「あんな、嫌やってん」
「ん?」
「……俺が保健室登校って、もう知っとるやろ?」
「…………はい」
「蒼人くんにはまだバレたくなかったのになぁ……」
嘘をついて誤魔化したって、この瞳の前じゃ全て見透かされてしまうだろう。一瞬の動揺も見逃さない、そんな雰囲気がある。だけど、俺の答えを聞いた獅子道くんは儚く微笑んだ。寂しそうな、悲しそうな、不安そうな……。そんな声色で独りごちる獅子道くんに胸の奥がきゅっと鳴く。
「別にそれを知ったところで、俺は何も変わらないですよ」
「ふふ、蒼人くんはまっすぐやね」
「…………」
「でも、あかんよ。俺とはもう関わらん方がいい」
「え……?」
穏やかな微笑みを浮かべているとは思えないほど、残酷な言葉。くるくると落ち着かなく回されているリングが、彼の心の不安を表しているみたい。だけど、突然そんな突き放すようなことを言われたって、言葉の意味は理解できているはずなのに、うまく飲み込めない。黒い靄で心が覆われていく。嫌に心臓が音を立てる。
「俺が『悪魔』ってみんなに呼ばれとるって、もう知っとるんやろ? そんな奴と一緒にいたら、期待されてるキラキラのエースまで悪く言われてまう」
「そんなこと、」
「あるんよ。俺な、蒼人くんにはずっとキラキラしててほしいねん。応援してるからこそ、蒼人くんの足を引っ張りたくない。……やから、俺たちが話すのもこれで最後」
何もかもを諦めたような表情をしているくせに、無理に口角を上げてみせる。そんな獅子道くんが憎たらしい。初めて会った時からずっとそうだ。俺ばかり心を乱されて、頭の中が彼でいっぱいになって、気になって仕方なくなっている。それなのに、壁を作って一方的に拒絶するなんて酷いだろう。
「……無理ですよ。そんなこと言われたって、『はい、分かりました』って素直に頷けるはずない」
「え?」
「嘘つきですね、獅子道くんは」
「嘘なんかついてへんもん……」
「じゃあ、ちゃんとこっちを見て、俺のことを『嫌い』って宣言してください。そしたら、俺も諦めます」
「…………ずるい」
「何がですか」
「やって、蒼人くんのこと、嘘でも嫌いとか言えるわけないやん」
「ふーん、そうですか。それ、俺の都合のいいように捉えますけど、いいですよね?」
「ちが、……蒼人くんはいじわるや」
恥ずかしそうに手で顔を隠しながら、上目遣いでこちらを睨んでくるけれど、そんなことをしたってかわいいだけだ。耳まで赤くなっているのもバレバレで、どうしよう、この人がかわいくてたまらない。
もっと困った表情が見たい。俺のことで頭いっぱいにしながら泣いてほしい。こんな風に何かに執着するなんて生まれて初めて。今まで他人に対して考えたことすらない感情がどんどん湧いてくる。



