「…痛っ」

指からすーっと流れる赤い血。
俺はそれを止血するでもなく指に垂れていく血を無感情で眺める。
その血がポタッとノートの端に垂れた。
それを合図に指から目を離し、ノートの端に落ちた血をティッシュで拭う。
今更拭っても、もうノートに染み込んだ血には何の意味もない事は分かっている。
そしてノートの端を拭ったティッシュで指を止血する。
平日の夕方、今日はバイトが休みの為夕陽が入る自室で宿題をしている時プリントの端で指を切った。
切った指をティッシュでぎゅっぎゅっと握り、それをボーッと眺めていると祭りの後の帰り道の梶野くんの事を思い出していた。

あの、不安そうな梶野くんの顔。
それが忘れられなかった。
俺はいつも気づいたら相手を試すようなそんな行動をしてしまっているのは自覚している。

「……辞めなきゃな…そういうの」

誰もいない部屋にぽつりと呟く。
辞めないと行けない、そんな事をしなくても誰かと関係を築けるようにしなくてはいけない。
そんな事もうずっと前から思ってる。
なのに気づいたらしてしまうのだ。
こんな俺でも傍にいてくれるのか…と。
全てを知っても変わらずそこに居てくれるのか。
それが朱雨だった。朱雨はずっと傍に居てくれた。居てくれたのに…それを、俺は…。

「…頭痛い」

そんなもうどうしようもない事をぐるぐると考えていると頭が痛くなってきた。

『真雪、俺は何があっても傍にいるから』

朱雨の言葉が蘇る。

「…だからだよ」

『絶対俺からは離れない』

「…だから、逃がしたんだよ」

もう意味の無い言葉をただ呟いた。
梶野くん…君は真実を知っても俺を人殺しじゃないとそう言い切れる?
伝わるはずのない言葉を心の中で呟く。
梶野くんは優しいからきっと困った顔をしながらも人殺しじゃないと言うんだろうな。
そんな気がする。
ただの勘だけど…彼ならそう言いそうな気がするんだ。