気持ちが私にはなんとなくわかったから。
そうなんだよね、青。
その瞬間視界がにじみ、足元がふらつく。
あれ……体に、力が入らない……?
先輩たちの顔が、霞の向こうに消えていくように見えた――。
「おい、空っ」
川島先輩の声が聞こえ、そのまま私は意識を失った。



