「俺の話聞いて分かったやろ。蒼人くんが思ってるような人間やないって。実の親でさえ、俺のことを憎んで嫌っとるんやもん。蒼人くんも、いつか俺を嫌になる日が来るよ」
「それは、」
「でも、そんな日が来んかったらええのになぁ……」
涙の滲む声でそんな風に吐露されたら、衝動的に体が動いた。強く腕を引けば、何の抵抗もなしに倒れ込んでくる。俺の腕の中ですっぽりと収まるほど細身の体。硬直した獅子道くんを力強く抱き締めて、首元にぐりぐりと頭を擦り付ける。
「あ、蒼人くん?」
困惑している声が耳に届くけれど、顔を上げることはできそうにない。この人はどこにいてもずっと独りで、孤独と戦ってきたんだ。俺が鼻をすする音を聞いた獅子道くんは、ぎこちない手つきで俺の頭を優しく撫でた。
「……高校、辞めないでください」
「うん、大丈夫。卒業はちゃんとするよ」
鼻声で出てきた言葉がこれだなんて情けない。いかに自分が恵まれた環境で育ってきたのかを思い知る。嗚呼、無力だなぁと何もできない自分に腹が立って失望した。
だけど、これだけは絶対に否定したい。今、この場所でちゃんと否定して、宣言しておきたいことがある。顔を上げて、どんな時だって綺麗に煌めいている瞳を見つめる。
「未来のことなんて何も分からないけど、きっといつか俺が獅子道くんに腹を立てることもあるんだと思います」
「……うん」
「獅子道くんだって、俺を疎ましく思う日が来るはずです」
「それはどうやろか……」
「でも、それでいいんですよ。喧嘩したら仲直りをして、嫌なところがあったらちゃんと全部言葉にして伝え合いましょう」
「…………」
「獅子道くんとはそんなあたたかい関係でいたいんです。だから、俺のことを信じてくれませんか?」
とにかく必死だった。今にも壊れそうなこの人を繋ぎ止めたくて、自分が何をそんなに必死になっているのか理由も分からないまま、ただ思うがままに言葉を紡いでいた。
「何で、俺なんかにそんなこと言うてくれるん……?」
「貴方が独りで傷付いているところを見たくないから。俺が獅子道くんの居場所になりたい」
「っ……、酷い子やね」
「獅子道くん、」
「ありがと、その言葉だけで頑張れそうやわ。……家にも学校にも居場所なんかないと思っとったけど、蒼人くんがいてくれるなら無敵やね」
柔らかな微笑みが溢れる。俺の言葉が届いたのだと思ったら、ほっとして力が抜けた。それと同時に、自分が腕の中に獅子道くんを閉じ込めたままなことに気づいて、慌てて彼を解放した。ドキドキと鳴り止まない胸の奥に湧き上がる不思議な気持ちに、まだ名前は付けられそうにない。



