「…ぁ」
「ん?どうしたの?」
莉佳子さんは店の外に視線を向け眉間に皺を寄せた。
「ほらあそこ」
莉佳子さんの視線の先には帽子を深く被った黒いパーカーを来た男が立っていた。
…あの人
「またいるよ、あの人何なのかしら」
「最近よくあそこにいるよね、何か怖いなあ どうするかなあ 今は何も無いとは言え 何かあってからじゃ遅いし 警察に通報した方がいいかなあ」
「そうね、相談してみる?言っても動いてくれるのかしら?」
店長と莉佳子さんは困った顔をしていた。
「彼方くん 気をつけてね」
「でも、まあ男なんで、大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃないよ!今は男だろうが女だろうが関係ない世の中だよ!」
店長は俺の肩をガっと掴み慌てた顔で言ってくる。
「そうよ!今は男でも襲われる世の中よ!本当に気をつけてね!帰りとか特にね!」
横から莉佳子さんも加勢し、店長はうんうんと大きく頷いた。
男でも襲われる…。
その言葉が何故か引っかかった。
「お疲れ様でした お先失礼します」
「彼方くん!お疲れ様!帰り気をつけて帰ってね」
「はい、ありがとうございます」
少し心配そうな顔をする店長に会釈をして店から出る。外はもう暗くて控えめに光る星を眺める。
『綺麗だな』
朱雨のあの日の声が蘇る。
今日みたいな何ともない日、いつもは星を眺めるなんてそんな事はしない。なのにあの日 朱雨は星を見ながらそう言った。
珍しいと思った。何かを見て綺麗だなんて、今まで一緒にいて聞いた事がなかったから…。
だから覚えている。あの日の 朱雨の横顔を…。
「あれ?真雪?」
声が聞こえた方へと顔を向ける。
そこには梶野くんの姿があった。
「…梶野くん」
「バイト帰り?」
「うん、今終わって」
「俺も俺も、途中まで一緒に帰ろうぜ」
その笑顔の梶野くんの姿にほっとした。
「うん」
暗い道を何気ない特に意味の無い雑談をしてただただ歩いた。
自然と笑顔になる自分がいる事も梶野かじのくんといる時は朱雨しゅうの事を思い出さずに居れる事も気づかないふりをして蓋をした。
忘れるには早すぎる。
俺はまだ罪を償っていないのだから。


