校舎の窓の外を見ると彼方おちかたと海晴の姿が目に入った。
授業の移動なのか、渡り廊下でふたり仲良く歩く姿。それが俺は何だか気に食わない。
腹の底からふつふつと感情が湧く。
「柚希?」
俺がボーッと窓を眺めているせいで忠春は少し心配したような声色。
「ほら、あそこ 海晴と彼方」
窓の外を指さす。
「あ、本当だ 仲良さそうだね」
「だな…」
俺の素っ気ない態度に忠春は何かを勘づく。
「何?気に入らないの?」
「…まあ…」
あのふたりを見ていると達城の事を思い出す。彼方の隣にずっといて、誰も寄せ付けないように周りを睨んで、ずっと警戒して、世界にはふたりしか居ないような顔をして生きていた。そんなあいつの顔を俺は忘れられない。
「ふーん なんで?」
「…なんとなく」
「なんだそれ」
海晴はきっとただ友達として俺らと接するように彼方と接してるだけだ。それ以上でも以下でもない。
だけど彼方はきっと違う。
今でも忘れられないあの記憶。
『お前ら…死にてーの?』
中学の時、達城にボコボコに殴られ半殺しにされた数人の同級生達の姿を…。
夕暮れの放課後の教室に血を流しながら倒れる人を…。
『お前…何してんの…?』
あの達城の目を…。
『…真雪にちょっかいかけたから殺そうと思って…』
その言葉が嘘でも冗談でもなく、本気だと分かったから、だから怖くなった。
『…朱雨』
『……は?』
その時教室の角の暗闇から彼方が現れた。こいつはずっと見ていたんだ。達城がこいつらの事を殴る所を…。止めもせずただずっと…。
『…もういいよ。朱雨ありがとう』
そう言って彼方は後ろから達城を抱きしめた。
そのふたりを見て、正気じゃない。こいつら正気じゃないと思った。
簡単に人を殺そうとする達城もそれを止めずにただ眺めていた彼方も。 あいつらは異常だった。
海晴かいせいが彼方が言っていたという『殺した』発言。まあ事実とは異なると思うが絶対しないと言いきれないのがあのふたりだ。
だから俺は彼方が海晴といるのが許せない。


