梶野くんからの電話を切った翌日俺はバイトに来ていた。本当は梶野くんとの予定がありバイトは入れていなかったがひとりで家にいてもする事もない為シフトを急遽入れてもらった。こういう時人手不足のバイト先は有難い。
いつも通り言い慣れた言葉を並べ淡々と仕事をこなす。慣れてしまえばそんな大変な仕事でもない。気づくともう退勤の時間が迫っていて今日も何事もなく一日を終えた。帰る支度をして店を出る。店を出ると空はもう暗くていつも通りの夜道を歩く。歩き慣れた道、ポケットから携帯を取り出し適当に携帯を触りながら歩く。特に何も考えず…。
そして俺は気づいた。俺の後ろを付いてくる何者かの足音。ただ歩く方向が同じなのかと思ったが俺が歩く速度を遅くしたら相手も遅くなる…俺が早足になると相手も早足になる…一定の距離を保っているのが分かった。気のせいじゃ…ない?気配だけ感じるのが気持ちが悪い…。
そう思った瞬間心臓が早くなるのが分かった。
手が震える…呼吸が浅くなる…。
「…はぁ…はっ」
怖いってこういうこと…?
俺は角を曲がった瞬間思いっきり全力で走った。後ろを振り返る余裕なんてなくてただひたすら走った。乱暴にアパートの階段を上がって震える手を必死に抑えて玄関の扉の鍵を開けて思いっきり扉を閉めた。
「…はぁ…はぁ、はぁ」
久しぶりの全力疾走に呼吸が乱れる。
カチャ…鍵かけ扉に背中を合わせるようにズルズルと腰が抜けたようにしゃがむ。
「…なに…今の、」
震える身体を自分で抱きしめるようにぎゅっと小さくなる。ただ追いかけられただけ…それだけだ…それだけなのに…なんで、こんな怖いと思ってしまうんだろう?夜だから?昼間ならこんな恐怖を感じることもない?いや…違う。何者か分からない者に後をつけられるのはいつでも怖い…。きっと時間なんて関係ない。
「…こわ、かった…」
自分にしか聞こえない声だった。
それから数日その気配はずっと俺の傍にあった。


