昼下がりの教室、強い日差しが窓から差し込む。
黒板の前で授業をする教師の声は頭に全く入らない。俺はさっきの真雪の言葉が頭から離れなかった。
『俺が朱雨を殺した』
殺した?殺したって本当に…?そんなはずないだろ…。それこそ嘘だ。
「……殺した…」
俺はバッと隣を見る。真雪はノートにしっかり板書していた。
やべー、声に出てた…。聞こえたかと思った…。
そしてもうひとつ。
『俺と朱雨は付き合ってた』
付き合ってたって…。
ってことは真雪は同性愛者って事か…?まあ、今の世の中そんな事は珍しいものでも無い。でも…俺今まで出会った事ないぞ。
真雪はその恋人を殺したって確かに言った。もうまじで意味わかんねー。恋人殺すか?つか殺したって表現どうなんだよ。
その事を考えるばかりで気づいたら午後の授業は終わりを告げていた。
帰る支度を終えて、最後に何か真雪に声をかけようと
「…真雪」
名前を呼んだが真雪はさっさとカバンを持って教室から出て行ってしまった。
その背中をみて、思った。
俺は何て言葉をかけようとしていたのだろうかと…。
「おーい、海晴 帰るぞ」
自分の名前を呼ぶ声がして、教室の扉へと視線を向けるとそこには柚希と忠春がいた。その二人の顔を見て何だかホッとした。
「柚希〜!忠春〜!」
「は?」
いつものファミレス。俺は自分の中でこの事実を抱えるには荷が重すぎて真雪の事を二人に話してしまった。
「え、その話本当?彼方がそう言ったの?」
柚希も忠春も瞳には動揺の影が映る。
「うん、朱雨を殺したって。はっきりそう言ったんだよ」
「はあああ?嘘に決まってんだろ」
「ユズ…」
「確かに、あいつが亡くなったっていう噂は確か…去年の夏に流れた」
「…去年の夏」
「でも、去年の夏は彼方おちかた普通に学校来てたよね?」
忠春は顎に手を当て考える。
「そうそう、普通だったんだよ。それはもう普通。何も変わらん それに本当に殺してたら、警察に捕まってんだろ」
柚希のその言葉に確かにと安堵する。そして真雪まゆきの去年の姿が安易に想像が出来た。感情が表に出るタイプではない真雪はきっと何ら変わりない様子だったんだろう。
「でも本人がそう言ってたなら、そう思う何かがあったって事なのかな」
「つかあいつが亡くなったとか信じられねーわ。なっ、忠春」
「うん、なんかそうだね…」
二人の話からすると相当信じられない事なんだそうだ。俺は達城朱雨という人物は全く知らないし、ましてや真雪の事もまだまだ何も知らない。
そしてもうひとつ…
「…あと、」
「あと?」
「…朱雨と付き合ってたって…」
「はあああ!?げほっごほっ」
「ちょ、ユズ大丈夫?ほら、コーラ飲んで」
俺の言葉を聞いて柚希はポテトで喉を詰まらせた。
「あ〜もう、大丈夫かよ…」
俺は呆れたように柚希に声をかける。
「そ、それも本人から聞いたのかよ」
「うん、確かに言ってた」
「はぁぁぁあ、まじか…まじか…」
「まあ、そう言われても不思議じゃないよね。あの二人は…。」
「そんな感じ?」
そして忠春は困ったように笑った。
「確かにあの二人はずっと一緒だったよ。なんかふたりだけの世界?って感じで…ちょっと異質だったよ」
「ふーん」
「あー!なんか妙に納得だわ!でも…」
「でも?」
「俺から見たらお互いがいないと生きてけない程依存してたように見えてたから亡くなって彼方の傍から離れるのも達城から離れて生きてる彼方もそういう行動出来たんだって驚きだわ…」
傍から見てもそう思う程ふたりの仲は誰も入り込めない異質なものだったのだろう。
なのに…俺は思う。あの時の真雪の表情は少しホッとしたような安心したようなそんな顔をして、俺に言った。殺したと…。
恋人が亡くなってするような顔じゃなかったのは確かだ。


