「……俺、やっぱり獅子道くんの全てが知りたいです。過去も今思っていることも、全部」
 「……ええよ」
 「っ、ほんとに?」
 「いつか聞かれるんやろなぁって覚悟はしとったし。それに、昼休みから言うとったやん」
 「あれは正直勢いもあったというか、まさか本当に了承してもらえるとは思わなかったというか……」
 「ふふ、珍しい。蒼人くんの方が狼狽えてどうするん」


 しゃあないなぁって、柔らかな微笑みが街灯に照らされる。やっと笑ってくれたことも、心を許してもらえたことも嬉しくて、つい顔が綻んでしまう。


 「近くに公園があるので、そこで話しませんか」
 「蒼人くんは遅なっても大丈夫なん?」
 「親に連絡は入れてあるので大丈夫です。獅子道くんは?」
 「……俺も大丈夫」


 言葉とは裏腹に表情に陰りは見えたものの、その理由を追求することはできなくて、俺たちは他の生徒に出会さないように注意しながら目的地である公園まで足を進めた。


 ◇◇

 「…………」
 「あ、」


 すっかり日も暮れて、辺りは真っ暗。昼間は子どもたちで賑わう公園も、今は人っ子ひとりいない。ベンチに並んで腰掛けるけれど、どこから話し出せばいいのか、隣から少し緊張気味に固まっている空気を感じる。サイズの合ってなさそうに見えるリングがくるすくると忙しなく回されていた。

 どうしよう、何かリラックスしてもらえるようなものはないだろうか……。そう思って、きょろきょろと後ろを振り返って目に入ったのは自動販売機。これだとすぐに立ち上がって、小銭を入れる。ぴっとボタンを押せば、静かな夜にガコンと音が響いた。


 「どっちがいいですか?」
 「えっと……、こっち」
 「だと思いました。どうぞ」
 「あ、ありがとう。……あかんなぁ、俺の方が先輩やのに、気使ってもらってばっかや」


 ココアと緑茶。甘党だっていう獅子道くんなら、絶対にココアを選ぶと思っていた。予想通りの結果になって思わず微笑んでしまうけれど、ネガティブな獅子道くんはまた自己嫌悪モードに入ってしまっている。


 「だーかーらー、年齢なんてそんな些細なこと、そこまで気にする必要ないって」
 「あ、あおとくん……」


 もちもちのほっぺたを摘んで、視線を上げさせる。獅子道くんの瞳の中に自分しか映っていないのを見ると、なんだか胸がすいた。


 「おかねはらう……」
 「いいですよ、これぐらい」
 「でも、」
 「付き合ってもらってるお礼です。年下が言うことじゃないんでしょうけど、俺は年齢とか気にせず、獅子道くんと仲良くなりたいんです」
 「……でも、やって、かっこつけたいやんか」


 そんな理由で、と思わないこともなかったけれど、それを口に出したら獅子道くんが拗ねることは間違いない。態度には決して出すな、と自分に言い聞かせて、名残惜しく思いながらも頬から手を離す。


 「獅子道くんには獅子道くんのいいところがあるじゃないですか」
 「……ないもん」
 「初対面の俺に優しく手当てしてくれたこと、獅子道くんは忘れても、俺はずっと忘れてませんよ」


 不良っぽい見た目とは裏腹に、獅子道くんが誰よりも優しくて、他人思いで、かわいい人だって知っているから。貴方は素敵な人なんだって、もっと自分に自信を持ってほしい。卑下する姿なんて見たくない。


 「それは……、当たり前のことをしただけやん」
 「ほら、人に優しくするのが当たり前なんて、そこが獅子道くんのいいところって言ってるんです。世の中にはそうじゃない人もたくさんいるんですよ」
 「やって、あれは蒼人くんやったってのもあるし……」
 「え?」
 「ち、ちが、今のなし!」


 ぽろっと零された言葉を聞き返すと、焦りに焦った獅子道くんが勢いよく立ち上がる。言葉の真意が気になるけれど、脱兎のごとく逃げ出しそうな様子に、俺はそれ以上追求することをしなかった。