『4番、ピッチャー、相原くん』

 「……ふぅ……」

 小さく息を吐き、胸の高鳴りを押し沈める。
 太陽が容赦なく降り注ぎ、額ににじむ汗を拭った。
 見上げた先には、どこまでも広がる真っ青な空。

 「あおぉーっ!」
 「かっ飛ばせーっ!」

 スタンドからの声援と応援歌が、波のように押し寄せる。

 ここで負けるわけにはいかない。
 俺は、甲子園に行くんだ。
 勝つ。絶対に。

 ――大丈夫。
 俺は、一人じゃない。

 握ったバットに、自然と力がこもった。
 迷いはない。視線の先には、ただ勝利だけがあった。

 打席に立つと、世界がふっと静まり返った。
 耳に届くのは、自分の心臓の鼓動だけ。

 ……カキーン。

 乾いた打球音が青空に吸い込まれ、
 白球は、溶けるように高く高く、舞い上がっていった。

 「なぁ、空」

 ――あの日の約束が、ふと胸によみがえる。

 「……ん?」
 「甲子園、連れて行ってやるからな」
 「当たり前だし。約束じゃん。連れて行かなかったら、ぶっ飛ばす」
 「うわ、暴力女反対!」

 ――これは。

 幼馴染だった、俺たち二人が交わした、
 たった一つの、小さな約束。

 君と重ねた日々は、あたたかくて、
 そして、少しだけ、切ないものでした。