「それで思わず抱きしめたと…」
「…うん」

放課後いつものファミレスで俺は橘と向かいあっていた。
真雪と祭りに行った日の夜から俺は悶々とした感情を抱えつつ週明けの月曜日を迎えた。
当の本人である真雪はいつもと変わらない様子で、こんなに動揺しているのは自分だけだった。誰にも相談できず、自分の感情を消化しきれない俺は橘に連絡を取り相談に乗って貰っていた。前回会った時、橘から連絡先を交換しようと言われ多分こちらから連絡はしないだろうなと思いつつ交換していて本当に良かったと心底思う。

「まあ、海晴さんがそういう行動を取ってしまったというのは分からなくもないわ」

予想外の橘の言葉に顔を上げた。
橘は目の前のコーヒーを一口飲みコーヒーカップを机の上に置く。

「あの子…真雪は、何て言うか…人を不安にさせるのよ」
「不安…」
「本人はそんな自覚はないと思うんだけど、ちゃんと掴んでないと消えそうな、そんな雰囲気を感じない?」

その言葉に俺は頷いた。
あの泣きそうな笑顔を見て不安が募った。
このままひとりにしたら何か良くない事が起きるんじゃないかって不安でたまらなかった。

「…昔からそういう雰囲気はあったのは確かよ、でも朱雨が亡くなってからより一層強くなった気がするの」
「…それって」

よくない言葉が頭をよぎる。
俺の言葉に橘の顔が明らかに曇ったのが分かった。

「…分からない、けどそんな不安定さはあると思ってる 私の思い違いならいいんだけど」
「…真雪って」
「うん?」
「真雪って、昔何かあった?」

俺は『…昔からそういう雰囲気はあったのは確かよ、』この橘の言葉が引っかかっていた。

「…ん、私の口からは言えないけど」
「…そう、だよな ごめん」
「でも真雪の小さな変化に気づいてくれる人が傍に居てくれるというのは本当に心強いわ」
「………」

言葉が出ない俺に橘は言葉を紡ぐ。

「友達…として、でもなんでもいいの」
「…?」
「ただ、真雪から目を離さないでほしい」

そう言った橘の目は本気だった。