「獅子道くんとお弁当食べようと思って来ました」
「……いやや」
「はい、俺も嫌です」
「んえ、」
まさか即答で拒否されると思っていなかったのか、変な声が漏れて困惑を隠せていない獅子道くんについ笑ってしまう。
「そろそろ顔見せてくれませんか?」
「…………いやや」
「それはさっき聞きました。ずっと布団の中だと呼吸するのもしんどいでしょ」
「……しんどくないもん」
まるで二歳児みたいに駄々を捏ねている。本当にこの人、俺より年上なのかな。獅子道くんじゃなければこんなに構おうとしない。他の人がしていたらめんどくさいと思うだろうに、獅子道くんなら何故かかわいく見えてしまう。多分、そんなフィルターが付いちゃって、外れなくなってるんだ。
「ふふ、今日の獅子道はイヤイヤ期なんですね」
「…………」
そう言うと、子ども扱いされたことが気に食わなかったのか、獅子道くんがゆっくりと目だけを覗かせる。何も言わずに、じとっと睨み付けられるけれど、ちっとも怖くない。「文句があります」って、視線が訴えかけているようで、不機嫌な猫みたいなそんな行動もまたかわいいを積み重ねていく。
「蒼人くんはな、いっつも不意打ちなんよ」
「じゃあ、あらかじめ宣言しておいたら、何やっても許してもらえるんですか?」
「そ、そうとは言うてへんし!」
「んー、そうですか。それは残念ですね」
「もう、何する気なんよ……」
「言いましょうか?」
「いい、聞きたない」
きゅっと目を細めて、警戒心をとかない獅子道くん。さすがにこれだけぐいぐい絡んでいたら、俺が何を考えているかなんて察しちゃうよなぁ。まぁ、俺は顔色変えずに、ピュアな獅子道くんには想像もできないようなことを真昼間から考えているんですけれど……。でも能ある鷹は爪を隠すっていうんで、今は獅子道くんにはバレないようにしておきますよ。
「怪我してるんちゃうんやろ」
「はい」
「じゃあ、何で来たんよ……」
「言ったでしょ、お昼を獅子道くんと食べたいなと思って来たって」
「それはいやや言うたし、もうええからはよ帰り」
「俺は納得してません。獅子道くんと仲良くなりたいっていう俺の気持ちはこの先もずっと無視するんですか?」
「っ、」
ベッドに腰掛けて、獅子道くんの乱れた髪を指先で梳かせば、泣くのを我慢するみたいにぎゅっと目を瞑る。そんな顔をするぐらいなら、俺のことを受け入れてしまえばいいのに。
「……もう絡まんって、決めたの」
「はい」
「やのに、何でなん……。あかんって言うたのに、何で言うこと聞いてくれへんの?」
「だって、意味わかんないんですもん。別に、俺のことを嫌ってるようには見えないですし……」
「っ、」
「本当に嫌ならちゃんとした理由が知りたいです。嫌われているわけじゃないなら、俺はもっと獅子道くんを知って、仲良くなりたいです」



