不良と噂の獅子道くんは、


 「あの子があんなに楽しそうに誰かの話をするの、初めてだったからさ、もしお友だちなら、学年は違えど、いろいろお手伝いしてもらえないかなと思ったんだけど」
 「ちょっと待ってください。いろいろキャパオーバーで……」
 「もしかして、獅子道くんの事情、知らなかった?」
 「はい……、ちょっと頭がパンクしそうです」
 「ごめん、やらかした」


 矢野先生の言っている通り、学年が違うというのなら獅子道くんの方が先輩ってことだ。まさかずっと同い年だと思っていた人が本当は年上だったという新事実に、更なる動揺が隠せない。

 俺は年上の先輩相手に「かわいい」と思ってしまっていたのか。その事実に困惑しないこともないけれど、でもだって、確かにあのときの獅子道くんはかわいかったのだ。感じてしまった感情は、自分相手には誤魔化しがきかない。はぁ……とため息を吐き出しながら顔を覆う俺を見て、爆弾を投下した犯人である矢野先生は「まぁ、言っちゃったもんはしょうがないか」と呑気に開き直っていた。


 「詳しいことは本人から直接聞いてもらうとして、ちょっとだけでいいから、気にかけてあげてくれないかな」
 「まぁ、はい、俺にできることがあるなら……」
 「ありがとう、獅子道くんも蓮水くんには心開いてるみたいだから助かるわ」


 本当に? 矢野先生の言葉にそう疑いたくもなる。だって心を開いているなら、顔見た瞬間に逃げ出さないだろう。もう出ていってから結構経つのに全然帰ってこないし。俺、避けられてるんじゃ……。そう思うと、チクリと胸の奥が痛んだ。


 「話はそれだけだから、蓮水くんも授業戻っていいよ。ごめんね、引き止めて」
 「いえ、失礼します」


 顔を顰めたままの俺を気にかけることなく、呑気な矢野先生は保健室を出ていく俺に向かって手をひらひらと振っていた。ほんの少しだけ名残惜しく思うのは、せっかく会えた獅子道くんと全然話せなかったからだろうか。

 やるせない感情を乗せたため息を吐き出しながら、廊下に出る。ドアを閉めてから、入口の横にしゃがみこんでいる人物の存在に驚いてびくりと体が跳ねた。


 「獅子道くん……?」
 「…………」


 俯いて膝を抱えている彼の名前を呼べば、恐る恐るという様子でゆっくりと顔が上がる。泣きそうな八の字になった眉の下、少し潤んだ瞳。ぱちんと視線がぶつかった。


 「大丈夫? 体調悪いんですか?」
 「…………」


 何も言葉を発さない獅子道くんが心配で跪いて問いかけるけれど、彼はふるふると首を横に振るのみ。体調が悪いわけじゃないならよかったとほっと息を吐けば、大きな猫目が俺を見極めるみたいにじいっと見つめてくる。