祭りの帰り道。
暗い空の下、ただ無言の時が流れる。
俺はただ何も話さない真雪の隣を肩が触れるか触れないかの距離を歩く。
この沈黙に何を話せばいいのか分からない。
今日の真雪は柔らかくよく笑っていたと思う。
チラッと横を見ると空を眺める真雪がいた。

「…花火綺麗だったね」

その横顔に見とれてすぐに反応が出来なかった。

「お、おう!綺麗だったな!」

裏返る声が少しだけ恥ずかしかった。
真雪はそんなことには反応せず、ただただ暗い空を眺め続けていた。

「………」

ピタッと止まった真雪の足に俺も歩みを止める。

「俺…」

真雪の小さな声に俺は耳を澄ます。
何故か聴き逃してはいけないと思った。

「花火があんなに綺麗だなんて、はじめて知った」
「…………」
「ありがとう、梶野くん 今日楽しかった」

そう言って真雪は俺に柔らかい笑顔を向けた。
笑顔だった、ただの笑顔だ。
なのに、何故か泣きそうなそんな顔にも見えた。ただの夏の花火を見ただけだ。なのに何が真雪にそんな顔をさせるんだ?


「…ま、ゆ」

俺は気づいたらぎゅっと真雪を抱きしめていた。

「…梶野…くん?」

真雪が不安そうに俺の名前を呼ぶ。
何故か抱きしめたくなった、抱きしめなければ真雪が消えるんじゃないかって…。
俺の震える手は真雪の手首を掴む。

「…どうしたの…梶野くん」

何も言わない俺に真雪は不安の声を上げる。
そして真雪はそっと俺から離れ、顔を覗く。

「…ごめん、何か変な事言っちゃった?俺…」
「…違う、いや…俺の方こそごめん」

自分が何を言いたいのか分からない。
何を伝えたいのか…真雪から感じた何かを言葉で表せない。

「ふふ」

その瞬間、真雪は笑った。
その声に俺は真雪を見る。

「梶野くんは優しいね」
「…ぇ」
「ごめんね、ただ感想を言っただけだったんだけど…何か不安にさせちゃった?」
「…不安ってか…」
「…うん」
「…何か」
「死にそう?」


その真雪の言葉を聞いて心臓がドクンっと鳴ったのがわかった。
俺の不安そうな顔を見て真雪はまた笑う。

「本当に優しいなあ、梶野くん…さっ!帰ろう、もう遅いから親御さん心配しちゃうでしょ」

そう言って真雪は俺の前を歩いていく。
ただの会話なのに…俺を不安にさせるには十分だった。