「獅子道くんって、いつも授業が終わる時間になったらすぐに帰っちゃうんですか?」
 「え? あー……、うん、そうやね」


 突然話を変えた俺に困惑した様子の獅子道くんが、長考した後、曖昧に頷く。敢えてそれにつっこむことはせず、それなら、と俺は不意に浮かんできた名案のために質問を重ねる。


 「今日は何か予定がありますか?」
 「ないけど……」
 「じゃあ、俺の部活が終わるまで待っててくれませんか? 今から話すには時間が足りなさそうなので、一緒に帰りましょう」
 「へ?」
 「いつも待たせてばかりで申し訳ないんですけど、俺のこと、待っててくれますよね?」


 我ながら、こんな言い方をしてあざといと思う。だけど、獅子道くんの人となりについては大体分かってきたのだからこうするしかない。ノーと言うのが苦手な獅子道くんが断れないと知っていてこんな言い方をしているのだから、ずるいと罵られたって何も言葉を返せない。でも、獅子道くんと過ごす時間はお昼休みだけだと全然足りないのだから仕方ない。


 「……蒼人くんのいじわる」
 「ん?」
 「なんでもない。……しゃあないから待っとくけど、矢野ちゃんに『帰り』って言われたら先帰るからな」
 「はい、分かりました。じゃあ、連絡先交換しておきましょうか」
 「え?」
 「今までしてなかったのがおかしいぐらいなんですけどね。先に帰るようなら連絡入れといてください」
 「…………」


 ずっと思っていた。獅子道くんの連絡先が欲しいなぁって。そんな俺がこの機を逃すはずがない。スマホをポケットから出して、ほら早くと言わんばかりに無言の圧をかければ、獅子道くんは本当にいいのかなと迷うみたいにゆっくりとスマホを取り出した。躊躇いがちに画面に表示されたQRコードを見せられて、スマホで読み取ってすぐに獅子道くんの連絡先を追加する。多分、こんなに素早く手際よく連絡先を交換したことなんてない。やっぱりやめたと気が変わる前に無事に追加された獅子道くんのアカウントを見て、ほっと息を吐いた。


 「あ、いつでも連絡してくれていいんですからね」
 「……気が向いたら、する、かも」
 「ふふ、今はそれでいいですよ」


 スマホをぎゅっと胸の前で握り締めた獅子道くんの口元が緩んでいるのを見逃さなかった自分を、よくやったと褒め称えたい。そんな嬉しいって丸分かりのかわいい顔、俺の前でしかしないでほしい。


 「じゃあ、また後で」
 「うん、行ってらっしゃい」
 「行ってきます」


 何度目かのやりとりだけれど、その言葉を聞く度に心臓が跳ねた。これで午後も頑張れる。

 あーあ、午後の授業も部活も早く終わらないかな。部活の時間が待ち遠しいのはいつものことだ。でも今日は早く部活が終わって、下校時間にならないかなと考えている自分がいる。

 自他ともに認めるサッカー馬鹿の脳内を占めているのは、悪魔と噂されるかわいい金髪の不良(?)だった。