あんな風に「待っとるね」なんて言われたら、そりゃあもう会いに行くしか選択肢はなくなるだろう。だって俺から行動しないと、獅子道くんの方から俺に会いに来てくれるはずがないし。もっと獅子道くんのことが知りたくて、柔らかな雰囲気の獅子道くんの傍は居心地が良くて、気がつけば勝手に足が保健室に向かっていた。
「こんな毎日来やんでええんよ? クラスに友だちおるんやから」
「俺が会いたくて来てるので。野井ちゃん……、友人も分かってくれてるので、獅子道くんは何も気にしなくていいですよ」
「……蒼人くんは変な人やなぁ」
そう呟く獅子道くんの口角は少し上がっていて、内心喜んでいることを隠しきれていなかった。感情がいつだってバレバレなこの人の過去を知りたい。どうして保健室登校をしているのか。一体いつからなのか。だけど、繊細な話題を口にするのは憚られて、ずっと聞けずにいる。
「あーあ、蒼人くんと話すようになっても、全然標準語身につかんなぁ……」
先にお昼ご飯を食べ終えた獅子道くんが、窓の外を眺めながらぼやく。獅子道くんに出会って以来、一度も彼が標準語を話すところを見たことがなかったから、標準語を話したいと思っていることに意外だと思ってしまう。
テレビで見るお笑い芸人が話すようなコテコテの関西弁とは違う、獅子道くんだけのゆったりとした柔らかくて暖かな関西弁。それを存外気に入っていたので、わざわざ標準語を話さなくてもと思ってしまうのは俺のエゴだろうか。
「どうして標準語を話したいんですか?」
「んー……」
「言いたくないなら話さなくてもいいですよ」
「ううん、ちゃうよ。話したくないわけちゃうんやけど、蒼人くんが聞いても楽しくない話やから……。せっかくの昼休みをこんな話で潰したくないし……」
きゅっと噛み締められた唇。獅子道くんっていつもそうだ。俺のことばかり気にかけて、自分のことは後回し。それが歯痒くて、そうさせてしまっている自分が腹立たしい。
「昼休みじゃなくても、俺は別にいつだっていいですよ。時間ならいくらでも作ります。獅子道くんのことなら何でも知りたいので、悩んでることがあるなら力になりたいです」
「……そんな優しくせんといて」
「え?」
「…………甘えたくなるやん」
「っ、いくらでも甘えてくださいよ」
「あかん、年上やのにかっこ悪い」
「一歳なんてそんな変わらないです。獅子道くんの持ってるもの、半分俺に分けてもらえませんか?」
「…………」
水分量が人よりも多い瞳を真剣に見つめれば、その瞳から感情が溢れ出しそうになる。その前にふいと逸らされたけれど、言うか言わまいか、悩んでいるのが伝わってくる。頑固な人だ。くだらないことなんて気にせず、腹の底に溜め込んでいるものを全部ぶちまけて、俺のことを頼ってくれたらいいのに。



