✳




 私の目の前で、空が突然倒れた。
 私は慌てて救急車を呼び、震える手でスマホを握りしめたまま、空のそばにしゃがみ込む。
 彼女の名を必死に呼び続けても、空が目を開けることはなかった。

 救急車が到着すると、私はそのまま彼女と一緒に乗り込んだ。
 揺れる車内でも、私はずっと、彼女の手を握りしめていた。

 病院に着くなり、空はすぐに治療室へと運ばれていった。
 私はただ、その背中を見送るしかできなかった。

 ――空。
 あなたは、こんな思いを、青くんにさせたくなかったんだよね。
 だから、ひとりでここへ来た。
 私だったら、きっとそんな決断はできなかった。
 でも、あなたは……誰よりも、何よりも、青くんのことを大切に思っているから。
 だからこそ、自分を押し殺してでも、彼を守ろうとしたんだね。

 空が初めて教室にやってきた日、私は思わず目を疑った。
 あなたの目は、とても寂しそうで――どこか、深い悲しみを抱えているように見えた。
 無理に笑っていたけれど、その目だけは嘘をつけなかった。

 私は、あなたの過去を何ひとつ知らない。
 でも、それでも――心の底から、あなたを助けたいと思った。
 理由なんて、わからない。
 けど、きっとそれが“運命”ってやつなんだと、私は信じてる。

 だから……空。
 ここで、諦めないで。
 私がついてるんだから。
 あなたは、生きなきゃいけない。
 幸せにならなきゃいけないんだよ。

 「空……っ」

 病院の帰り道、私は夜空に向かってそっとつぶやいた。
 あふれそうな涙をなんとかこらえながら、私は静かに歩き出す。
 暗い夜空の先に、微かな希望を信じるように――。