「えー、今日で長期休みに入りますが今配ったプリントの注意事項は必ず守り馬鹿な事で学校に連絡が入る様な事はしないように、以上ホームルーム終わります」

生徒が起立し礼をして担任の教師はそう告げ教室を去った。
教師が去った教室ではテンションが上がった生徒達で溢れかえった。
今日で学校は終わり、明日からは夏休みが始まる。部活もしていない俺はバイト尽くしの夏休みになる予定だ。
俺はチラッと真雪に目を移す。
真雪は貰ったプリントをカバンの中に入れた所だった。何か話しかけなければと思えば思う程言葉が出てな来ない。何か発しなければとカラカラの声が宙に舞う。すると真雪は帰る支度が整ったのか席を立ち教室の扉へと向かった。

「…ぁ」

名前をいつも通りに呼べばいいのに何故か喉に引っかかって出てこなかった。
真雪の背中をただ眺めるしか出来ない自分に何だか腹が立った。

「海晴ー!」

名前を呼ばれ声がする方へと顔を向ける。声の主は教室の扉の前にいた柚希と忠春だった。

「柚希〜忠春〜」

俺は二人に甘えるように駆け寄る。

「お前、彼方行ったぞ 今日はいいのか?」

柚希の純粋な疑問に眉が八の字になる。最近は柚希と忠春と放課後を過ごすことは少なくなっていた。真雪と一緒にいる事が多かったからだ。

「なんかあった?」

忠春の言葉に俺は大きく頷いた。
















「はああああ?抱きしめたああ?」

いつものファミレスいつものメンバーで店内には柚希の声が響いた。
俺は恥ずかしさとも何とも言えない感情が募り顔を下に向ける。

「お前さ〜たくっまんまと乗せられてんじゃねーか」
「でもでもただ抱きしめただけだよね?友達同士のハグ的な感じだよね?」

忠春の優しいフォローに俺は首を傾げた。
あれはただ友達としての感情だったのか…それとももっと違う何かの感情だったのか…。ただ失いたくない…失いそう…そんな不安が募り気づいたら抱きしめていた。

「………」

目線を逸らし俯く俺に柚希と忠春は戸惑う声が出た。

「あ゛?」
「え?」

そして柚希が言葉を紡ぐ。

「お前彼方の事好きなのか!?」
「……っ」

柚希の言葉に頭を抱える。肯定も否定もできない感情に戸惑っているのは俺自身もだ。

「…柚希声大きい」
「…ぁ、悪ぃ」
「…好き…好きなの…か?」
「いや、聞かれても知らんわ」
「ん〜よく分かんねーまじで」
「…海晴」

俺の悩む顔に忠春は心配の声色になる。

「…まじでそういう感情なのか、違うのか…自分でも分かんないんだよ」
「…ちっ…あぁ!あれだ!あれ!」

急に話す柚希に首を傾げる俺と忠春。

「お前は俺らが彼方と同じような事を言ったらどうするんだよ、同じように抱きしめるか?」
「…抱きしめ…る」

俺は一瞬考えた。柚希が…忠春が…真雪と同じようなことを言ったら…。

「……やばい想像出来ない」
「たくっ何だよ!お前は!」
「…でも」
「でも?」
「抱きしめはしないかも…しれない…」

俺のその言葉に忠春は口を開いた。

「それが答えだよ、友達の俺らと彼方との違い」
「…違い」
「…少なからず海晴の中で彼方は特別だよ、それが恋愛感情なのか…とかは置いといて」
「…特別」

忠春の言葉は心にスっと入ってきた。

「あんまりごちゃごちゃ考えんなよ、お前のキャラじゃねー」
「海晴はもっと単純でいいんじゃない?いつもそうでしょ?」
「…単純…そうか…単純か…」

何だか腑に落ちた。考えすぎて訳が分からなくなっていた。もっと単純で良かったんだ。

「そう、だよな!だよな!おっし!ありがとう!俺行くわ!」

そう言ってドリンクバーの小銭だけ置いて俺はファミレスを後にした。