夏季インターンシップの研修レポート作成が終了し、久しぶりに締め切りに追われない日ができた。
とはいえ、明後日には実家へ帰ってしまうため、今日は一日中部屋の片付けや荷物の整理をしていた。
一息ついた時には夕方だった。スマホで大福の写真を眺めていると不意にインターホンが鳴る。扉を開けると見知った人が立っていた。
「? 先輩どうしたんですか」
「インターンが終わったら、最高ご褒美デーをあげるって言ったでしょ。今日がその日だよ、サプライズ」
片手にビニール袋を持った丁嵐先輩がいた。
「僕知りませんでした」
「行ったらサプライズじゃなくなるじゃん。準備したからさ、俺の部屋に来て」
断る理由もないためそのまま先輩の部屋へと引き込まれた。扉が閉まると同時にキスをされる。状況を理解した時には身体中の熱が唇に集まったんじゃないかと思うほど熱かった。
リップ音だけが聞こえる。頬には離さないというように手が添えられていた。もう片方の手は後頭部に回されている。触れられた場所が気持ち良すぎて蕩けてしまいそうだ。
「はあはあ」
息を整えていると艶めく唇が耳元でささやいた。
「今日はキス以上のことをするから」
「へ!?」
もうすでにキャパオーバーなのにそれ以上ですか? 急展開で状況の把握に時間がかかっている僕を差し置いて丁嵐先輩は何かを取り出した。
パーンと音がしてカラーテープが目の前に出現する。
「ハッピーバースデー! それとインターンお疲れ様!」
8月24日は僕の誕生日だ。最近はインターンの準備やレポートを書いていたためすっかり忘れていた。
固まっている僕を見て先輩は相当驚いたのだと思っている。
仕切りが取り払われ、テーブルの上にはろうそくが立てられたケーキや豪華な食べ物が並べられていた。
「びっくりした? 秘密で用意したんだ。ケーキとかピザもあるよ。これから映画を見るでもいいし」
「......僕、こんなふうに祝われたの初めてです。いつも夏休み中に誕生日が終わってしまうので」
学校で友達に祝われる期間にない誕生日。それを恋人に祝ってもらえるなんて嬉しいなんて言葉だけじゃ表せそうにない。
「先輩ありがとうございます。嬉しいです」
抱きつくと同じように体を抱きしめ返してくれた。温もりを感じて胸がいっぱいになる。
気がつけば涙を流していた。先輩の方に顔を埋める。
「落ち込むこともあったので、余計に嬉しいです」
「古川くんは頑張っていたもんね。お疲れ様」
涙声に気がついても気にせずに答えてくれた。
「それに三谷先生が元彼だって聞いて、モヤモヤして」
「そうだったの? 三谷さんとはもう、そういう関係じゃないよ、安心して」
「それでもです! 好きな人のことだから気になってウジウジしてしまうんですよ!」
最後は気持ち大暴露大会になってしまった。呆れられたかな、急に泣き出して引かれたかも。
肩から顔を離して顔を見ると、幸せそうに頬を緩めた先輩がいた。
「どうして笑っているんですか」
「俺愛されてるなって思って嬉しくなってた」
「気づいてなかったんですか!? 僕が先輩のこと大好きなの」
「それは知っていたけどいざ目の当たりにするとまた違うというか」
ソファに座ってキスをする。今までは唇を合わせるだけだったけれど、先輩が舌を絡ませてきてそれに答えた。
舌の感覚が鮮明に感じられて夢中になる。
「ストップ、古川くん。このままだと料理が冷めちゃうよ。せっかくだから......」
「駄目ですか? 僕がもっと先輩とキスしたいって思っちゃ」
「へ!? 俺としては大歓迎だけど、いいの?」
「先輩は僕をなんだと思っているんですか。れっきとした男なので好きな人に触っていたい気持ちならいつでもあります」
「最高だね、古川くん」
そのままベッドに連れてかれる。
熱っぽい瞳に見つめられて妙な背徳感があった。
互いに触れるたびに愛を囁き合う。
「京介、好きだよ」
「名前......」
「うん、京介も呼んで?」
通常の何倍も甘い声に心が溶かされていく。幸せで満たされる。
「そ、蒼樹」
「うん、いい子」
先輩にいい子と頭を撫でられることに悪い気はしない。
好きという言葉が心と体に沁みていく。
熱に混ざり合いながら夜にまで溶けていった。
......
「おはよう」
「おはようございます」
前日の夜は恥ずかしいことをたくさん口にした気がする。恥ずかしくなって顔を背けた。
「顔むけてくれないの」
「恥ずかしいので、今は無理です」
「でも俺は京介の顔が見たいよ?」
ねだるような声を出す。僕が先輩のお願いに弱いことは知られているようだ。
「こっち見た」
当たり前のことなのにまるで特別なことみたいな反応をする。そんな一面を見るたびに愛おしさが溜まっていくのだ。
これからも先輩との日々は続いていく。実家へ帰る時に先輩も数日遊びにくることが決定している。
未来がどうなるかは誰も予想できない。だからこの大切な今を精一杯大切にするんだ。



